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#花束みたいな恋とは?

決戦1

今思えば、

「花束みたいな恋をした観に行こうと思ってるんやけど一緒にいかん?」

この言葉が運命(呪い)の始まりだったかもしれない。

M氏からの連絡があったのは土曜日。
美容院でカット、カラー、パーマ、トリートメントのフルセットをしていたものの、その後は翌日のオンラインイベントに備え、自宅で仕事をするつもりだった。

とはいうものの、久しぶりの美容院、数年ぶりのパーマ、新しく買ったワンピース。このまま帰宅するのはもったいない気がして、二つ返事でOKした。

1年ぶりの映画館。ワクワクした。
ワクワクして、つい買いすぎてしまった。
特大サイズのポップコーン、ジュース、チュロス。
遅れてくるM氏を待ちきれず、ロビーで1人チュロスをむさぼる女 イズ わたし。

しかしながら、M氏と合流してシアターのドアを開けると不思議なことが起こった。私たちの座席には人が座っていたのです。そうです、私たちが購入していたチケットは翌日のものだったのです。


え?

え?

えええ?

「花束みたいな恋、出来なかった」

(この日は満席だったようでチケットの買い直しようがなかった)(不思議なのは2人とも今日のこの結末に、なぜか妙に納得していたこと)(なんで???)

決戦2

上映日も残りわずかに迫ってると聞いた。
でも諦める訳にはいかない。
ええいっと思い切ってその日の平日の夕方のチケットをポチっとし、爆速でその日の仕事を終わらせた。

本当はM君と観に行こうとしたけど、断られてしまったので今度はソロ映画になった。在宅ワークを終え急いで映画館に向かう。M君もわたしの家にいて、用事があると言うので一緒に家を出て、駅のホームでバイバイした(逆方向だった)。

電車が動き出して、iPhoneを手に取ろうとバックを漁った。

なかった。

iPhoneが。

え?

え?

えええ?

(iPhoneで予約したのに?)

(遠ざかる駅のホームとわたしの絶望の顔を思い浮かべてください)

落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ。
少し余裕を持って家を出たから、全速力で自宅に戻って向かえばギリギリ間に合うはずだ。

きっと汗だくになる。
上着は今のうちに脱いでおこう。

間も無く最寄駅に到着する。
定期を右手に握りしめる。

電車のドアが開くと同時に飛び出して、
走る、走る、走る。

あともう少しで家に着く、あとちょっとだ。


あ。


私、鍵持ってない。


家に入れないやん。


え?

え?

えええ?


そう、荷物をひとつでも減らしたい私は、
一緒に部屋を出たM君に鍵を託していた。
(託すな)(自分で管理しろや)

iPhoneは手に入らない。
予約番号が分からない。
どうする、どうしよう。

ええい、映画館に着けば何とかなる(はず)、
ともう一度チケットを購入するのも厭わない気持ちで再び映画館に向かって走った。

受付で息を切らしながら事情を説明するとスタッフのMさんは電話番号で照合できると言ってくれた。(まじか)(戻らなくて良かったやん)(でもありがたい)(ありがとう)

この時、もう既に上映時間は過ぎていて、
予告映像も終わり本編も始まるのでは?という時間だった。意識を朦朧とさせながら案内を受け、間違ったフロアに降り立ち、エレベーターに乗り直そうにも全然来ないので階段で5階分を駆け上がり、フロアに着いたと思ったら扉が閉まっていて、でも開けてみたら開いたので(ごめんなさい……)入ってみると、すぐ左側がスクリーンになってたので急いで入った。

E-17、E-17の席……。
暗いシアターの中、足元のライトを頼りに座席を探すと、またもや私の座席に人が座っていた。けれど、隣の席が空いてる。もういいや、ここに座ろう。


ん?
座っていいのか?

(良くない)

ギリギリ上映前だったので、その席に座っている人に、何番のチケットを持っているか尋ねた。



E-17だった。



このシアター、鬼滅の刃でした。


(いい加減にして)


思えば変な入口から入ったので、
スタッフの人にチケットの確認ができていなかった。急いでシアターを出て、やっと、やっと、やっと「花束みたいな恋をした」のシアターにたどり着いた。着席。直後に上映開始。

ま、間に合った……。


上映中はなんの事件も起きなかった。
ありがとう、神様。

エンドロールが終わって席を立つ。
足早にエレベーターに向かうと、そこには、
なんと、Mくんがいた。

用事を済ませて私の部屋に戻って、
私のiPhoneがあるのに気づき、
全てを察してここに来たと言う。

わざわざここまで来てくれたなんて。

「これが花束みたいな恋なの……?」
と思ったのも束の間、聞き間違いと勘違いが交錯してちょっと喧嘩してしまい、「何これ花束みたいな恋だって思っていい感じのオチで締まったと思ったのに。なんで喧嘩になるのなんか違う」と思いむしゃくしゃした。けどその気持ちも丸ごと伝えて仲直りした。この間、わずか5分足らず。

帰りがすっかり遅くなってしまったので、この日はスーパーでお惣菜を買って帰りましたとさ。



エピローグ

そんなこんなで無事映画にたどり着いたのでした。

ん?映画の感想が1つもないって?

(ここからちょいネタバレが入ります)






実はちょっと映画の中で納得いかない点が何点かあって、少しモヤモヤもしていて、でも、この映画を見て「よかったー!」と感じた人たちに、人がいるかもしれないところでそんなこと言えなくて、でも個人的に気になったポイントを少し書かせてください。


映画の中で度重なる偶然のような運命に
どうしても「設定」感を感じてしまって
それを「映画だから」と受け流すこともできず集中力を削がれてしまった部分がいくつかあった。

偶然出会った日に同じ靴を履いていて、マイナーな有名人に2人だけ気づいて、同じイヤホンが同じ絡まり方をしていて、本棚の並びが自分とそっくりで、行きたかったけど行かなかったライブのチケットの日付・日時がドンピシャで、初デートで2人ともJAXAのトートバッグを持ってくる。

(今思えば、この数々の偶然という名の伏線を、最後のジョナサンでのシーンで付近の席のカップルが回収しているのだろうと思うけれど)

そして最後、街で偶然すれ違う。

とくに最後のすれ違いは物語を区切るための予定調和のように見えて「こんな広い東京で偶然同じ店にいるなんて、そんなことあり得ないよ」というのが本音だった。


本音だったんだけど。うん。

だって、そんな、あり得ないじゃん。



待合席で目を凝らした。

そしたらいた。


10年前に付き合っていた人が

数メートル先の席に


え?

え?

えええ?



悪戯のような偶然は時々起こる。

かと言って、背中越しに手を振り合ったりなんてしないんだけど。

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