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忘れられない古典の魅力—『暗くなるまでこの恋を』デジタルリマスター版

『暗くなるまでこの恋を』を10年前に映画館で観た

かつて映画ファンを魅了したフランソワ・トリュフォー監督の名作『暗くなるまでこの恋を』が、デジタルリマスター版として2013年11月16日に特別企画「スクリーン・ビューティーズ Vol.2 カトリーヌ・ドヌーブ」で蘇りました。約10年前ですが新宿ピカデリーで、1970年の日本初公開から40年以上の時を経て、その魅力を再発見した貴重な機会となりました。

映画を見る楽しみのひとつは、時代を超えた名作との出会いではないでしょうか。トリュフォー監督がヒッチコック風の映像技巧を駆使して描いたこの作品は、単なるミステリーを超えた人間の欲望と愛の複雑さを描いた傑作です。特に妖艶な悪女を演じるカトリーヌ・ドヌーブの魅力は、スクリーンを通して今なお色褪せることなく観客を魅了します。

フランス領レユニオン島でタバコ工場を営むルイ(ジャン=ポール・ベルモンド)は、写真でお見合いした女性と結婚することを決意します。しかし、彼女を迎えに行くと、そこには写真とはまるで違う美女(カトリーヌ・ドヌーブ)が現れたのです。二人はすぐに結婚しますが、やがて彼女はルイの財産を持ち出して姿を消してしまいます。

アメリカのミステリー作家ウィリアム・アイリッシュの小説「暗闇へのワルツ」を原作とするこの映画は、当時のフランス映画界で最高峰の才能であったトリュフォー監督とヌーヴェルヴァーグを代表する俳優ベルモンド、そして若き日のドヌーブという黄金のトリオが生み出した傑作です。公開当時は波乱に満ちた制作過程もあり評価が分かれましたが、今日では監督の作品群の中でも独特の位置を占める作品として再評価されています。

特筆すべきは、今回のデジタルリマスター版での映像美の復活です。デニス・クレルバルによる美しい撮影は、レユニオン島の風景からパリの街並みまで、当時のフランスの雰囲気を見事に切り取っています。特に色彩の鮮やかさは、デジタル技術によって本来の輝きを取り戻し、まるで昨日撮影されたかのような鮮度で観客の目を楽しませてくれることでしょう。

また、アントワーヌ・デュアメルによる印象的な音楽も、この映画の魅力のひとつです。物語の展開に合わせて変化する音楽は、緊張感と哀愁を絶妙なバランスで表現し、観る者の感情を自然と誘導していきます。

映画『暗くなるまでこの恋を』は、単なるエンターテイメントを超えた芸術作品です。123分という上映時間は決して短くありませんが、その豊かな映像体験は時間を忘れさせるほどの没入感をもたらします。

またいつか、この特別上映が行われ、映画史に残る名作を大スクリーンで体験できる貴重な機会に出会えるといいなぁと思っています。マーメイドフィルム配給によるこの特別企画は、おそらく長い間再上映されることのないと思いますが、もしあればとても貴重な機会となるでしょう。映画ファンの皆様、その機会をぜひお見逃しなく。

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