電話の向こうに"ナニ"がいる
世の中は日々進歩し、消えていく道具も多い。
しかし、中には姿や役割を変えつつ存在するものもある。
その一つが「電話」だ。
固定電話が携帯電話へ。ガラケーからスマートフォンへ進化した時点で、その機能は「ほぼパソコン」になった。
それでも「電話(phone)」と名前がつく以上、今の所その機能は消えていないし、人々もそれを忘れない。
当たり前に使っているが改めて考えると不思議な存在、電話。
今宵はそんな電話の怪について語らせていただこう。
※この話での「電話」とは、接続方法が何であっても「音声通話のみ」と限定し、テレビ電話やZOOMなど画像付きは除外する。
電話の向こうに‟ナニ”がいる
人はコミュニケーションを取る際、五感のいくつかを使って相手の情報を取り入れる。
目で表情を、鼻で体臭を、肌で温度感を、耳で言語情報を・・・・・・という具合だ。
しかし、電話は五感で言えば「聴覚」しか使わないし、使えない。
相手の今の状態を察する手掛かりは"声"と"言葉"しかない。
だからより相手を想像し、足らない情報を埋めようとする。
そのあたかも見えない手で物をまさぐるような感覚は、
・・・・・・目に見えぬ怪異を捉える時に張り巡らす感覚に少し似ている。
■固定電話の怪
今は携帯電話が一般化し、固定電話、俗に「家電」と呼ばれるタイプが減ってきている。
だが、ほんの四半世紀前までは携帯よりも家電が主流だった。
今も「仲のいい友人と電話で話す楽しみ」はあるが、当時はネット普及前だったので今以上に娯楽度が高い。
だから長電話は"あるある話"で、かくいう私も数人そのような電話友達がいた。
しかしその中で、ある友人とだけは長電話ができなかった。
別に彼女の両親が厳しいわけではない。
彼女の家に電話すると5分もたたずに寒気がして話続けられないのだ。
寒気、といっても物理的に寒いわけではない。
寒くもないのに背筋だけがゾクソクしはじめ、次は手足が震えてくる。
それでも電話を切らず話続けていると、震えは手足から全身に広がり、最終的に歯の根も合わないほどになってしまう。
これが、ほぼ毎回。
寒気だけなら気のせいとして通せるが、分からないのは‟震え”だ。
私はもともと寒くても滅多に震えることがない。
稀に震えている時は、そのままでいたら凍死レベルに寒い時か、あるいは高熱が出て寒気がする場合。
そして・・・・・・ナニカ、マズイモノガ傍ニイル時。
私は自室にコードレスの子機を持ち込んで電話をする習慣があったため、始めは自分の部屋に「ナニかがいる」のかと思っていた。
実際にいろいろと出る実家だったし。
だが、自室でそのような状態に陥るのは件の友人と電話している時だけである。
「おかしい」と思いながらも「人生に謎はつきものだ」とスルー。
何しろ、その頃はまだ10代ど真ん中だったため、それ以上深く考えなかった。
しばらくして、初めてその友人宅へ遊びに行った。
別段変わった家ではなかったが、電気が煌々と灯っていても薄暗い家だったと記憶している。
そしてその日は泊めてもらったが、それでも特別おかしなことはなかった。
翌朝、起きて居間へ行くと友人がニヤニヤしながら
「なんか変なことなかったか?」
と聞いてくる。
特になかったと伝えると、ニヤニヤ顔を一変、非常につまらなさそうな顔で
「お前が泊まった部屋は、かなりの高確率で女の幽霊が出る部屋だったのに」
と言い放った。
なんでも、彼女の家には以前から女の幽霊が住みついていて、それは家族全員周知の事実なのだそうな。
普通であれば黙っていた友人に何か思う所なのだろうが、我が家も同じく‟出る家”のため、特に酷いとも怖いとも思わなかった。
ただ、内心でこっそり納得はした。
その‟出る部屋”の前には、今となっては懐かしの黒電話が置いてあったからだ。
なるほど、彼女と電話で話している間、その霊とやらがすぐ側にいたのか。
そんなことが、この友人以外にも数回あった。
家人にそれとなく確認すると、姿は見ないまでもポルターガイストがあったり、家族公認で変なモノが住み着いていたりと、ほぼパーフェクトで‟ナニカ” がいる家だった。
余談だが、この話に出てきた友人宅では、あれほど頻繁に姿を現していた幽霊が私の宿泊後ぱったりと消えてしまったそうだ。
言われてみたら、確かにその後から彼女と電話していても寒気や震えがなくなり、長電話するようになっていた。
友人には「お前、あの日何をやった?」 としつこく聞かれたが、私は何もしていないし霊が消えた理由など知らない。
