この人は痴漢です
この人は痴漢です、と言われた。
いきなり電車で手を掴まれ、この人です、この人は痴漢です、と大声をあげられ、駅のホームに無理やり引きずりおろされた。
わたしはやっていなかった。
違うと訴えても、誰もわたしを信じてはくれなかった。
自分は作家だと言っている契約社員であるこの四十代の男性は、本を出したが全く売れず、ブログを見ると、テレビで言うのがはばかられるような内容が書かれていて、肥大した自意識と、醜く膨れ上がった自己承認欲求が感じられます。SNSやブログで、自分が何者でもないのを認められず、何者かになりたがる人たち、今こういう人がたくさん増えています。満たされない心が、無力な女性への痴漢という行為に彼を駆り立てていったのでしょうか、現代人の心の闇を象徴した事件だと思います、と言われた。
職場も首になり、内緒にしていた本も読まれ、ホント気持ち悪い、と言われた。
アパートの部屋からは出てってくれと追い出された。
知り合いには、いつかそういうことをする人だと思ってました、へんな人でしたよね、と言われた。
それからずっと、誰もわたしを相手にはしなかった。
そういう夢を見た。