【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜 第12話
第12話
テストを受けてからは、緊張感がグッと増したのを、みんなが感じていた。
けれど目の前の森は、そんな危険な場所には見えなかった。静かに佇む沢山の木が見えるだけだ。
オリバーを先頭に森の中へと進んで行った。
ジャンは、どう危険なのか気になっていた。
「なんか、ただ木がたくさん生えているだけに見えるけれど」
ウィリアムも辺りをキョロキョロと見回している。
オリバーは、どんどんと先に進みながら、大きな木の根をまたぐ時に答えた。
「まだ、【囚われの森】の入り口にもたどり着いていないからね」
ジャンは不思議そうに聞いた。
「今いるここが、その【囚われの森】っていうのじゃないの?」
辺りは木に囲まれていて、もう完全に森の中だ。
オリバーは、
「特別な森に入るには決まった入り口がある。入り口自体は森の中に点在しているけれど、迷いにくい入り口はこっちだ」そう言って、また大きな木の根をまたいだ。
森の中をどんどん奥へと進むと、不思議な形の大きな太い木が現れた。
太い木が二本くっついて並んで立っていて、その二本の太い木がグニャリと半円を描く様にして、くっついて真ん中がドーナツの様に空いていた。
「この中を通る。ここから先が注意しないといけない森だ」
「変な形の木。でも、こんなところが入り口なの? 木の隣を通ってもダメなの?」
「一緒に来る気が無いなら、君はそっちを通れば良いよ」
「意地悪な言い方。ちょっと聞いただけじゃ無い」
オリバーは、しょうがないな。という顔をして、上着についているポケットの一つから方位磁石を出した。
「この木の間だけ、磁場が狂うんだ。方位磁石を向けてみたらわかるよ」
そう言って、ジャンへと渡した。リリーは、木の近くに方位磁石を向けるジャンの手元を覗き込んだ。
「すごい!!変な動き!!」
「この磁場の狂いが、この入り口を作っているんだ。でも、ここから先は、僕も実際には行ったことは無い。この資料だけが頼りだ。集める事が出来た資料はそう多くはないけれど、これを頼りに進む。覚悟が出来た人は、僕の後についてここをくぐって」
そう言うと、オリバーは木と木の間をスルリとくぐった。木の反対側に出てくるはずのオリバーの姿は無かった。
「本当に、どこか別の場所に行っちゃったの?」
リリーは、残りの二人の方を見てから、オリバーの後に続いた。ウィリアムもその勢いで付いて行き、慌ててジャンが最後に通った。
みんな潜り抜けると、ウィリアムが言った。
「なんか空気が違う?」
リリーも大きく息を吸い込んで、同意した。
「ええ、なんか軽やかな空気。それに、何だか、さっきまでの森と似ている様で違うわ。さっきまで全然お花なんて咲いていなかったのに、あちらこちらにお花も咲いてる!それによく見ると、このお花、ピカピカ光ってない?」
「本当だ。花の真ん中に豆電球でもあるみたいにチカチカ光ってる」
歩き進めるにつれて、咲いている花の数が増えた。
「なんか、危険な森というか、幻想的な森だね」
「ここからだよ。ジャン、君が一番危ないんだ。気をつけて」
「気をつけてって言われても、何に気をつければ良いの? 森に入る前にもっと地図を見せてくれるとか、森の中を説明してくれるとかすれば良いのに」
「知らない方がいい。知っていた所で結果は同じさ。どの森も通らなければ最後まで行けない。先に君たちに説明したら、反対されるかもしれないからね」
「自分だけ知っているなんて……」
「ここは仲間がいれば通り抜けられるさ。ただし、幻想的な花を見続けちゃダメだ。なるべく目を逸らして。ジャン以外も気を抜くと意識を持っていかれるから、気をつけて」
幻想的な森へと入り、誰もがその美しさに気を取られそうであった。
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