【第2章】その45✤不思議な赤と白の薔薇
真紅の蕾つぼみから、大輪の白薔薇になる不思議な薔薇
その8月、ヨーク公リチャードとエドムンドはエドワードやウォリック伯と作戦を立てるために合流する前に、一時セシリーや子供達のいるラビー城へ寄った。
ベアトリスはエドムンドとの再会が本当に嬉しかった。実はエドムンドにどうしても見せたいものがあったのだ。
彼女はこの城でもやはり薔薇を育てていたのだが、ある日城内の森の中をマーガレットと2人の弟達と散歩している時に不思議な薔薇を見つける。蕾(つぼみ)の時には赤いのだが、花が開くと中は白くて、大輪に開いた時には白い薔薇になり、縁だけがほんのりと赤い薔薇になるのだ。
「赤薔薇はランカスター家の色、そして白薔薇はヨーク家の色。これは赤から白に変化する薔薇なのだわ、なんて美しいそして不思議な薔薇なのでしょう」
この薔薇を森から大切に持って帰り、城の薔薇園に植えると、しっかりと根が付き、か弱いながらも見事な花を咲かすようになったのだ。
6月くらいに薔薇を見つけて持って帰り植え替えてから、もう3度ほど花を咲かしたが、これまた不思議なことに最初に蕾(つぼみ)が白い時もあり、その時には中側は真紅で、花が開くと赤い薔薇に外側の縁だけが白い、美しい薔薇になるのだ。
でも白い薔薇から真紅の薔薇になるのは、まるでランカスター家が勝利するということを暗示しているようなので、この薔薇は開いた時にすぐ切り取り、赤薔薇から白薔薇になるものだけを大切に育てていた。
「この薔薇をエドムンドにどうしても見せたい。赤色から白色が出てくるこの薔薇を見れば、エドもさぞや喜んでくれるに違いないわ」
そう思っていた矢先の突然の2人の来訪だった。
セシリーは久々の夫と息子の訪問に喜び、エドムンドのことが大好きな妹マーガレットと弟ジョージとリチャードも歓喜していた。
ヨーク公リチャードは一足先にロンドンへ行かなければならなかったが、エドムンドはしばらくこの家族の元で滞在することが許されたのだ。
17歳になり、兄エドワードのように身長も高くなり、彼もまた軽く180cmを超え、昨年と比べてもすっかり逞しくなったエドムンドに弟2人はまとわりつき、剣の稽古などをしながら日々を過ごしていた。
季節は過ごしやすい秋になり、赤薔薇の蕾(つぼみ)から大輪の白薔薇になった頃、ベアトリスはやっとエドムンドを自分の大切な薔薇園に連れて行くことができた。
「エド、あなたに見せたいものがあったのよ」
実は1年ぶりにここに来た時、18歳になりすっかり美しい女性に成長したベアトリスを見て、エドムンドは彼女にどう対応したら良いのかわらなくなっていた。彼女を見ると眩しくて、子供時代から一緒に過ごしていたのに、何故こんなにも自分はぎこちなくなってしまうのだろう、と戸惑いすら感じていたのだ。
「私はランカスター家の者でしょう。でもこれを見つけて本当に嬉しかったのよ、これはヨ-ク家が勝利するという印ではないかしら?」
ベアトリスがこのように話し始めた時、エドムンドは思わずこの薔薇の意味は違うと思った。
ヨーク家の勝利はもちろん一番大切な事なのだが、今この薔薇を2人で見ているのはもっともっと違う意味があるのではないか、とその瞬間に感じたのだ。そしてその時、今こそ自分の気持を言うべきときが来たのだと悟った。
「ベアトリス、いつか僕達の子孫の紋章はこの薔薇になるのだよ」
そして先程までベアトリスの美しさに戸惑い、どうしたものかと困っていたエドムンドは、言葉を発した後、次にはベアトリスを抱きしめていたのだ。
「ベアトリス、結婚しよう。長い間、子供の時からずっと僕は君しか見ていなかった」
抱きしめられたベアトリスは答える。
「でも私はランカスター家の者、あなた達の敵の血筋なのよ」
「我ら兄弟の母セシリーもランカスター家ではないか、僕の中にもランカスター家の血が流れているということだろう。君がランカスター家だからと言って一体どんな問題があるというのだ……君を愛している」
突然のエドムンドの告白にベアトリスは驚き
「あなたの腕の中は暖かいのね、まるで私のお父様のよう……
エド、私もあなたを……」
このように答えるのがやっとだった。
エドムンドが父ヨーク公、兄エドワードのいるロンドンへ駆けつけたのは、2人はお互いの気持ちを確かめた数日後のことだった。
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