GUILTY&FAIRLY 『蒼(あお) 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫
第五話 リリーとオリバー
ウィリアムは注文していたパンツを引き取りにまたジャンのお店に来ていた。
「この間注文していたパンツを取りに来たよ。最近は全然良いことがなくってね。この日をどんなに楽しみにしていた事か」
ジャンは店の奥の方からパンツを取り出して来て手渡した。
「そうだったんですね。でも、髪型まで全然変わっていてとても充実しているように見えました」
ウィリアムは髪をかき上げながら、
「……ああ、この髪か。前に話していた従業員の女の子に、次は髪型ですね、って、言われて、オススメのお店を教えてもらったんだ。……けれど、中々予約が取れなくてね。我慢しきれず、仕事の帰り道に通ったお店が空いていたから、そこでお願いしたんだ。イケてるオヤジにしてくれと。そしたらこんな感じになって、お店の女の子には、おすすめのお店に行った方がもっと似合う感じにしてくれるんじゃないですか。と言われたよ」
ウィリアムの髪は横と後ろがぐるりと刈り上げてあって、ツーブロックの髪型だった。
さらに、前髪は鮮やかなグリーンになっていた。
「そうですね、違うお店に行って、前髪の緑をなくして一色にするというのも似合いそうですね」
ジャンは傷つけないようになんとか絞り出したアドバイスをした。
「そうか。じゃあ、そうしてみようかな」
「ぐっとダンディーになりますよ」
ジャンは上手く誘導していた。
「そうそう、私は派手になりたいのではなくダンディーになりたいのだよ。この髪をやってくれたお店の人が真っ赤な髪色をしていたから、今はこういうのが人気なのかと思ったよ」
「何事も挑戦する所、素敵です」
「ありがとう。……いやまあ、この髪もそうなんだが、最近仕事でもちょっと大変な事があってね。はぁ……」
ウィリアムは肩を落とした。
そして続けて、
「ところで君は、このぐるりと囲ってある森の事、どう思う?」
「誰も帰ってこないっていう噂の森の事ですか?」
「ああ、その森の事だ」
「最近その森の話をしたばかりで。いや、物騒ですよね。どんな凶暴な生き物が住んでいるのか。考えただけでも恐ろしい」
「いや〜、そうだよな」
「その森がどうかしたんですか?」
「うちのお客さんであの森に別の世界に繋がる扉が本当にあると信じているという人がいて、そこへ行く詳細な地図まで持っているんだ」
「地図ですか?!」
「ああ、沢山の資料を持っていてね。……それにコーヒーをうっかりこぼしてしまって。大変だったんだ」
「それで、気を落とされていたんですね」
ウィリアムは大きく頷いて、
「でも、やっぱりあれ都市伝説だよなぁ。あんまり真面目に言うもんで、もしかしたら……って私まで考えてしまったよ」
「都市伝説でしょう」
「まぁ、でも大切なものを汚してしまって、悪かったなぁ。って、落ち込んでいたんだよ」
「でも、本当にそんな世界があったら、もっと大騒ぎになっていますよ」
「そうだよなぁ」
二人がそう話していると、ジャンのお店にもう一人、別の男の人が入って来た。
「いらっしゃいませ」
ウィリアムはその男の人を見て驚いた表情をした。
店に入って来た男は、今噂をしていたオリバーだった。
オリバーは、
「あの、なんでも希望のデザインを入れた洋服を作ってくれると聞いて来たのですが」と言った。
「はい。ご希望のお洋服でお仕上げいたします。先にこちらのお客様から……」
ジャンがウィリアムの方を向くと、
「ああ、私はもう良いよ。このパンツは家に帰って履いてみるよ。きっとサイズはピッタリだろうし」
ウィリアムはオリバーに、
「お客さん先日はすまなかったね。コーヒーを溢してしまって。あの森の地図なんとかなりましたか? 大切そうにしていたからずっと気がかりで」
「ああ、あの、店の。あれなら何とか書き直しましたよ」
「そうですか。それを聞いて安心しました。では、すみません私はこれで」
ペコリと頭を下げて、ウィリアムは、静かにお店を後にした。
リリーは今日もこっそりとジャンの家に遊びに来ていて、聞き耳を立てていた。
———この人あの森の地図を持っているんだわ! 本当に辿り着けるかも!
リリーはオリバーが洋服を注文して家に帰るのに、こっそりとついて行った。
「ジャン、これからよろしくね!」『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)
全てはある妖精に出会ったことから始まった。
これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。
異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。
自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。
あるはずがない。
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