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【PP】ボクシング・井上尚弥vsネリは予想が当たりすぎた試合だった

やめてよもおおおおおおおおお!!!!!!!

ということで、本日東京ドームで行われたボクシング・Sバンタム級四団体王座防衛戦、井上尚弥vsルイス・ネリをメインとする興行ですけれども、見終わって今、手汗がひどい。見てた人はみんなそうだと思うんですよこれ。特に、セミファイナルの最終Rから、ファイナルの1Rね!

ということで、興奮冷めやらぬまま、とりあえず試合を振り返ってみようと思います。もちろん自己満足です。

■戦前の予想

僕も一応、戦前に展開を予想はしておりました。いろんな人が予想していたと思いますけれども、井上選手の圧勝、というところは、ボクシング好きの間では大体同じ感じだったんじゃないかなと思います。

ネリは好戦的で前に出てくる、という話も多かったと思いますが、井上選手のプレッシャーを受けつつ、パンチを振り回しながら前に出ることは不可能だと思っていましたので、1Rのネリは中間距離でジャブを突きながら、井上選手を引き込んで左フック、という、ドネア1の再現を狙ってくる、と思っていたのですよね。
で、もし事故が起こるとしたら、この1、2Rで変な軌道で飛んでくるネリの左フックをもらった場合だけで、Rが進めば井上選手が圧倒するだろうと。もし、ネリが前に出てきたらカウンターで倒す、みたいな。

いやちょっと、予想、当たりすぎじゃない、、、?

けど、それはある程度パターンを分けて考えていたので、まさか一試合でそれが全部起こるとは思わなかったよね、、、、

■まさかの1R

さて、井上選手の入場。今回の入場曲は「DEPARTURE」ではなく、「キル・ビル」。布袋さんご本人も登場し、演出がとにかくド派手だった。花道を渡ってくる井上選手には大歓声。
だけど、なんかいつもと違う、と思ったのは、いつもよりアクションが派手だったな、ということ。
井上選手の入場ってわりと落ち着いている印象があるんですけど、今日はアピールもすごかったし、リング上の選手紹介でもカメラに向かってびしっとポーズを決めたりして、「らしくないな」という感じはありました。

所謂、競馬でいう「入れ込み」の状態なんじゃないかなと。

でも、試合が始まればいつものクレバーな井上選手が戻ってくるだろうと思っていたわけです。

1R、ゴングが鳴って、冒頭は井上選手がよくやる「示威行為」。相手の出鼻をくじき、ペースを持ってくるためにその桁違いのパンチ力を相手に体感させるわけですが、今回は大振りの右を二発。ネリは中間距離を取りながら、ジャブを使いつつ牽制。

ネリの左は序盤から何発か当たってましたね。あれ、やっぱタイミングとか軌道とかわかりにくいんだろうな、と思っていた矢先。

ネリが頭をつけたところを、突き放してスペースを作った井上選手は、右のショートアッパー。ただ、これをネリは完璧に待っていたと思います。この瞬間、井上選手の「体が開く」という癖を見抜いていて、アッパーを外して左フックを返す、という練習を死ぬほどやったと思いますね。
井上選手は、これもらしくないのですが、その瞬間右のガードを下げてしまうわけです。普段なら、スウェーバックしながらアッパー打つんですよ。でも、井上選手はたぶん、ねじ込んだ左のショートアッパーでネリの頭を起こして、そこに右フックを打ち込もうとしたんじゃないかと思います。
ディフェンスの意識が一瞬すぽんと抜けた。ネリは頭を井上選手にくっつけたまま、まったく井上選手を見ずにフックを打っています。あれは、相当反復練習をしないと打てないんじゃないかなあと思いますね。井上選手には全く見えていなかったでしょう。

きれいにフックをもらった井上選手は、キャリア初のダウン。セミセミファイナルで、一ラウンドに井上拓真選手が左ジャブでダウンしましたけど、ああいうフラッシュダウンではなかったと思います。
完璧に効いて、一瞬意識飛んだと思いますね。
幸運だったのは、右を振ろうとして、ネリのパンチの方向に体をひねっていたことだと思います。あれが、逆に左フックを打っていて、正面からのカウンターになっていたら、そこで試合が終わっていたかもしれません。

