#記念写真 「ヘンテコなわたし」
私は好きだった人とのツーショット写真が1枚もない。
厳密に言えば、高校の時にお付き合いしていた男の子とは口論の末に1度だけ撮ったことがあるのを覚えているのだけれど。(そもそも私は写真が嫌いだったし向こうの方が小顔だったので本気で嫌だった。。。)
だけど、そんな自分にとって「記念写真」だと思える写真が1枚だけある。その写真には私しか映っていないけれど、写真を撮ることはお互いに見つめ合うことだと気づいた瞬間だった。だから私にとってはそれが唯一のツーショット写真でもある。
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電話で8割方固めてある別れ話を施行するための、2015年7月14日快晴。
その人は何もかも自分と正反対でありながら自分と似ているという、不思議な人だった。最初に惹かれた部分がお別れの原因になるなんて皮肉はきっとよくあることなんだろう。
そんな彼と最後になるであろう日に何を話せば良いのだろう。考えていたら、前日の夜にふとひらめいた。
彼に、最初で最後にわたしのカメラでわたしの写真を撮ってもらおうと思った。そして、それをTumblrにアップしようと思った。
別れようと話をする日をあえてシャッターに切ること、彼を見る私の表情を私が見ること。
私たちはお互いに完全に別のコミュニティで生活しているから、お互いの直接的な知り合いはほとんどいない。私たち2人を同時に知るのは、1,2人じゃないかなあ。そういう閉鎖的な環境で関係性を築いてきたけど、この写真を公開するってどんな意味になるのかな、そう思った。
彼がこんな私の計画に付き合ってくれる自信はなかったけど、それでも絶対にしてほしかったから、出会い頭に「わたしのこと撮って」と言ってカメラを押し付けた。
「え、恥ずかしいんだけど」
「じゃあ人がいないところ行こ」
「人がいないところなんてないよ〜」
「あ、それ単焦点だから、離れないと取れないから」「落としたら6……いや10万だから!」
「落とさないよ(笑)」
わたしは出会い頭からツンツンしてたし、意味付け出来る写真は撮れないのかもなあと思った。でも、それでもいいやと自分に言い聞かせた。
駅前の大通りを外れて、駐車場の先の、人通りがほとんどないところまで、私が先にぐんぐん歩いていって、振り返った。
そして彼が片目を瞑ってファインダーを覗いた。口が笑った気がした。
何となく、目が合った気がした。
その瞬間、私の表情が崩れた。この間に彼がシャッターを切った。18時38分。
「こんなんでいいの?」
そう言いながら、彼は撮った写真を自分で確認しようとした。私はあまりの恥ずかしさに急いで駆け寄ってカメラを受け取った(奪った)。目を瞑っていませんように、半目じゃありませんようにと心の中で願った。
「ぜんぜんだいじょうぶ!」
私はヘンテコな顔してた(見たらわかると思うけど)。私はいつもヘンテコだけど、自分のこんなヘンテコな顔は見たことないなって思った。
欲を言えばもうちょっとどうにか可愛い顔したかったし、ポートレイトとは思えない被写体の小ささだし、あと一瞬遅くシャッター押してほしかった気もしたけど、
自分で思ってる以上には恋してたんだなあって思いました。
その後はいつも通り、その人のさらに赤くなった首の後ろの日焼けを見ながら少し後ろを歩いた。
心の中で、「サッカー頑張ってるんだなあ」と思いつつ、でもやっぱりその日もそれは口には出さず、
「これはどうやって秋になるのかなあ」
なんて考えた。
もう二度と会わないことで、この写真は完成するはずだったけど、結局完成には至らなかった。
「そっかあ、首の後ろの日焼けのこと知ってたんだね。嬉しいなあ」
たいていのことは、そんなに綺麗に終わらせられない。終わりがどこかなんてその時はわからない。彼とはもう少しの間だけ一緒にいることになった。その2週間後の私がイギリスへ飛び立つ日、成田空港まで来てくれた。一緒に朝ごはんを食べた。それが最後になった。
ゲートに向かう前にくるっと後ろを振り返って、「あぁ、わたしこの20歳の夏の瞬間をずっと忘れないんだろうなあ」と確信した。
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photo by my exboyfriend