GUILTY&FAIRLY 『蒼(あお) 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫
第十二話 ウィリアムの目的
「どこまで行ってたんだい。遠くまで行くなと言っただろう」
「ごめんなさい。でも、食べたりしていないから」
「それならいいけど、今の所危険もなさそうだし、そろそろ休憩にしよう。何も食べないで歩いていると、逆に不安だからね」
「それは嬉しい。美味しそうなものばかり見て、さっきからお腹が鳴っていたんだ」
みんなは生クリームが垂れている大きな木の下で荷物を下ろして食料を出した。
「そういえば聞いていなかったけれどウィリアム、君は何であんなにこの森に対して否定的だったのに急について来ようと思ったんだい?」
「私もウィリアムはなんで来たのか気になってた」
ウィリアムは少し恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。
「男らしくなりたくて」
「そんな理由で?」
「何か決意をもって突き進む、君をかっこいいと思ったんだ。私もそんな風になりたくて」
「信じられない。そんな単純な理由でこの森に来たのかい?」
「単純かもしれないが、私には重要な事なんだ!」
「理解に苦しむよ。言っておくけど、今のところ君は森を進んでいく邪魔にしかなっていないからね」
「そんな言い方しなくても良いじゃない」
「どんな言い方でもするさ。命が懸かっている。これ以上迷惑かけるようだったら置いていくからね」
「オリバーひどい! わざとじゃないんだし仕方ないでしょう」
「ウィリアム、君は最初の森であの泥棒の事を非難したけれど、奪われるものは目に見えるものだけじゃない。気力や、体力。時間だって同じようなものだ。君はよくあの人の事を非難できたもんだね。自分の事を棚に上げて、正義面してる。こういう人が一番厄介だ。自分で分かっていない。……悪い事をしているっていう自覚があるだけ泥棒の方がマシかもね」
「本当、オリバーって屁理屈ばっかり。気にしなくて良いわよ、ウィリアム」
「……気をつけるよ。次に迷惑を掛けたら置いて行ってもらって構わない」
「ああ。そうさせてもらうよ」
休憩も程々に、オリバーを先頭にしてまた歩き出した。
リリーはウィリアムの近くを飛びながら話しかけた。
「オリバーって地図を持っているからって偉そうにして。ひどいわ」
「仕方ないよ。役に立たないどころか迷惑ばかりかけている僕が悪いんだから」
「オリバーに悪戯でもしちゃう?」
「いやいや、やめてくれ。僕は怒ってないから」
「そう?……。ねえ、さっきの男らしくなりたいって、何でなの?」
「いやぁ、この通り、僕はみんなの先陣を切って進めるタイプでもないし、オシャレが分かるわけでもないし、特に誇れることがないんだ。それで、新しい事に……未知の世界に挑戦したら何か変わるんじゃないかと思って」
「変わりたいの?」
「ああ。出来るならオリバーのように男らしくなりたいのさ。彼はあんな態度だが、僕の憧れなんだ。なんか、芯がどっしりあると言うか。自信もあって、ちゃんと目指すものがある。そういうのが羨ましくてね。一緒にこの森に来れば、彼のような人物に自分も近づけるんじゃないかと思って」
「私、今のウィリアムも好きよ」
「ありがとう。君は優しいね」
リリーは照れながら笑った。
ずっと進み続けると、ゴソゴソと動く人間が見えた。
「人がいる! あれ、何しているのかなぁ。」
よくよく見ると、その人間は辺りになっている果物を手を伸ばしてはちぎり、貪るように食べ続けいた。
果実にまみれたその顔は幸福に満ち満ちていた。
「ずっと食べ続けてる。僕たちのこと見えてないのかな」
「ああ。もう囚われているんだろう。食べ物しか目にはいっていない。この森のものを食べてしまった人の末路だね」
「少量だと大丈夫なんじゃなかったの?」
「ああ。そう書いてあったが、この様子だと少量のつもりで食べてもこの果実のとりこになってしまうのかもしれないね。もう助ける事はできないし、先を急ごう」
先を進むごとに、先ほどのような人間がそこかしこで果実に貪りついていて、潰れた果実の甘美な香りが辺り一体を埋め尽くしていた。
その香りは、その人間たちを幸せの中に埋もれてさせているようにさえ見せた。
「……なんか若い感じの人ばかりなのね」
「そうだね。果実まみれになってるけど、よく見たら綺麗な人ばかりだし、何かあの果実とかと関係があるのかな?」
「ここの食べ物は、まだ未知だからね。もしかしたら若返りや美容効果もあるのかもしれない」
「肌とかに良いってこと?」
「ああ。うまく活用できれば、美容効果の高いものなのかもしれない。今までにないような新薬も作れるかもね。この森の中は簡単に説明できるものではないからね。今まで発見されていない効果のあるものが見つかっても不思議ではないよ。研究者たちが喜びそうな場所だ」
「もしかしたら、あの中に研究者とかもいたのかなぁ」
「それはあり得るね。けれど、ここの森に対する知識が少ないと、結局情報を持って帰ることができずにこの森に留まってしまうはめになるんだろう」
「せっかく辿り着いたのにね」
「まぁ、これも単なる予想だ。それにもしかしたら、この強欲の森を単に目指して来た人間なのかもしれない。ここで最後の時を迎えられればそれで良いと、見た目を重視してきた人間が喜びそうな場所だ。食欲だって満たせる」
「……本当に不思議な森」
『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)
全てはある妖精に出会ったことから始まった。
これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。
異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。
自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。
あるはずがない。
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