#2 0.01%の不安は消えない。
土曜日の早朝8:30。
この丘を登った神社ですきなひとが私のことを待っている、
なんだかそれはすごく特別な気がした。
***
連絡を絶っていたこの時間は、
なんだか長かったような、そうでもなかったような。
ふと唇の乾燥が気になって塗るリップクリームはもらったもの。
お昼になるとデスクの上に広げるランチョンマットは一緒に買ったもの。
お気に入りのCDアルバム、内緒だけどそのひとに影響されて買った。
自分の部屋にある借りっぱなしの漫画。貸しっぱなしの漫画。
送り返せていない、手作りのキャンペーン応募はがき。
あちらこちらにそのひとと私のかつての時間や関係性を象徴するものが散らばっていて、それらはしっかりと毎日息をしていた。
ああそうか。会わなくても連絡をとらなくても目を合わせなくても、こんなにたくさん、こんなに近くにあるんだなあ。もう随分とながいこと、ふかいこと、一緒にいたのかもしれない。
でもあの時わたしの中に生まれた不安は、多分もうずっと消えないと思う。
忘れることはあってもなくなることはない。
だってわからない、そのひとがこれから何を選んで、そのうちの何に自分が悲しくなるのか。
不安は必要なもの、だけどほんのちょっとでいい。
階段を登りきって高台の神社の町を一望できるあの場所で、とてもとてもすきなひとの背中を見つけた。
もしかしたらこれは恋の魔法なのかもしれないけど、
そのひとの白いティシャツは朝日に照らされてキラキラと光っていた。
まぶしくて、なによりも美しくて、カメラのシャッターを切りたくなった。
だけどもう走り出していて、そのひとに駆け寄って彼の背中に抱きつく、
なんてできないから、そのひとの少し細いお腹をきゅっと掴んでみた。