【小説】 猫と私 第2話
第2話
大学生になってからカフェでバイトを始めた。
高校生の時も、スーパーでレジ打ちの仕事をしていたけれど、バイトが出来る時間も増えて今度は大学の近くのカフェに挑戦してみた。
スーパーの時より時給もよく、日数も多く出ることが出来た。
でも、覚える事が多くて大変だった。特に大変だったのは決まり事が多い事だった。
私は決まり事が苦手だ。
普通分かるでしょ。と言った事で怒られた。
私には、みんなの言う『普通』があまり分からなかった。
私は『普通』や『当たり前』という言葉がいつも窮屈で息苦しかった。
何でなんだろうと思う事も多かった。
けれどみんな気にしていない様だった。
当たり前の事は当たり前だ。
怒られながらも頑張って働いて貰った、高校生の時より多めのお給料で、真っ白なワンピースを買おうと思った。
私は、いつもは入らないずっと憧れていたお洋服屋さんに買い物に行った。
そこのお店はいつもお母さんに買ってもらうお店と違って、入るだけでドキドキした。
私は、私と同じくらいの背丈の可愛い店員さんに声をかけた。
「白い、フワフワしたワンピースはありますか?」
初めてのお店だったのと、憧れのワンピースを買うというので、少し緊張していた。
「こちらはどうですか。白と黒の二色展開になっています。白はとても人気で、ここに出ているのが最後の1着です」
と、私に取り出して見せてくれた。
私は、フワフワのワンピースを目の前にして嬉しかった。
「試着、してもいいですか?」
店員さんは、
「もちろんです」
と言って案内してくれた。
試着室に案内されて、私の期待値は最高潮に達していた。
「では、こちらを……」
ワンピースを手渡しながら可愛い店員さんの視線は私の胸元あたりでピタリと一瞬止まった。
それから店員さんは、にこりと笑って私にワンピースを優しく手渡してくれた。
私はワンピースを受け取って、そのワンピースで胸元をさりげなく隠した。
ドアが閉められたのを確認して私は自分の胸元あたりを見てみた。
私の着ていた白いTシャツには、ずいぶん前に食べこぼしたシミがうっすら点々と付いていた。
私はそのTシャツを、ささっと脱いでワンピースを着た。
とてもイメージ通りの素敵なワンピースだった。
私は着替えて店員さんを呼び、そのワンピースで胸元を隠しながら
「これの黒、ください」
と言った。
私は頑張って貯めたバイト代で、黒のフワフワのワンピースを買って帰った。