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ふくろう奇譚 [博多弁アレンジ版]

(朗読台本、約6分) 『ふくろう奇譚』のバリエーションを作ってみました。
元本:  https://note.com/kaoruokumura/n/nd36afd6b4f5b


ふくろう奇譚 〜博多弁版

原作&アレンジ: 奥村薫

テキスト版

夕方の赤~か光の中やった。せみの鳴き声のする森ん中、夕日が、木々の間から差し込んどる。あたしゃあ、かあさんの墓参りで、久しぶりに生まれ故郷に帰ってきとった。

村はずれの細~か道には人影のひとつもなくて、木漏れ日だけがあたしの静かな歩みに寄り添いよったと。

そん時、急に後ろから「ほぅ、ほぅ」ちゅう声がして、びっくりして振り返ったばってん、な~んもなかった。ただ、乾いた道が夕暮れん中に続いとぅだけやった。

この村でふくろうば見るとは珍しかとよ。でも、たまにゃあその声ば聞くモンもおった。縁起悪か~って怖がる奴もおれば、森の使いやって畏れるモンもおった。ばあさまたちゃあ、「ありゃぁ泣き女の声たい」ちゅうて噂しよった。確かに、あの虚ろな声は、人の嘆きみたいやったと。どこからともなく聞こえる鳴き声は、この世とあの世のはざまをさまよいよるみたいやった。

細~い道の先に、一つの墓がひっそり建っとる。墓石(はかいし)にゃあ苔(こけ)がびっしり生えとって、ひどい暑さも、ここじゃあち~っとはましみたいやった。持ってきた線香に火ばつけて、立ち上る煙ば見ながら、「もし、先に逝ってしまった人たちと話ができるんやってら、あたしゃあ何ば話すんやろか…」ちゅうて、とりとめのなか妄想にふけっとった時、急に、えらい大きな灰色のふくろうが、音もたてずに墓の上に降りてきたと。それが、なんて美しか姿やったろうか…。

羽ば閉じると、猛禽類のたくましさは影を潜めて、なんやら哲学者みたいな風格があった。そしてゆっくり首ば回して、琥珀色の大きい目であたしをじっと見つめた。その目ん中に、あたしは自分の影を見た。

そん時、深くて低い声がした。『お前は、何を求めてここに来た?』 あたしゃあ言葉ば失うた。答えば探したばってん、見つからん。 『あんたは…?』ちゅうて聞き返したら、声は続けた。 『我らは、昼と夜のはざまに生きる者なり。生と死のはざまもそう変わりはしない。この墓に眠るとお前が思う者どもも同じことよ…』

その言葉ば聞いたとたんに、周りの景色がぐにゃ~と歪んだ。森が溶けて、墓石と重なり、そして、またしても森の姿にもどる。現実と幻想のはざまを行ったり来たりしよるみたいやった。

ふくろうはふわりと羽ばたいて、あたしの肩に止まった。爪が刺さる痛みば予期して一瞬身構えたばってん…、その重さは現実とは思えんくらい軽かった。

『お前の中にも、闇と真実の目覚めがある。それを恐れるではない。』そう耳元で囁かれたような気がした。そこであたしの意識は途切れる。

気づいたら、もう日は沈んで、あたしゃあ一人で墓の前に立っとった。墓標(ぼひょう)の字もよう読めん、その墓の前に…。

それ以来、都会に戻ってからも、私は時々、夢でふくろうと会う。そして目覚めると、いつも何か大事なことを思い出したような、そんな気持ちになるとよ。

あのふくろうは、今でも昼と夜のはざまで、私たちを見守っとるのかもしれんね。

音声版

Stand.fm https://stand.fm/episodes/66adac7d43343e797598677e

コンテンツについて

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