【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜 第11話
第11話 テスト
オリバーは、森に入る前に、ふーっと大きく息を吐いてからみんなに向かって話しかけた。
「じゃあ、これからこの森に入って行くんだけれど、その前にみんなにテストをしてもらう」
リリーは不思議そうに聞き返した。
「テスト?」
オリバーは軽く頷いて、
「この森は、【囚われの森】と呼ばれている。けれど、なぜそう呼ばれているのかまでは、あまり知られていない」
「森に行った人がみんな帰って来ないからじゃない?」
ジャンが妥当な考えを言った。
「そうなんだけれど、正確には森のある地点で囚われる」
「ある地点?」
「ああ。ある地点なんだけれど、いくつかあって、その場所はその人の特性によって変わってくる」
「人によって囚われる場所が違うの?」
リリーがそう聞き返えすと、興味を持ったウィリアムが、ずいっとオリバーに近付いて聞いた。
「どういう事だ?」
オリバーは、ウィリアムの顔の前に手を出し、離れてくれという仕草をして話を続けた。
「人間には、五感が備わっているのは知っていると思う。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。まあ、細かく言うとまだあるけれど、今大事なのは、この五つだ。どの感覚をより多く使うかはその人のクセのよって異なってくる。そのクセを理解することがこの森を抜ける重要なポイントになる」
「え? 訳わかんないよ。どういう事?」
今度はジャンが質問した。
質問が多い事に、少し面倒くさそうにオリバーは返した。
「うん。だから順を追って説明するよ」
ジャンが説明を待てずにまた質問をした。
「そもそもその感覚って人によって違うの? ……どれを多く使うかで言ったら、視覚とかじゃない?」
オリバーは言いたいことをまた飲み込んだ様にして、ふーっと大きなため息をついて説明を続けた。
「まあ、そのタイプは確かに多い。けれど、音で物事を捉えるのが得意な人や、手で触れた事を認識しやすいタイプもいる。理屈より体で覚えるタイプの人っているだろう?」
ジャンは顎に手を当て、想像しながら頷いた。
「そう言われたら何となくわかる。……けれど、自分が何を一番使っているかなんて分からない」
オリバーは話が進まない事に、少し苛立ちながら返した。
「だからさっきテストするって言っただろう。……ただ、リリー、君は妖精だからこのテストがそのまま使えるかは、よく分からない。妖精は第六感が発達しているとも聞くからね」
「第六感って何だい?」
今度はウィリアムが気になって質問をした。ジャンも、もちろん同じ事が気になっていた。
オリバーは質問が多い事に、しょうがないと少し諦め始めていた。答えていかないと話が先に進まない。
「簡単にいうと、直感が鋭かったりするって感じかな」
ヘぇ〜。という顔をしてジャンとウィリアムはリリーを見たが、リリー本人は、
「ふーん。私にはよく分からない」と、自覚が無いという様な返しをした。
オリバーは、質問の嵐がひと段落して話を続けた。
「まあ、とにかくテストを始めよう。まず、目を閉じて。……リラックスして、僕の声に集中して」
そう言われて、みんな緊張しながら目を閉じた。
「次に、それぞれ猫をイメージして」
みんな、静かに目を瞑っている。
ジャンは難しそうに眉間にシワを寄せながら。ウィリアムは穏やかな顔で。リリーは楽しそうに。
「……」
「……イメージ出来た? じゃあ、もう良いよ。目を開けて。テストは終わりだ」
「え? もう終わり? 何それ。こんなので何が分かるの?」
ジャンは、あまりにもあっさりと終わったテストに驚いていた。
その反応はオリバーにはある程度、予想がついていた。
「ジャン、君はどの様に猫をイメージした?」
ジャンは少し考えて、
「普通に、黒い猫がこっちを見ている感じかな?」
「そうか。リリー君は?」
「私は白猫。それで、猫の匂いがしたわ」
ジャンは、えっという顔でリリーの方を見て言った。
「匂い? 猫をイメージしてって言われただろう?」
リリーは、何がいけないの?という顔で返した。
「だから、イメージしたら猫の匂いがした」
その答えに、信じられない様子でジャンは言った。
「嘘だろ? 匂いなんかするのか?」
オリバーは、また話が長引きそうだと思いながら、ジャンに言った。
「だから、人によって感覚は違うと言っただろう。ウィリアム君は?」
「私は、膝の上でフワフワの毛並みを撫でていた。とても触り心地が良くて可愛い猫だ」
ジャンはまた質問したかったが、オリバーの顔を見て空気を察し、もう質問するのをやめて説明の続きを待った。
オリバーは頷きながら、
「そうか。分かった。……じゃあ、テストの結果を伝える。……人間は五つの感覚でも、特に視覚優位タイプ、聴覚優位タイプ。身体感覚優位タイプに分かれる。視覚、聴覚以外の嗅覚、触覚、味覚は全部最後の身体感覚優位タイプに分類する」
「今ので、それが分かったって事?」
「そう。ジャンが視覚優位タイプ。リリーが身体感覚優位タイプ。ウィリアムも身体感覚優位タイプだ」
どれが良いのだろうかと、ジャンは、う〜ん。と考えていた。
「オリバーは何だったの?」
リリーが質問をした。まさにそれをジャンも聞いてみたかった。
「僕は聴覚優位タイプだ。……それで、この森はさっき言ったある地点で、この三つのタイプそれぞれ囚われてしまう場所が変わってくる」
囚われてしまう場所を聞き逃すまいと、みんな真剣に話を聞いていた。
オリバーは、安心して話を続けた。
「初めの森が、多くの人が留まってしまう【囚われの森】。ここは、視覚優位タイプが危ないから、ジャンに特に気を付けて先を進もう。次の森が、あまり知られていない、【強欲の森】。身体感覚優位の人、ウィリアムとリリーに気をつけて。最後が、ほとんど辿り着く人がいない、【記憶の森】。ここは、残った聴覚優位の人が……と、順番だと言いたい所だけれど、ここも身体感覚優位の人、特に嗅覚が鋭い人が危ない。この三つの森を抜けると、扉のある場所に辿り着ける」
「危ないって、何があるの?」
「それは、行ってみれば分かる。僕も情報を集めただけで、実際に行くのは初めてだ」
そう言うとオリバーは、改めて森の入り口へと足を進めた。