2月はバレンタインデーだけじゃない。がんの子供たちに薬を届ける「チョコレート募金」とは
バレンタインデーに、物語のあるチョコレートを――。イラクのがんの子どもたちに薬を届ける「JIM-NET(ジムネット) 日本イラク医療支援ネットワーク」(東京都新宿区)は北海道の老舗「六花亭」の協力を得て、募金のお礼にチョコレートを用意。がんの子の絵があしらわれた缶は、小物入れや薬ケースとして使えてお守りにするがん患者もいるという。募金はイラク・シリア・福島の支援に役立てられる。(2018年02月07日、ハフポスト)
●「あの時、薬があれば」
ジムネットの事務局長・佐藤真紀さん(56歳)は、「JVC(日本国際ボランティアセンター)」の職員だったころ、イラクを訪問していた。「イラクは1990年代半ばから小児がんの患者が増え、91年の湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾が原因ではないかと疑われました。2003年のイラク戦争でもウラン弾が使われました」。翌年、イラクから医師が来日し、「病院には薬もない」と訴えた。
当時、日本で紹介されるのは、がんになり髪が抜けた子の写真。佐藤さんはそれに違和感があった。「ポジティブな情報を日本で見せたかったけれど、イラクの病院に行っても子どもたちとどう接していいかわからなかった。病院の医師に聞くと『経済制裁をやめて、抗がん剤が入るようにしてほしい』と言うんです」
03年、イラクの首都・バグダッドにある病院で絵が上手なラナに出会った。日本の「友達」と手をつないでいるラナの自画像を、佐藤さんはウェブに公開した。戦争が始まってしまい、ラナに色鉛筆をプレゼントする約束はかなわなかった。後で聞いたら、ラナは、最後に会ってから5日後に亡くなってしまったという。
半年後、ラナの実家を探し当てて訪ねたが、おばさんに「何もしてくれなかった。あの時、薬があれば」と怒鳴られた。04年、イラクのがんの子たちを支援するプロジェクトを始めた。同じ病院に薬が集中するので、調整のためジムネットを始めた。長野で地域医療やチェルノブイリの支援に取り組む医師・鎌田實さんに頼み、メンバーになってもらった。
●北海道の有名店「六花亭」も協力
何か楽しい企画をして募金を集めようと06年、バレンタインにちなんだキャンペーンを始めた。募金してくれた人に、イラクの子どもたちの絵を付けたチョコレートを渡した。「イラクの子にも愛を」と呼びかけ、義理チョコであってもみんなが幸せになれるようにというコンセプトが受けた。5000個を用意したが、すべてなくなった。
翌年は、お土産のお菓子で有名な北海道の「六花亭」が協力し、チョコレートを原価で提供してくれることに。09年は、絵が上手だった少女・サブリーンの容態が危ないということで「残るものを作ってあげたい」と、サブリーンの絵をプリントした缶のチョコレートを作った。
「毎年、個数が増えて六花亭のキャパシティーである16万個に。8000万円の募金をキープできるようになりました。1個550円の募金から、原価や人件費をひいて335円が支援に回せます」と佐藤さん。発送は福祉作業所が担当し、障害者の仕事を生み出している。毎年12月にスタートし、なくなり次第終了。配送だと、2200円の募金と送料で4缶が送られる。
●「自分の絵で病院の薬代1年分」励みに
イラクでがんの子に話しかけるにも、字が書けない大人にも、絵というのは大きなコミュニケーションツールになる。最初の缶の絵を描いたサブリーンも、佐藤さんにとって忘れられない子の一人だ。
南部の都市・バスラの病院に現地スタッフを派遣するようになり、そこでサブリーンに出会う。11歳でがんになり、右目を摘出して再発を繰り返していた。イランで放射線治療を受ける支援をしたが、貧しく、家庭も幸せとは言えない状況だった。
「サブリーンの絵をチョコレートの紙パッケージに使ったとき、1000万円の募金が集まり、サブリーンがいる病院の薬代1年分になった。自分の病気は治らなくても、多くの子どもが助かると知り、辛い治療に耐えて絵を描き続けました。日本に連れて行って病気を治して、と言われましたが、かなわなかった。それでもサブリーンは人生の最後に『自分は幸せだ』と言っていました。できあがった缶を手にすることはなく15歳で亡くなりました」
サブリーンの絵は、歌手の神野美伽さんが着物にして披露し、話題になっている。神野さんは以前、湯川れい子さんにチョコレートをもらい、サブリーンを知ったという。昨年11月に都内で開かれた募金のキックオフイベントでも、神野さんはこの着物で登場した。
佐藤さんは「病気は仕方ない部分があるけれど、情報やお金があればもっと早く治療できたのにと思います。支援のきっかけを作ってくれたサブリーンのことを忘れられません」。
●引きこもりの子、変わって絵の指導も
今年のチョコレート缶の絵は、サブリーンと同じ病院で治療した19歳のスースが描いた。10歳の時にがんになり、治療の副作用で髪が抜け、心を閉ざしていた。貧しい家で育っているのに、スースの絵はハッピーだった。13年、佐藤さんがスースの家に行って「絵を描いて」と頼んでも、シャイで引きこもりのスースに断られた。
スースに再び頼むと、「お母さんと信頼する先生が一緒なら行く」と言い、病院に招いて体験を話してもらった。スースは難民キャンプも訪れた。大人たちはがんを体験して元気になったスースに勇気づけられた。
その1週間の経験が、病気で自信をなくしていたスースを変えた。ポジティブになり、院内学級のスタッフとして協力するように。スースの絵は、治療にちなんで、マスクをした子や点滴の様子がポップに描かれている。
●廊下で寝ていた家族のためケアハウスも
昨年、ジムネットは事務所を置くアルビルの病院近くでケアハウスを始めた。それまで家族は庭や廊下で寝ていたのが、部屋で寝られるようになった。
チョコレート募金は、病院の薬代やこうしたケアハウスの運営に使われる。抗がん剤や輸血のための消耗品を届け、医師や看護師の研修をする。闘病する子のイベントや院内学級を支援し、通院の交通費や薬代・治療費の一部を補助している。
そのほかに、イラクに来ているシリアの難民キャンプの母子支援や、ヨルダンにいる障害者の支援、震災後の福島の子どもを放射能から守る活動にも使われている。
絵をモチーフにスタッフが歌を作り、筑波学院大の学生がアニメを作ってPRに使うなど輪も広がった。絵のポストカードも販売。2月9日~14日は、東京・日比谷で「イラク15~イラク戦争を振り返る15展~」が開かれ、子どもたちの絵やイラクの写真を展示。鎌田實さんの講演やイベントもある。
今年はおよそ3万個のチョコレート缶が残っていて、バレンタインデーに関わらずなくなるまで募金は続ける。配送のほか、寄付をしている店舗はこちら。
佐藤さんは「2月は国際小児がんデーもあります。一生懸命に生きた子どもたちや病気を乗り越えた子の物語が詰まったチョコレートを、楽しんでください」と呼びかける。
なかのかおり ジャーナリスト Twitter @kaoritanuki
元の記事はこちら
https://m.huffingtonpost.jp/2018/02/06/choco-cancer_a_23353905/
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