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GUILTY&FAIRLY 『蒼(あお) 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫
第九話 ジャンとオリバー
それから三日後にオリバーはジャンの店に現れた。
「どうも。洋服を取りにきました。……それから……話はリリーから聞いていると思うけれど、どうかな?」
そう聞かれて、ジャンは少し緊張しながら聞き返した。
「……あの、森の事ですよね?」
「ええ。本当に森に行く覚悟はありますか?」
「もちろん。怖くなんかない。覚悟は、あります」
「……君自身で決めたのか? それともリリーにどうしてもとでも言われたからかな?」
「……僕自身の判断だ。行くと決めたのは僕だ」
「……そうか。……まあ、君が決めたなら良いよ。どうなっても僕は責任をとれないけれどね。それでも良いなら、仲間という事で」
「ああ、……もちろん。何かあってもあなたに責任を問うつもりはないよ。……リリー、出ておいで」
そう呼ぶと、扉の後ろに隠れていたリリーがふわりと出てきた。
「オリバー、待っていたのよ」
「いやぁ、お待たせ。ぼくも色々と準備があってね」
「フルーツサンドとか?」
リリーはわざと意地悪そうに聞いた。
オリバーは少し恥ずかしそうに、
「何で僕の食の事を知っているんだ? ……いいじゃないか、最後になるかもしれない。食べておかないと」
ちょっとだけ慌てながら言い訳をしていた。
けれどジャンとリリーは最後という言葉の方に反応した。
「そんなに危険なの?」
ジャンが心配そうに聞いた。
「もちろん危険な場所だ。後悔がないように、やりたい事は今のうちにしておいた方が良い。身辺整理とか。もう、こっちの世界には戻らない覚悟で」
「戻らない覚悟?」
ジャンはどきりとした様子だった。
そして、
「扉の向こうはどんな世界なの?」
と聞いた。
「……扉の先の世界の情報は実は、どんなに調べても噂程度にしか分からなかった」
「資料を沢山持っているのに、扉の先は分からないのか? ……それで、噂って?」
「夢の世界や望む世界。みんな言い方はバラバラだけれど、そんな感じの事を言っていたね」
リリーはその言葉に目をキラキラとさせていた。
「素敵ね! 冒険の価値はあるじゃない」
ジャンは不安そうに両腕を組んで聞いていた。
リリーは張り切り、オリバーに言った。
「私たち、準備ももうしているわ」
「そうなんだ。どんな準備か見せてもらっても良いかな」
「ええ。もちろんよ」
リリーはジャンの服を引っ張り、用意しておいた鞄の方へと引っ張った。
「わかったって。取ってくるよ」
鞄を取ってきて、中身をカウンターに並べた。
懐中電灯、三日分の洋服、簡単に食べられる食事、水、軍手、虫除けスプレー。
オリバーは、その中身を見て呆れた様子だった。
「遊びにでも行くつもりなのかい?」
「そんな言い方しなくても良いだろう。真面目にやったさ」
「じゃあ、やり直しだね」
「何が足りないの?」
「……あえて言うなら、覚悟かな。君たちの鞄の中身は、子供がオモチャを詰め込んだようなものだよ。まあ、良いよ。一から説明するのも面倒だし、僕がもう少し本格的なものを準備して行くから、君たちはもうちょっと考えて必要そうな物を準備しておいて。本気で行く気があるならね。まだ時間はあるから」
「時間はあるって、いつ出発なの?」
「一週間後だ。それより早すぎても遅すぎてもダメだ」
「いつ行くか早く教えてくれていれば良かったのに」
「ギリギリまで計算していたからね。扉の所に行くにはちょうど良いタイミングじゃないと駄目なんだ」
「そういうものなの?」
「じゃあ、はい。洋服のお代。この間注文した洋服をいただいて行くよ」
オリバーは、お金を払って洋服を受け取り、一週間後に来ると言って、店を後にした。
「行っちゃったね。準備も怒られちゃったね」
「だって、仕方ないだろう。初めて行く森なんだ。何が必要かなんて分からない」
「そうだよね。足りなかった物って何だったんだろう。教えてくれても良いのに」
「まあ、準備してくれるならその方が楽だし、オリバーに任せよう。僕たちはもう少し考えて一週間後に備えよう。店を閉める準備もしなくちゃね」
「そうね。落ち込んでいてもしょうがないわ。もう一週間後だし」
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『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)
全てはある妖精に出会ったことから始まった。 これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。 異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。 自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。 あるはずがない。 凝り固まった頭では、決して覗くことのできない世界。
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