■携帯電話でも"怪"します
やがて時代は進み、携帯電話が普及し始めた。
この携帯が普及し始めた時、なぜか根拠もなく
「有線じゃないから、もう大丈夫”」
と考えていた。
もちろん、全くもって大丈夫じゃなかった。
ある日、携帯電話に友人から着信があった。
もちろん、相手側も携帯電話だ。
通話ボタンを押して出たものの、向こう側は物凄くザワザワしている。
何を言っているかは知らないが、とにかく複数人の声がしてうるさい。
私「ちょ、周りがうるさくて声が聞こえないんだけど?」
友人「え?周り?・・・・・・誰もいないよ」
私「・・・・・・今どこ?」
友人「・・・・・・墓場(墓参り中)」
・・・・・・チーン。
■開口一番が怒声
電話に纏わる不思議な話で、自分がやらかした失敗と言えば「開口一番の怒声」
これは電話に限った話ではないのだが、どうやら私の守護さんが、時々私の口を使ってお祓いじみた真似をして下さるらしい。
どうゆうことかを一つの案件で説明すると以下の通り。
携帯が鳴ったので手に取る。
ディスプレイの相手を確認し、応答ボタンを押して「もしもし~」とでた。
いや、でた"はず"だった。あくまでも、私の中では。
だが、実際に口から出た第一声は
「お前、今どこにおるんじゃぁぁぁ~!!(大音量)」
当然、向こうはビックリだが、こっちもビックリだ。
そんな時、相手は大体心霊スポット、もしくは心霊スポット相当の場所にいる。
言うまでもなく電話を取った時点でそんな事情は知らない。
そして最初に書いた通り、私は「もしもし~」と出るつもりだったので、なんでそんな怒声が出るのかサッパリ分からない。
オマケに、この怒声がありえないほど怖いらしい。
相手には「幽霊よりお前の怒声が怖い。なんて奴だ」 と散々言われたが、
それを言うなら、こちらのほうこそ「心スポ凸の実況中継電話してくるとは、お前の血は何色だ?」と言いたい。
その後、なぜか「心スポ凸」 の部分は省かれて、私の怒声の部分だけクローズアップされ「アイツは突然キレる」という話がしばらく独り歩きしていた。
■本日のまとめ「気にしたら負け」
およそ30歳を過ぎるまで、このようなことが度々あった。
特にコールセンターで働いていた時は
・喋っていると寒気が止まらなくなる
・変な声が混じる
この程度にはいくつか当たった。
「開口一番の怒声」に関しては、さすがの守護さんも考慮してくれたらしく、仕事中にやらかしたことはない。
そもそも心霊スポットから問い合わせをしてくる客もいないだろう。
いや、いてたまるか。
もちろん客先に真偽の確認はできていない。
まさか客に「お宅の家ってオバケ出ます?」などと聞けやしない。
そして結構どうでもいい。
何しろ仕事をしていて怖いのは、幽霊よりもクレーマーだ。
電話での事例が減ってきたのは、恐らく時代的変化だろう。
ネット普及が進んで電話よりもメールなどのネットを介する通信が主力となり、社会も私自身も電話自体の使用が減ったためと考える。
もっとも、私の身には今また新たな怪現象が起こっているのだが・・・・・・。
電話に代わって現れた怪現象。それは
「ネットを介した八つ当たり」
ネットサーフィン中、開いた瞬間に眉間に輪ゴム鉄砲をぶち込まれたような衝撃が飛んでくるページがある。
内心で「ぎゃあ!」と悲鳴を上げながらスクロールしていくと、かなりの高確率である種の写真が貼ってある。
説明が難しく、誤解を招くのが嫌なため詳細は語らないが「私が一番怒らせたくないモノに関係する写真」とだけ言っておく。
これも真偽を確かめられないが、多分撮影者が何か無礼をして怒らせたまま撮影しているのだろう。
どうゆう原理かは知らないが、ただページを開いてしまっただけの無関係な人間に怒り波動をぶつけないで欲しいとは常々思っている。
しかし、画面越しに怒り空気砲を撃ってくるとは器用な連中だ。その時代に食らいついてくるハングリー精神は評価する。
他にも色々とあった気もするが、何しろ多少のおかしなことは「気のせい」と処理するため、あまり記憶に残っていない。
むしろ精神性衛生上、残さないようにしている。
とりあえず怖い話にあるような「オバケから電話がくる」「あの世からメールが届く」という目には合っていない。
ついでに言えば「恐怖新聞」も届いていない。
長い人生、私の頭で学べたことは少ないが、その少ない学びの中で得たもの、それは
怪異と他人は「気にしたら負け」
この一言に尽きる。