ただ、井上選手のすごいところは、ダウン後にきっちり休んだところ。
たった数秒ですが、パンチをもらって倒れたことを認識して、立ち上がらずに休み、ゆっくりと立ち上がります。再開されたあとも、わざとレフェリーの背後に回って時間を稼ぎ、その短時間でクレバーさを取り戻すわけです。
初ダウンでここまで冷静に対処できるのは、日ごろからダウン時の動きについてもシミュレーションしているのでしょう。

ネリはチャンスとばかりフックを振り回してくるのですが、詰め方が「フックを振り回す」というバリエーションしかないので、井上選手はダッキングでかわし、連打の中にボディやアッパーを差し込んで、ネリの勢いを止めます。これが勝負の分かれ目でしたね。1R終了時には、ダメージは回復していたように見えます。

井上選手がピンチを跳ね返そうと、相打ち覚悟でしゃにむに反撃していたら、ネリに飲まれていたと思います。明らかに効いていたのに、あそこで畳みかけられなかったのがネリの敗因ですね。

■らしくない2R

2R開始直後、フォー!と声を上げる井上選手。らしくない。
ネリのカウンターをよけるも、バタついてパンチを打つ。らしくない。

その「らしくなさ」をネリも感じ取ったのか、2R残り一分から、前進して攻撃に回ります。が、そこに電光石火のカウンター。井上選手は飛び込んでくるネリのフックをバックステップで外し、着地した勢いをそのまま利用してスマッシュ気味に左を打ち抜きます。
戦前の予想通り、前に出てきてガードがルーズになったネリのフックには完璧にカウンターを合わせてダウンを奪取。ここで、井上選手はガッツポーズ。ほっとしたでしょうね。

いつもの井上選手なら、相手が立ち上がってきたらすぐに畳みかけるのですが、ここで行かなかったのは、この時点でまだネリの左フックが見えてなかったんじゃないかと思います。前に出れば、またあの左フックが飛んでくる、という可能性を考えて、井上選手はここはセーフティで行く選択をしたのでしょう。たぶん、1Rのダメージもまだ完全に回復はしていなくて、初ダウンの動揺もあったと思います。

■3Rで見切る

3Rに入ると、井上選手はジャブとワンツーを丁寧に織り交ぜながら、ネリのフックを外していきます。ここで、ほぼフックの軌道は見切ったのではないかと思います。
ジャブやストレートを当てたら、すぐにステップバックしてフックの射程圏外へ。ネリは全くついていけなくなります。この時点で、井上選手は、もう負けることはないな、と思ったんじゃないでしょうか。以降、ほぼクリーンヒットをもらっていません。

4Rでは挑発をして会場を沸かせます。これもらしくないですが、わざと「会場を沸かせよう」としたように思います。

ネリも、3R4Rで、これは無理かもしれん、と思ったんじゃないでしょうか。
全部先の先を取られて、頼みの綱であるカウンターの左フックがかすりもしなくなります。挑発しても井上選手が乗ってきてくれなくなり、代わりに超速のワンツーをたたき込まれて、返そうと思ったらもう横に回られている。
スピードもパワーも上回られている、というのはひしひしと感じていたでしょう。

■5Rで試合はほぼ決まる

5Rもじり貧のネリ。井上選手のワンツーに全くついていけず、フックは空を切ります。が、残り一分を切って、井上選手との距離が詰まります。ここで行かなければ、と、ネリは前進。井上選手はロープを背にします。
が、これはおそらく井上選手の作戦でしょう。
1Rの意趣返しですね。突っ込んできたネリに頭をつけ、離れ際に左フックのダブルで二回目のダウン。
立ち上がったネリは懸命にフックを振り回しますけれども、全部見切られてましたね。

ネリはゴングに救われる形となりましたが、井上選手はここでも決めに行かなかったですね。結構、1Rのダウンを根に持っていたんじゃないかと思います。次のラウンドで派手に倒さねば気が済まん、みたいな感じだったのかもしれません。

■戦慄のラストラウンド

十字を切って神に祈り、悲壮な覚悟でコーナーを出るネリ。
もう、この時点でほとんど余力がなかったのでしょう。パンチに迫力がなくなって、このラウンドは越えられないだろうなあ、と思いました。

ガードを固めてネリに打たせる井上選手。普段、パンチを観察するときにやる行動ですが、ここは完全にマウントを取りに行ったというか。誰が相手なのかをわからせてやる、といった気持じゃなかったかなと思います。お客さんを意識した行動だったんでしょう。そういう、那須川選手みたいな事やらんでもいいよ!とは思いますが。

