【PP】祝・井上尚弥選手、四階級制覇!
まあ、あれだよね。
毎回、試合ごとに書いてるけど、予想の上をいかれるよね、、、
ということで、井上尚弥選手vsスティーブン・フルトン選手の試合、見事8RTKOということでございまして。
毎回さ、どうせ圧勝するやろ、って思うんだよ。でも、なんかトラブルがあって実力が出せないまま負けたらどうしよう、とか考えるわけ。ケガとか、足がつるとか。今回もね、拳のケガとかありましたからね。
■戦前の予想
基本的に、戦前はフルトンがジャブつきながら下がってサークリングしてポイント取ろうとする、と思ってたんですよ。なんで、勝負は、井上選手の飛び込みのスピードをフルトンが見切れるのか、みたいなとこかなと考えておりました。
もし、井上選手が苦戦するとしたら、下がりながらサークリングするフルトンを追いかけて行って、距離が詰まった時にフルトンの軽い連打を浴びて、タッパのあるフルトンにがぶり気味のクリンチで反撃を封じられ、というパターンにハメられる、ということかと思ったんですよね。
ただ、井上選手のスピードがバンタムの時と変わらず、パワーも相対的に同じくらいの威力がキープされるなら、中盤~終盤でのKO決着か、バトラーみたいにベタ下りしたフルトンを追いかけまわしながらの判定決着かな、みたいなイメージでした。
■1Rの印象
さて、1Rですけれども、重要なのは、井上選手がS.バンタムにフィットしたのかの見極めではあったんですけど、まず最初に、あれ?って思ったのは、井上選手のほうが大きく見えたこと。解説の畑山氏も言ってたね。フルトンは足を広げるので身長は本来より低く見えるんだけど、それにしても体格差を全然感じないな、と。
井上選手はナチュラルで64Kgくらいあるとは聞いてますけど、一日でめちゃくちゃリカバリしたんじゃないかな?と。もしかしたら、当日の体重は井上選手のほうが上だったかもしれないですね。
で、もう一つが気になったのが構え。フルトンが両腕を上げたガードだったのに対して、井上選手はフィリー・シェルという、左ガードをお腹の前に持ってくるL字ガード。これ、本来は逆なんですよね。フィリー・シェルはフルトンの代名詞みたいな構え。たぶん、ジャブの差し合いになると想定して、井上選手はよりパンチの出所が見にくくて、かつフルトンのパンチを見やすく、スウェーでいなしやすいフィリー・シェルを選択したんだろう。それだけ、ジャブの差し合いが勝敗を分ける、ってわかってた。
また、最後決めるときもそうだったけど、ボディジャブを起点にしていたので、ジャブを上下に散らすのも差し合いに勝つ工夫だったんだろうなあ。
同じスピードでジャブが飛んでくるなら、パワーで勝る井上選手のほうが有利になるので、フルトンはいつものジャブが出せなくなってしまった。でも、1R早々からジャブを出せなくなったのは、逆にフルトンのボクシングIQが高いからこそじゃないかなと思った。ジャブを読まれて、カウンター合わせられる感じは察してたんだろう。危機察知能力は高いんだろね。
たぶんだけど、1R、フルトンは井上選手のパワーよりスピードにびっくりしたと思う。パンチが全然見えてないみたいだった。戦前から、ずっとパワーパワー言ってたんだよ、フルトン。井上選手のスピードがヤバいから、って思ってた。
特筆すべきは、1R終了間際、井上選手が全く不要なタイミングでクリンチに行ったとこ。そこから、ゼロレンジでものすごい凶悪な右フックを入れる。明らかに、恐怖感を植え付けることを意識したパンチだったね。
「クリンチしてきたらボコボコにするからな」という強烈なメッセージ。これで、フルトンは強引に突っ込んで、打ち終わりにクリンチしにいくこともできなくなってしまった。こんなの繰り返してたら、クリンチしてるのにダウンさせられてしまう、くらいの感じがあったんじゃないかな。
あと、余談だけど、フルトンていつも「The Rising sun」をテーマソングにしてんの?なに?中邑真輔のファンなの?いいやつじゃん!イヤァオ!
