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【小説】 白(シロ) もうひとつの世界  第14話

第14話

ジャスミンは疲れていた心を癒してくれる存在だった。
「ウィリアムとの事は良いの?」
「なんでウィリアムなの? ウィリアムはただのお友達」
ジャスミンは笑いながら答えた。
「でも、ウィリアムとデートしたのは君だろう?」
「ウィリアムとデートした事なんて無いわ。別の人と勘違いしているんじゃない?」
そう言われて、ずっと気になってどこか遠慮していた気持ちが少し軽くなった。
「そっか。ウィリアムがデートしたのって君の事かと思って、実はずっと気になっていたんだ。こうやって二人で会っていたのも気がひけると言うか。でも、良かった……僕も、君にはとても惹かれているし」
「本当に?!」
「……うん。君と居ると、とても温かい気持ちになれる。作ってくれるお弁当は丁寧だし、君の性格がよく伝わってくるよ」
「そんな。私の作るお弁当なんて普通よ」
「そんな事ないよ。それにいつも、僕を気遣ってくれる。君は優しいよね」
「お仕事大変そうだし。私に出来ることがあるなら力になりたの」
「君には、すごく救われているよ」
「嬉しい!……リリーさんより私の事……好き?」
その質問に、ドキッとした。
「全然性格も違うし……リリーとは比べられないよ」
「……リリーさんは、やっぱりジャンにとって特別なのね」
「それは……」
「……」
——なんて返せば良いのか。
「でも、彼女は妖精だから」僕は自分にも言い聞かせながら答えた。
「じゃあ、人間だったら? もし彼女が人間だったら、私とどっちが好きき?」
「……想像出来ないよ」
「……」
 
僕の曖昧な答えに、沈黙が流れた。
リリーより好きと答えるのが正解なんだろう。分かっていた。けれど言葉には出来なかった。
彼女は何も不満を口にしなかった。
曖昧に濁す、ずるい心。
 
視線の合わないジャスミンが、僕への反論を隠すようで、僕は同じ空間にいる事への居心地の悪さを感じた。
 
「……そういえば、買い足しに行かないといけないものがあったんだ。ごめんね。ちょっと出てくる。ゆっくりしてくれてもいいし、すぐに帰ってくるから、鍵を開けたまま帰っていても大丈夫だから。」
「……うん」
僕は、ジャスミンの瞳を覗きこむ勇気は無くて、慌てて逃げる様にその場を後にした。
少しして家に戻ると、ジャスミンの姿は無かった。
ホッとした自分がいた。
 
テーブルには、一枚の手紙が残されていた。
 
 
『お家に帰ります。しばらくの間、ここに来るのはお休みします。お仕事頑張って下さい』
 
彼女の手紙に、胸が押し潰されるような気持ちになった。
 
 

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