もう虫の息のネリは上体が起きてしまい、井上選手のストレートで顎が浮きます。力なくコーナーに下がるネリ。井上選手は、左フックを引っかけて右アッパー、というコンビネーションを仕掛けますが、ネリは鬼の形相で左のボディーフックを返します。これが井上選手のアッパーと交錯。一瞬、ネリの頭ががら空きになります。この瞬間、もらった!っていう顔をしながら、井上選手は右を一閃。
コーナーポストまで文字通りぶっ飛ばされたネリは、そのまま糸が切れたマリオネットのごとく崩れ落ち、立ち上がれずにTKO。頭吹っ飛んだんじゃないかって思うくらいの倒れ方でしたね。あんなのはじめの一歩くらいでしか見ない倒れ方。

スーパーバンタムで「イノウエはパワーが通用しなくなってきている」と言い出した人たちをあざ笑うかのような規格外のハードパンチでした。フェザーでも無双できそう。


■終わってみれば

1Rの衝撃はありましたけれども、終わってみれば予想通り、井上選手の圧勝劇。生観戦していた方も大興奮だったんじゃないでしょうか。

ただ、これも珍しく、勝利者インタビューではとんでもなくハイテンションだった井上選手。たぶんですけど、試合そのものより、「興行を成功させなければならない」っていうほうが井上選手にプレッシャーになってたんじゃないかと思うんですよね。

日本人がメインイベンターのボクシング興行が東京ドームで行われるなんて、ほんとにずっと考えられないことでしたし、ここから先、ボクシング界、あるいは大橋ジムが興行面で成功するには、塩試合でもだめ、負けるなんて論外。圧倒的な勝ち方をして、観客を満足させなければならなかったわけです。それは、井上選手にとってもやっぱり感じたことのない重圧だったんじゃないでしょうか。珍しく大会場に飲まれてふわふわしている井上選手を見たなと。人間離れした強さを見せつけつつも、ああ、やっぱり人間なんだな、と思いました。

大橋会長、あんまり変なプレッシャーかけないでください。


ネリもね、戦前はいろいろ言っておりましたが、思い知ったことでしょう。モンスターはモンスターである、ということ。でも、井上選手のパーフェクトレコードに「初ダウン」という傷を刻み込んだのは、ある意味大金星であったのではないかと思います。


ということで、事前の予想が全部詰め込まれ、すべて予想通りになっているのに試合展開自体は予想外、という不思議な試合となりました。心臓に悪いよ、もう。


■バンタム級戦線の話

さて、同日行われたバンタム級の王者決定戦。井上拓真選手が防衛に成功、武居由樹選手が強敵マロニーを下して新王者に輝き、先日、エマロドに勝った西田選手、来場していた愛の拳士こと中谷潤人選手を含めて、バンタム級は日本人が主要四団体のベルトを全て押さえました。
ここから、どういう風にストーリーが展開していくかはわからないのですが、井上拓真選手が「四団体統一」を目標にしている以上、四人の日本人による王座統一戦というのが目玉にはなってくると思います。

ただ、武居選手と井上拓真選手は同ジムなので対戦しないと思いますし、大橋会長は二人をどうする予定なんですかね。今年いっぱい、9月・12月とあと2戦、井上選手がSバンタムで防衛戦をして、来年にはフェザーに上げるのかな。で、井上選手が上がったら武居選手が本来のSバンタムに上がる、という感じですかね。

今日の試合から見るに、井上拓真選手は攻撃的スタイルを手に入れたとはいえ、パンチがない、というところはまだまだ変わらない感じがします。武居選手もスタミナという課題も見えましたし、あれだけボディショットを打ったのにマロニーが失速しなかったところを見ると、やはり井上選手の強打とはまだ質の面で追いついていない、というのが見えました。減量苦もあったかもしれませんけど。

四人の王者を比べると、やっぱり中谷潤人選手が頭二つくらい抜けている気がしますね。ここに、比嘉選手、堤聖也選手、那須川天心選手なんかが絡んできて、バンタム級戦国時代に突入しそうです。

軽量級はほんとに日本人が強くなったなあと思いますね。
まだまだボクシング好きおじさんにはわくわくする時代が続きます。

















小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp