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老いて旅に出るなら旅館ですか? ホテルですか?(小原信治)

老いらくの旅

 海辺のホテルに長期滞在し、空気の澄んだ朝にランニング、日中は原稿を書き、サンセットビーチを散歩して、夕食後に港町のBARでシングルモルトを一杯だけ飲んで眠りにつく。

 理想の老いらくの旅を描くとしたら、こんな感じだろうか。とっくに旬を過ぎたリゾートホテルのオフシーズン。たとえば、かつて逗子にあった「なぎさホテル」のような———宿泊客は自分ひとりなんじゃないかというくらい館内は閑散としている。さびれているけど、清潔感がある。文庫本片手にロビーに置かれた革張りのソファーに深く腰を下ろすと挽き立ての豆で煎れたコーヒーが出てくる。海が近いのと窓が自由に開けられるおかげで、密閉性が高過ぎる最近のホテルにありがちな乾燥もない。へぇ、ひとりなんだ、という妻の声が後ろから聞こえてきそうだけれど、そんな老いらくのイメージを持ち始めたのが四十歳を目前にした独り身だった頃なのだから仕方がない。

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