■序盤
フルトンにジャブもクリンチも出させない状況を作って、2Rからモンスターが右をぶち込みに。ここで、フルトンの顔色が変わってた。これか、ヤバいと聞いてた井上のパワーは、って思っただろうね。
フルトンは井上選手のジャブを見切れなくて左ガードを下げられないから、フィリーシェルの井上選手にジャブの差し合いでことごとく負ける。なんとかいつものジャブをだそうとすると、井上選手に見切られてカウンターを浴びそうになる。
リアルタイムで見てて、2Rで安心した。
あとは、いつ倒すかな、というね。
■フルトン前に出る
2R終わりから、フルトンは前に出る。
下がったら追われる、プレッシャーかけ続けられたらじり貧になる、って2Rで気づいたのも、フルトンのボクシングIQゆえかなと思う。この選択は間違っていなかった。ここから、井上選手の圧倒的優位は少し押し返されて、ちょこちょこフルトンのジャブを浴びるようになった。
下がることなく、大砲みたいな右を警戒しながら、前に出てジャブを当てる、っていう選択をしたのは、勇気のいる選択だよね。負けたくない、という気概は感じた。
本来、インファイトもうまい選手なんだよね、フルトン。頭を動かして的を絞らせない、っていうのは効果的だったけど、いかんせん、1Rの伏線で、打ち終わりにクリンチすることができなくなってしまったので、中間距離で、お互いのジャブを見切って打つ、という駆け引きの応酬。
4R以降、フルトンは接近してる間はクリーンヒットはもらいにくくなってた。でも、ちょっとでも引くとストレートをもらう。あれ、ガードの上からでも効くだろうからなあ。メンタルすり減ってたかもしれない。
5Rは井上選手がギアを上げて、ラフな攻め。ただ、ちょっとガードがルーズになったところに、フルトンのあの伸びる右ストレート。あれ、やっぱ思った以上に伸びてくるんだな。きれいにもらってた。
■フルトン巻き返す
6Rは、井上選手は構えを普段通りのアップライトっぽい感じに戻してリズムを変える。7Rはまたフィリー・シェルに。こんなん戸惑うよね。動画じゃわからない、本人たち同士のすごい駆け引きがあるんだろう。
フルトンは、7R攻勢。フルトンはフルトンで、ようやく井上選手のジャブの間合いが見えてきた感じだった。構えもようやく本来のフィリー・シェルに戻した。おかげで、井上選手の猛攻を避けながらジャブをちょこちょこ当てられるようになってたね。井上選手が苦戦するとしたらこのパターン、と結構おそれていたことで、これを残りのR全部やられると、判定になったときにギリギリになってしまう。もう1~2R早くフルトンがこの状況を作れていたら、展開も少し違ったかもしれない。
まあ、かわんないか、結果は。
■一瞬のスキ
8R、膠着状態を破ったのは井上選手の一発。戦前から、フルトンは時々ガードを両方下げる癖がある、とは言われていたけど、やっぱやるんだなあ。
井上選手は、8R頭から、目のフェイントを強めて「頭に打つぞ」、という印象を与えておいて、いきなり電光石火のボディストレート。頭を狙ってると思ってたフルトンは、思わず両腕を下げてそれをガードしてしまった。普通は、そこからフルトンのリアクションを見て空いた顔面を狙うと思うんだけど、井上選手はフルトンのガードが下がることを知っていたかのようなタイミングで右ストレート。これがドンピシャ。どうなってんねん、あの人の予測脳。ドネア2のフェイントからのカウンターもそうだったけど、自分がこう動くと相手がこう動く、ってのが完璧にわかっている感じ。たぶん、ずっとボディ打ちながら観察してたんだろなあ。序盤から何度も出してたボディストレートだけど、このパンチの入りが一番速かった。
フルトンよ、これがインテリジェンスだよ。
この一発で、勝負あり。試合は、戦前にジェイソン・モロニーが、井上選手が試合を決めるのはたった1秒でいい。フルトンは、その毎秒のKOチャンスを12Rしのぎ切らないと勝てない、みたいなことを言っていたようだけれど、その通りの展開に。
あとはもう、ね。ダメージを負った相手を、モンスターが逃すわけもなく。フルトンに苦し紛れのクリンチすら許さず、台風みたいな連打でフィニッシュ。いつもの光景だったなあ、これは。
■モンスターはモンスターなのだ
井上選手の試合は、毎回、一番最悪のパターンも想定して、緊張しながら見るんだけど、毎回、試合後に、やっぱこうなるよね、って納得して終わる。
今回は、2Rで負けはないかな、という感じがしたけれど、それでも、井上選手と相手選手が普通に打ち合う試合をみたのは久しぶり、という印象だった。フルトンもやっぱり強かったよね。ただ、モンスターが相手だったからねえ。
これで、次戦はタパレスでほぼ決まりそうで、年内にS.バンタムのアンディスピューテッド・チャンピオンになる可能性が出てきた。可能性が、っていうか、タパレスに負ける気は全くしないので、ほぼ決まり、くらいの感じになった気がする。4本統一した後どうするのかなあ、みたいな方に意識が向いてしまうね。すぐフェザーに上げて清水選手の敵討ちに行くとは思わないけど、モンスターだからなあ。やりかねないよなあ。
でも、ひさびさ、強敵相手の緊張感のある試合で楽しかったですね。バトラー戦とかねえ。いや負ける要素ないでしょ、ってなるといまいちねえ。タパレスもそうだけど。
フルトンとは、フェザーで再戦があるかもしれない。その時は、また違った試合展開になるだろうか。
何にせよ、今年もモンスターはモンスターなのであった。
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ボクシング小説書きたいなー。