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【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第27話
第27話
海の中には僕から見ると、大きく分けて二種類の生き物達がいた。
華やかな色をした人魚。
優雅にゆったりと過ごす生き物達は、夢の世界の様だった。
もうひと種類は、色がくすんでいて、単色で、目つきのするどい人面魚。
彼らは食料を必要とするのか、お互いを喰いちぎり無残にも争い合っていた。
不思議な事に、同じ場所にいても人魚は彼らに脅かされることは無かった。
その、人面魚達にとって僕らは何か毒の様なものでもあるのだろうか。
不思議と混ざり合っている二種類の生き物達は同じ海の中で存在した。
別世界の様に。
人魚は眠くなる事も無かった。
ただ、岩に腰を下ろし、ゆったりと過ごしている人魚は多かった。
僕は、人魚の生活をしながら妖精のリリーに想いを馳せた。
きっと彼女もこんな気持ちで毎日を過ごしていたのだろう。
今なら彼女の言っていた、「人間の方が、怒って、泣いて、笑って。お洒落して。楽しそう」と言っていた言葉の意味が分かる気がする。
僕は何もしなくていい妖精の方が羨ましかった。
僕もそんな人生ならと望んでいた。
なんの為に生まれたのか、自分の存在の意味を必死に探していたリリーの気持ちに、今になって寄り添えた気がする。
今の僕は、この世界の洗濯機の様なものだ。動き回る洗濯機だ。
汚れたものを綺麗にする。
そしてまた汚れたものを取り込む。
ただその繰り返しだ。
他に存在の意味は無い。
そのうちに僕も、あのリリーの様に同じ疑問を胸に抱えながらこの世界を彷徨い始めるのかもしれない。
何のための人生かと。