【小説】 白(シロ) もうひとつの世界 第12話
第12話
お店の扉が開いて、初めて見る顔の女性が入ってきた。
「こんにちは〜。あの、ウィリアムさんに紹介してもらって来ました」
小柄で可愛らしい、髪の短い女の子だった。
僕より、少し年下かな?
「こんにちは。ウィリアムさんのご紹介ですね」
「はい。素敵な帽子も作って下さると聞いて。……女性用のも大丈夫ですか?」
「もちろんです。では、こちらでサイズを測りますので、どうぞ」
そう言って僕は椅子へ座る様に促した。
「なんか、オーダーメイドのお店は初めてで緊張します」
「大丈夫ですよ。僕しかいないですから。楽にしてもらって」
「話しやすい方で安心しました」
照れたように笑う彼女は、初対面なのに誰かに似ている様にも思えた。何だか懐かしい様な、落ち着くような。
「どんな帽子にしましょうか?」
「え〜と、つばが広めの帽子が良いです」
「分かりました。他にこんな感じがいいとかはありますか?」
「特には考えていなくて。後はおまかせでも良いですか? こだわりとかは無いので」
「ええ。似合うものを作りますね。任せてください」
「ありがとうございます」
僕は彼女の好みをざっと聞いてメモをした。
「じゃあ、仕上がりましたらご連絡いたしますね」
彼女は、何か言いたそうに少し間をおいて答えた。
「……はい。……あの、初めて来て図々しいお願いかもしれないんですけれど」
「何でしょう?」
「あの、私も実はお洋服作りとか、帽子作りに興味があって……邪魔はしないので、作っている所を見学させてもらったりさせてもらえないですか?」
「作っている所を?」
「……だめですか?」
今までの僕だったら多分すぐに断っていた。
けれど、こちらの世界の人間の中でも彼女は何だか一緒に居て落ち着く。違和感無く。
——不思議な感覚だ。
「……いいですよ」
そう答えると、彼女はパッと明るい表情になり、
「本当ですか?! 聞いてみて良かったです! じゃあ、私はお礼にお昼ご飯用のお弁当を作りますね!」
そう、嬉しそうに僕に提案した。
「いやいや、そんな悪いですよ。仕事を見るぐらいでそこまでしてもらわなくても大丈夫です」
「だって、勉強させてもらうんだから、それぐらいしたいです!」
少し強めに主張する彼女に圧倒された。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
そう答えると、彼女は柔らかく笑った。
「私の事はジャスミンって呼んで下さい。……私は、なんて呼んだらいいですか?」
「……ジャンって呼んでもらえれば」
「……ジャン、どうもありがとう。じゃあ、また来ますね!」
ジャスミンのあまりにも嬉しそうな反応に、少し恥ずかしくなり、頭を掻きながら返事した。
「いつでも、どうぞ」
ジャスミンは、可愛らしい笑顔を見せると、ペコリと頭を下げて帰って行った。