【小説】 紅(アカ) 別の世界とその続き 第24話
第24話
僕も姿が変わり終えたが、半身も魚になっていなかった。
リリーは自分の体を見ながら落胆していた。
「……ここでもそうなんだわ。私はダメな人間だった」
「ダメなんかじゃないよ」
「人間の形を保てなかった。こんな姿で、ここでも私は笑われるの」
「笑ったりなんかしないよ」
彼女は顔を隠して泣いていた。
「……そうだ! 長老、もう一度彼女にチャンスをくれないか? 僕なら全身魚だって良い」
蛸の長老が言った。
「何度やっても結果は同じだ。……魚と人間の割合を決めているのは、誰かじゃない。自分自身だ。自分に肯定的な人間ほど、元の形を保てる。つまり人間の割合が多い人魚になる。彼女はきっと、自分に否定的なんだね」
「じゃあ、姿を変えるにはどうしたら良いの? あなたには変えられないの?」
「私には無理だが、変えられる人はいる」
「どこに?」
「分かるだろう?」
「……。彼女自身?」
タコの長老は頷いた。
「自分で自分を認める事だ。ダメな所も良い所も。自分を許す事が出来れば、覆われた魚の皮が剥がれてくる。……特に、良いところを認めるのが難しい。……さあ、彼女には今から責務が課された。この世界と人間界の門番だ。代わりが来るまで、死ぬこともなく、この世界に留まり続ける」
僕は驚いてリリーの方を見た。
長老は続けて言った。
「彼女は知っているさ。門番の受け渡しのルールに説明責任がある。アンナから聞いているはず。彼女は全部分かってここにきておる」
僕は、期待していた彼女の新しい世界が、こんな形で始まってしまった事にショックを受けた。
自分が止めていれば……。
事態は良くなるどころか更に悪くなってしまったのかもしれない。
門番って一体どうなるんだ?
この世界で僕たちはどうやって暮らす?
様々な疑問が僕の中で一気に不安と共に押し寄せた。
僕は勝手に新しい世界は、もっと素晴らしいと心のどこかで確信していた。