【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第22話
第22話
僕は、彼女のその誘いの答えに迷いはしなかった。
彼女を止めたいとも思った。
けれど彼女の目はもう決心していた。
それなら、僕の答えは一つだ。
彼女が行くと決めたのなら、僕が行かないという選択肢は無かった。
もう僕は、目の前にいるリリーを失いたくは無い。
……彼女が一人で勝手に消えてしまわなくて良かった。
僕を誘ってくれて本当に良かった。
「行こうか。一緒に」
そう答えると、彼女はとても嬉しそうに笑った。
僕らは誰にも言わずに、二人であの海に向かった。
海は夕陽に照らされ赤く染まり、優しく波うち、まるで僕らに手をこまねいている様だった。
僕は正しい選択が出来ているのだろうか。
僕は、今度こそ君を守れるだろうか。
リリーは波打ち際に立ち、またあの歌を歌った。
赤い海からその歌に応える様に、神々しくアンナが現れた。
「アンナ、私……」
そうリリーが言うと、アンナは、
「決まったのね、覚悟。……彼も一緒に?」と言って僕の方を見た。
僕は、静かに頷いた。
アンナが優しく笑い、海に向けて大きく手を振った。
すると海が割れて、道が出来た。
リリーは、覚悟を決めた顔でその道を歩き出した。
僕もリリーに続いた。
僕らが歩き進めると、海は大きな門を閉めるように後ろの道は海で閉ざされた。
アンナは海の中を泳ぎながら僕たちを奥へ奥へと誘導した。
ずっと歩き続けてどれくらいだろう。
割れた海の断面には色々な海の生き物が見えた。
もちろん人魚も。
海の生き物を見渡しながら僕らは歩き続けた。深く、深く潜る様に。
数時間歩き続けて、色鮮やかなサンゴ礁に囲まれた場所にたどり着いた。
そうすると僕らを円で囲む様にして周りがぐるりと海になった。
アンナが、「ここよ」と言うと、色鮮やかで巨大なサンゴ礁の奥に何かが動くのが見えた。
現れたのは、半身タコのお爺さんだった。