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柴犬の龍神参り

古今東西、動物の不思議な話、奇怪な話は、心なしか猫にまつわるものが多い気がする。

もちろん、犬の話がないわけではないが、猫の話に比べるとインパクトに欠ける気がする。
そして「しっぺい太郎」のような英雄譚が多い気がする。

世の中が「犬派」「猫派」に分かれる中、「犬猫派」というコウモリ野郎の立ち位置にいる身としても 「これは!」と思うエピソードは、明らかに猫のほうが多い。

……とはいえ、やはり犬にも不思議はある。

※今回の話は、まだ愛犬が生きていた頃に書いた記事をリライトしたものです。当時の様子をそのままにしたいため過去形にはせずに掲載しています。

■野生が行方不明の柴犬

30年前から「猫占領地区」となっている我が家。
その中に紅一点、いや、犬一頭で暮らしているのが愛犬・柴子である。

柴子とは、もう10年以上生活を共にしているが、私は彼女から一度たりとも野生を感じたことがない。
柴子がチワワやトイプードルなど"トイドッグ"に属する犬種であれば問題はないのだが……彼女は、狩り犬の誉れ高き「柴犬」である。

そんな柴犬・柴子の主なスペックは以下の通り。

  • 約6kgのコンパクトボディ。(一般的な柴犬雌の理想体重は8kg)

  • 好物を見ると1.5倍(当社比)大きくなる"どんぐりまなこ"搭載。

  • とにかく吠えない静音設計。唯一インターフォンがなった時だけ吠えるが、私が留守だと吠えもしない。(ご近所さん証言による)あまりにも吠えなさすぎて、いざ吠えても一瞬吠え声だと認識できない。

  • 猫の中に紛れられる"ニャン迷彩"機能あり。野良猫、地域猫にも有効。

虚無モード発動中

……柴犬って、犬の中でもっとも狼に近い遺伝子を持っていて、古来から狩猟犬として野山を駆け回っていた犬種だよね?だよね?
だ・よ・ね?

もう山に帰れない柴犬

そんな柴子だが、それでも獣である以上、野生はあるのだ。
……ヒゲの先くらいには野生が。

■座敷柴犬の不思議な習慣

そんな吹けば飛ぶような野生の持ち主・柴子には、不思議な習慣がある。

ダンナの部屋に祀ってある「龍が宿る石」
我が家では"龍神ハウス"と呼んで祀っている石だが、柴子はその石の前がお気に入りらしい。

お気に入り、というよりも、ダンナ部屋に行った時には、必ず最初にその前に行くのが決まりのようだ。※

※私は昔から一人の時間がないと発狂する&ダンナとは生活サイクルが違い過ぎるため、同じアパート内に自分名義の部屋を借りている。犬や猫は基本的にそちらにいる。

龍神ハウスは窓の横に祀ってあるため、最初は窓の外に何か気になるものがあるのだと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
そもそも、ダンナの部屋に行く時のテンションがおかしい。

「ダンナの部屋へ行く」と言うと、散歩以上の笑顔で外へ出て、部屋の前の螺旋階段を駆け上がる。
齢14、人なら70過ぎの老婆が、螺旋階段を一気に駆けあがるのだ。擬人化で想像すると怖い!
そして「早く!早くドアあけてよ!」と部屋の前で待っている。
たまにテンションが上がり過ぎて、部屋の前の通路を跳ねながら往復している。

この流れでいけば「それほどまでにダンナが好き」となりそうだが、別にそうではない。

部屋に到着してダンナがオヤツを差し出しても、持って生まれた脚力で華麗に飛び越えていく。
いや、時にはダンナを踏みつけ、踏み台にしてすっ飛んでいく。
そうして最初に向かうのが「龍神ハウスの前」だ。

そこで、今までのテンションが嘘のように大人しく座る。
気が済むまで、ただひたすらに座り続けるのだ。

その後ようやく腰を上げ、後ろで待っていたダンナが恭しく差し出すオヤツを食べてあげる。
あるいは、本来のお気に入りの場所・座椅子の上で丸くなる。

柴子がダンナの部屋に出入りするようになって、既に5~6年は経っている筈なんだが、なぜか最初から今に至るまでこの調子だ。

■不思議な習慣を推理する

人も獣も行動には、理由がある。
それは大それた理由でなくともいい。「暇つぶし」「手持ち無沙汰」でも十分な理由だ。

私は、柴子が家に来てから様々な行動を観察し、「なぜ、それをするのか?」を考えてきた。
柴子をじっくり観察し、推測し、時には消去法で、時には阿保な妄想力で理由を考える。

この現象についても、長年理由を考えていた。
そして、いつものように所定の位置に座る柴子を見て、ふと思った。

まさか、こやつ、龍神さんに参拝してるのでは?

そんな奇想天外な妄想をダンナに話してみたのだ。

ダンナ「その可能性は無きにしも非ず」
私「何!?今の8割方ギャグだったんだけど!」
ダンナ「だって、柴子も一応獣のはしくれだし。 人には分からないものを感知していてもおかしくないよ」

ダンナの言い分、もっともだ。"野生が行方不明=鈍い"ではない。
柴子は、シースルー猫に睨まれただけでベッドの上に登れなくなるし、エアー親父にも律儀にじゃれつく。
それならば、石に住み着いている龍神さんにかしずくなんて朝飯前。
いや、朝んぽ前だ!
(朝んぽ=朝の散歩)

では、仮に柴子が龍神さんに参拝しているのだとして、犬といえばよく言われるのが"家庭内順位付け"である。
これについて近年「実は順位付けはない」という話が出ているが、日頃の柴子の態度を見ていると、まるっきりないというのも違う気がする。

今まで、家庭内のランキングは猫>瑞樹>柴子>ダンナだと思っていたが、そこに龍神さんが加わると、こうなるのだろうか?

龍>猫>瑞樹>柴子>ダンナ

ダンナ「いや、こういう可能性もある」

猫>瑞樹>龍>柴子>ダンナ
猫>龍>瑞樹>柴子>ダンナ
龍>猫>瑞樹>柴子>ダンナ

正しい順位は分からないが、日頃の行動を見ていると、とりあえずランキング最下位はダンナで間違いないだろう。

実際に参拝しているのかはさておき、獣は「自分の居心地のいい場所」を見つけるのに長けている。
石の龍神さんは、部屋の隅の小祭壇(実際には祭壇ではない)でも満足し、それでも仕事はきちんとこなす真面目な龍である。
加齢臭に反して妙に神社っぽい雰囲気を醸しているダンナの部屋だが、その源は石の龍神さんだといっても過言ではない。

髭の先ほどしか野生のない柴子であっても、 それを感じている可能性は捨てきれない。
きっと、あそこは「柴子専用パワースポット」なのだ。

もちろん、どこまでも妄想と推測で絶対に証明できることではない。
しかし、特に害のないことであれば、どう考えたって自由じゃないか。

とりあえず、はっきりしていることは……
どうやっても、ダンナは柴子の子分以上にはなれないということだ。

あぁ、今日もまた、柴子に蹴られたダンナが悲鳴をあげている……。

真相は犬のみぞ知る


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