ぼくのダサ坊音楽遍歴 番外編 小沢健二の1995年

気にはなってたんですよ。

小沢健二の復活はゆっくりですが確実に一歩ずつ進んでいましたが、とりあえず端緒は2010年としときましょう。東日本大震災の前年です。この年、小沢健二はライブツアーを行っています。

2014年には「笑っていいとも」に出演しており、その3年後の2017年には「流動体について」をリリースしています。

神の手の中にあるのなら
その時々にできることは
宇宙のなかで良いことを決意するくらい

そして、2019年。
それは唐突に、前触れもなく、告知されました。
小沢健二、ニューアルバム発売。新曲「彗星」がプレリリース。

そうそう、冒頭に書いた「気になっていたこと」ですが、話は前後して小沢健二は2018年に「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」という小品を発表しています。

はじめて会った時のきみ
ベレー帽で少し年上で言う
「小沢くん、インタビューとかでは何も本当のこと言ってないじゃない」

この曲は岡崎京子原作の映画「リバースエッジ」のために書き下ろされた曲です。
なので、この歌詞に出てくる「きみ」は岡崎京子のことなのですが、小沢健二はほのかに過去を振り返ってるんですね。

そこで新曲「彗星」の始まりを見てみましょう。

そして時は2020
全力疾走してきたよね
1995年
冬は長くって寒くて
心 凍えそうだったよね

ここでは明らか過去と現在を行き来しています。
「気になっていたこと」とは小沢健二が過去を振り返りながらも懸命に前に進もうとしていることです。

95年とはなんだったのか。
バブル経済はその名のとおり泡沫となり、阪神大震災と地下鉄サリン事件が起こった世紀末です。
そして、小沢健二が渋谷系の王子様として絶頂を迎えてマスメディアで軽やかに踊っていた時代です。この年の12月に小沢健二は「痛快ウキウキ通り」というシングルを出しています。

プラダの靴が欲しいの
そんな君の願いを叶えるため
マフラーを巻いて街へ出て
恥ずかしながらもウキウキ通りを
行ったり来たり

この曲をリリースした時のことはぼくも憶えてて、ダウンタウンが司会を務めていた「HEY!HEY!HEY!」に小沢健二が出演して、ダウンタウンの二人に「ふざけたタイトルやな〜」みたいなことを言われていたはずです。

先述した通り、95年というのは暗い年ではあったのです。その年に「痛快ウキウキ通り」をリリースする小沢健二の思いとはなんだったのか。そして「彗星」と名づけられた新曲はなにを語っているのか。

今ここにある
この暮らしこそが宇宙だよと
今もぼくは思うよ
なんて素敵なんだろうと

小沢健二の単なる自己肯定と断定するのは容易いですし、人によってはつまらないノスタルジーとも感じるかもしれません。

小沢健二の長きにわたる沈黙は、リスナーにいらぬ想像をさせるに充分だったかも知れませんが、それでも小沢健二は確実に歩を進めていたのです。

たぶん、小沢健二のニューアルバムを買う人は望郷に思いを寄せるような気持ちで、懐古的に聴く人ばかりかもしれません。

だけど、とりあえず、いまは。
ニューアルバムの発売を言祝ぎ、来月まで待つしかありません。だってそうじゃないと、耐えられないじゃないですか。まだぼくには小沢健二が必要なんですよ。たぶん。

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