あなたが視た最も怖いものは?
「あなたが今まで視た中で、最も怖いモノはなんですか?」
長らく「なんか知らんけど、たまに変なモノを視る人」をやっているが、この質問をされるといつも答えに窮する。
もちろん、私が思うところを素直に答えてもいい。
その場合、相手は残念かつ「わけわからんわい」という顔をする。
そう、この質問をする人が期待する答えは、「怖い話のテンプレ霊」
つまり、単純にビジュアルが怖い奴。
しかし、私はビジュアルが怖い奴を視たことがない。
それどころか、一定数以上を視たあたりから幽霊を視ても何も思わなくなってしまった。
そして何も感じなくなると、視る回数は減っていく。
何しろ視ても得なことなどないので、認識上から自動的にカットされていくのだ。
(一部、カットしきれなかったものを時々視ている感じ)
それに、諸事情により私はリアルスプラッタな現場を見慣れていて、ちょこらちょっと血塗れの霊が出たところで怖くない。
そんな事情で、皆が期待する怖いモノと、私が思う怖いモノは違うのだ。
私が思う怖いモノは「意味が分かると怖い話」に似ている。
一見は、普通。だが、意味が分かるとゾッとする。そんな感じ。
だから、人に説明するのが難しいし、中々分かってもらえない。
でも、せっかくだから、今日は最近視た中で一番怖かったモノの話をしてみようと思う。
■ショッピングセンターにて
ある日、私は某ショッピングセンターに来ていた。
商品を見ながらプラプラ歩いていると、遥か遠くに見知った顔が見えた。
「M……とH」
M(女)とH(男)というのは、以前の職場の同僚(M)と上司(H)である。
そう認識した瞬間、なぜか私はすぐ横の通路に身を隠した。
「会いたくない」とか、そうゆう考えを巡らせる間もなく、体が自然に動いたのである。
本編に大きく関係しないので軽く触れるだけにするが、この二人は"社内不倫カップル"だ。
ついでに言えば、Mは陽キャを装ったメンヘラである。
あぁ、ビックリした。まさか、こんなところで見かけるとは。
しかし……白昼堂々、不倫デートか。凄い神経をしているな。
しかも、あんなに顔と顔を寄せ合って。
いや、寄せ合ってというよりベッタリくっつけて……あれ?
瞬間感じただけの違和感に薄い輪郭がついた。
額にじわっと汗が浮かぶ。
あの二人、"別れた"んじゃなかったっけ?
二人の社内不倫の様子とその結末について、私はとある筋から情報を入手していた。
社内不倫は「結局バレた」というよりも、最初からバレバレだった。
何しろ相手はメンヘラMなのだ。一般的な社内不倫のセオリーを守れるわけがない。(どうゆう意味か、女性の皆様はお察しだろう)
Mは相当社内をかき回したそうで、そのこともあり会社は解雇。
さすがにHとも別れることになったのだが応じず、ほぼストーカーになり中々の修羅場だったという。
(詳しくは割愛。詳しく書いたら別記事が3本は書けてしまう)
あの状態で復縁したのか?
いやいやいや、そもそも二人の顔が見えたのがおかしい。
かなり距離があったのに、どうして私の視力で顔が認識できるんだ?しかも、はっきりくっきり。
……違う、はっきりくっきり見えていたのは、Mだけだ。
Mの顔を見て不倫の話を思い出し、相手はHだと思ったんだ。
心臓がドキドキする。
この距離でハッキリ認識できるモノは……肉眼で見ているモノではない。
肉眼で見えない距離でもハッキリ視えるのは、ほぼ100%マトモなモノではない。
私は隠れながら"多分二人"が来るのを待つ。
思った以上に離れていたのか、かなりの間があった。
そして、やっと私の横に"それら"はやってきた。
Hは、私の知っているHだった。
顔色の悪さは記憶そのままか、いや、かなりやつれている。
通行人が不自然さもなくHを避けた。間違いなく実体があるようだ。
だが、その横の、いや"後ろ"のMは……実体じゃない。
Mは、Hにしがみついていた。
「おぶさる」ではない。四肢を蜘蛛のようにHの体に絡ませて、まさに「しがみついている」のである。
その状態で肩に顎を乗せ、艶のないHの頬にピッタリと自分の頬を張り付けている。
時々、男性髭脱毛でツルツルにしたHの顎あたりを撫でながら、実に満足げに笑う。
気付いたら……通路と自分のいる隙間の間に簡易結界張ってたさ。怖すぎて。
Mの顔は、別に青白くもなければ、血塗れでもない。
口が耳まで避けているわけでも、目玉がないわけでもない。
もっと全体的に言えば、ちょいポチャでオッパイと尻の大きい、何処までも平均的な30代子持ち女の容姿である。
