働きアリの中にも「怠け者」がいるけどそれはただ怠けてるだけじゃないってお話
アリといえば、休む間もなく働く勤勉な生き物として知られています。子どもの頃に読んだ童話やアニメでも、アリたちはせっせと食べ物を運ぶ姿が描かれてきました。
しかし、実際のアリの世界には、一見すると「怠け者」に見えるアリがいることをご存じでしょうか?
「アリの集団は2割が働きアリ、6割が一般的なアリ、残りの2割は怠け者のアリで構成されている」
この言葉をどこかでお聞きしたことがあるかもしれません。この法則は、企業組織や人間社会にも当てはめることができます。たとえば、企業組織では、優秀な人材が2割、普通の人材が6割、問題児が2割に分かれる傾向にあると言われています。
この”働きアリの法則”はほとんどの場合で良くない例えで用いられます。
しかしながらアリという生体において、その背後には驚くべき戦略が隠されていることが近年の研究でわかってきました。
怠けているアリはさぼっているだけなのか、それとも何か意味があるのか、それでは「怠けアリ」の生態についてみていきましょう。
怠け者アリの発見
まずは怠け者アリが見つかった経緯についてです。
科学者たちはアリの行動を詳しく観察する中で、全てのアリが働いているわけではないことを発見しました。あるコロニーを観察すると、2〜3割のアリが活動せず、じっとしているだけの状態であることが分かったのです。
このようなアリは、巣の中でただ休んでいるだけで、エサを探しに行くことも、巣を清掃することもありません。
「怠け者」とされるこのアリたちは、一見するとコロニーにとって役に立たない存在のように思えます。
さらに興味深いことに、働きアリだけを集めても、一部がサボりはじめ、やはり2:6:2に分かれるという研究結果も出ました。
科学者たちははじめ、この変化の方に着目をし、研究を進めていきました。この説は一般人からしても興味深く、「集団の中で2割はサボる」という一種の名言のようなもの一般的に広まっていきました。
しかし、近年の研究で「怠け者アリ」を軽率に「無駄」と判断するのは早計だったことが分かってきています。
「怠け者」が果たす重要な役割
怠け者アリは本当に何もしていないわけではありません。実は、彼らはコロニー内の「予備要員」として機能しているのです。
例えば、働きアリが突然減った場合や、巣が外敵に襲われた場合、これらの「怠け者」がすぐに働き始めることが観察されています。つまり、彼らは通常の活動には参加しないものの、コロニーの非常事態には即座に対応できる「バックアップ」として待機しているのです。
また、休んでいる間にエネルギーを蓄えたり、巣内で仲間の情報を収集して次の行動に備えたりしていると考えられています。この柔軟性が、アリのコロニー全体の生存率を高める鍵になっているのです。
自分探しと怠け者アリ
この行動は、人間の社会にも通じるものがあります。「怠け者」と見なされる人が実は新しい役割や才能を発見する機会を待っている場合があるように、アリもまた、自分の「役割」が必要になるタイミングを静かに待っているのです。
例えば、個人の中には長期的にエネルギーを蓄え、適切なタイミングで力を発揮するタイプの人がいます。これをアリに例えるなら、「今は怠けているように見えるけど、いざというときに活躍する」存在です。
研究から学ぶこと
この発見は、組織やチーム運営においても示唆に富んでいます。全員が常に全力で働くことを求めると、かえって組織の柔軟性が失われてしまうことがあります。アリのコロニーのように、一部のメンバーが「休む」ことで、チーム全体の効率性や持続性を高めることができるのです。
怠け者アリが担う役割は、個々の多様性や柔軟性が組織の成功に直結することを教えてくれます。つまり、「何もしない時間」や「待機する役割」が、全体のバランスにとって重要なピースであるということです。
おわりに
アリの世界は、私たちが思う以上に複雑で奥深いものです。「怠け者」として捉えられてきたアリたちも、実際には重要な役割を果たしています。このような自然界の知恵から、私たちも「休むこと」や「準備すること」の大切さを学ぶことができるのではないでしょうか。
次回、アリを見かけたときは、働きアリだけでなく、じっとしているアリにも注目してみてください。彼らもまた、コロニーの未来を支える存在なのです。