#うそみたいな合鍵とあのオレンジの光
「振られたことがない人にはこの気持ちはわからないよ」
愛してやまない自分のお城を手放す日がきた。
タイムリミットが2年間だったなんて、
そんなの全然、知らなかった。
ベランダに人工芝を敷いた、
憧れの、生まれてはじめてのベッド。
自分のためのキッチン、ううん、
何もかも全部わたしのためのわたしの場所。
ずっと一緒だとは思ってなかった、
せめてもう少し、もう何年か先だと思ってた、
だからまだ行っていないお店も、後回しにしていたこともたくさんあった。
西友の前によくいたあの白いワンちゃんにももう会えない。
馬鹿みたいにだだっ広い、あの公園には、
いつかまた行く機会があればいいなって思う。
人工芝を丸めてゴミ袋につめて、
ベッドフレームを解体して回収に出して、
フライパンも何もかもを段ボールに詰め込んだ。
大切な写真をビリビリに引き裂いているみたいな気持ちだった、胸が張り裂けそうってこの言葉を最初に使った人はすごい。
もう2度と会えないし、もう2度と居れないし、もう2度と戻れないけど、でも多分一生忘れない、殆どのことは忘れてしまうけど、愛しくてたまらない日々があったことは、きっとずっと引き出しの中でキラキラしてる。
「デザイナーになりたい」
たったこれだけのことを思わなければ、
いつまでもちょっと無理めな理想を追いかけ続ける自分でなければ、
この生活を手放すことなんてなかった。
周りの人がそれぞれの形である意味、安定したフェーズに入っていく中で、いつまで経っても自分自身に納得がいかなくて、不安定で不確定な選択をしていく自分のこの性質に正直うんざりもする。
いつもいつも、相反する気持ちが同居してて、気持ちは一方向ではなくて、一定ではなくて、だからただ呼吸をするだけの毎日がとんでもなく苦しく感じることがたくさんある。
きっと嘘と本当で切り分けられることだってほとんどなくて、嘘と本当がそれぞれ混ざり合った世界なんだと思う。
この社会はデタラメで、
時代がかわれば、生きる場所がかわれば、
善悪も変わる、何が最上で何が最低なのかも変わる。わたしはなんにも決めてない、みんなお揃いのサングラスをつけてるだけ。
違う色のサングラスをつけようにも視界がぼやけてるからよくわからなくて、お揃いのサングラスの何が悪いのかも、本当はわからなくて、だけど何故かそれがこわくて、嫌だなあって思う。でもそのサングラスを外すのもこわいし、外した後は絶対に不安になる。
普通がいい?でも普通ってなに?
お前が普通を決めないと、お前は一生自分をしあわせになんかできないよ、泣かないでよ。
自分ができるって思うことはきっとできるし、少なくともできないって思うことはできない。
自分のこれからを悩みはじめて、1年間考えても答えが見つからなくて焦った。次にどこに向かえばいいのかが全く分からなくて、こんなことは今までになかった。だって「自分のやりたいこと」をひたすらチョイスしていくだけのはずなのに、やりたいことはたくさんあるのに、手当たり次第にやりたいことをやっても結局なにも残らなかった。「これだ」と思えるものがなかった。
そこから、こんなに分からないのは、自分の偏見や決めつけが何かを抑えつけているんだって直観して、それこそout of the box で考えるべきだと気づいたら、答えは自ずとすぐに出てきた。
わたしはデザイナーにはなれない
わたしがこの気持ちと闘おうと思ったのは
どんなわたしであっても無条件に愛情を注いでくれる人がいたからだった。
物心ついた頃から「わたしなんか」と
自己肯定感が低いのはしょうがないと
ずっと思って生きてきた。
そういうわたしのままでも生きていくことは出来るけど、自分で自分を信じて大切に出来ないとたどり着けない道もあるんだなってことに気づかせてくれたひとだった。もう直接お礼を言うことは出来ないけど、久しぶりに変われたなって思ったよ。
そして尾崎世界観の、
どんなに悔しくても3年あれば大抵のことはひっくり返せるから、それまで皆さんも腐らずに頑張ってください、が背中を押してくれた。
こわいなあ、自分の手の中に何にも残らなかったら、でもねえ、自分のこともデザインのことももっともっとすきになりたいから、不安な気持ちのまま時々くじけながら、絶望とも隣り合わせのままで、たまに贅沢な果物を食べて、相変わらず写真は撮り続けて、そんな風に過ごしてみようと思う。
今年の夏もアイスが美味しくありますように。