ただ、笑顔の中身が、完全に狂っている。
私は、"一応二人"が遠く離れたのを確認し、その後鉢合わせないようにして帰宅した。
■実に恐ろしきは人なり
ここまで読んだあなたは、途中から「ひょっとしてMは自殺などをして、その霊がHに憑りついていたのか?」と想像しただろう。
だが、残念ながら違う。
HについていたMは、死霊ではなく「生霊」だ。
生霊について特にオカルト好きじゃなくとも言葉くらいは耳にしたことがあるだろう。信じていなくても「生霊でも憑いているんじゃね?」という軽口を吐いた経験があるかもしれない。
生霊についての解釈については多数あるが、いずれも共通しているのは読んで字の如く、生霊の元は生きている人間だということ。
私はこの生霊というモノが最も恐ろしい。
確かに神仏の怒りも恐ろしい。しかし、こちらが礼儀礼節を守っている限りは問題がない。
幽霊も基本は怖くはない。
視かけただけでは憑いて来ないし、憑いてくるには相応の理由がある。
(ごく稀に理不尽な理由で憑いてくるが、それはもはや事故)
しかし生霊は、生きている狂人以上に理不尽で狂っている。
私は理性というものは、肉体が保たせている部分も大きいと思う。
言い換えれば肉体がある以上、物理法則、肉体限界、社会的拘束から逃れられない。
例えば「空を自由に飛びたいな!」と思っても、物理法則に則って不可能だし、「あいつ、マヂころ!」と思っても、やってしまった場合の社会的制裁などを考えてブレーキがかかる。
こういった外部からの制約が理性の一部でもあると思うのだ。
しかし、体から抜け出た生霊には、その縛りがない。
「大好きなあの人を独り占めにしたいな!あの人にずっとくっついていたいな!」と思えばできてしまう。私が視たMのように……。
生霊というのは、大体飛ばしている側(本体)は自覚がない。
無意識に飛んでいる。
無意識、潜在意識、様々な概念の檻に閉じ込められない剥き出しの欲望。
特にMのように、生身でもなりふり構わない奴の生霊は"解き放たれた獣"。
更にメンタルがヘラっているのだから、コカインベアも真っ青だ。
これ以上に怖いものがあるか。
それでも、ここまで読んだ人の中には、「Hに教えてあげないのか?」とか「何とかしてあげないのか?」と思う人もいるだろう。
断言する。絶対に教えないし、助けない。
私は、基本何か視えても教えない。
特に聞かれてもいないこと、言う必要がないこと、言った所で私がどうにもできないこと、関わりたくないことは教えない。
何故かって?自覚がない相手に「あなたに〇〇が憑いているわ。(でも私にはどうにもできない)」というのは、親切ではなく嫌がらせだからだ。
もっとも今回のケースは、ほぼ確実に何とかできる。
HからMの生霊を外して、更に霊的な制裁まで与えられるカードを持っている。だが、やらない。
なぜなら私は、正義の味方でもライトワーカーでも、ましてや善人でもないのだから。
私は慈善事業はしないし、仮にHが金を積んで土下座をしてもやらない。
何故なら、Hの浮気はこれで3度目だからだ。
あくまでも自己申告だが、本人が過去に2度したことがあると豪語していたし、そのうち1度については他の人からも証言を得ている。
いずれにしろ初犯ではない。
Mも別にHを心底愛しているから生霊を飛ばしているわけではない。あれはただの所有欲とか独占欲だ。
次のターゲットを見つけたら自然と離れるだろうし、ハッキリ言えばビッチ女なので、そんなに長くもかからないだろう。
だから、まぁ……
チ〇コが立たなくなるまで、Mに生気吸われたらいいんじゃねぇ?世の中のためにさ。ぎゃはははっ!
と、思っちゃったりするのだ。(下品で失礼。心の声が漏れ出た)
強いて何か言ってあげるとしたら、Hは若かりし頃、心霊スポット凸をしていたそうだから、肩を叩いて言うね。
「おめでとう、今まさに君は心霊体験をしている最中だよ」
生霊については、まだ語り足りない部分もあるし、私の文章が拙いこともあり、中々怖さは伝わらなかっただろう。
特に今回の話は「私が二人を知っているからこそ怖い」という部分が大きい。
あぁ、そうだ……最後にもう一つ。
一般的な死霊、物の怪の類は憑りついても隠れたがる。
何しろ正体がバレると祓われてしまうからだ。
しかし、生霊のMは生身と疑いたいほどハッキリ視えていた。
それがどういう意味かわかるだろうか?
それは、自分から姿を視せていたからだ。
「コレは私のモノだ!」
と、視せびらかしているのだ……。
あぁ、怖や、怖や。