【No.60】そうそう、私は女なんですのよ
人間の爪ってこんなに伸びるんだ、とビックリしたのは教習所に行った時のこと。30代の黒人の試験官の女性の手の下に指先から伸びた爪がぐるりと大きなカーブをつけて円を描いていた。ちょうど、砂漠に住む大角羊みたいに。
試験官は見た目だけではなくて、態度もかなり悪くて、ぶっきらぼうだった。低い声で「Right」「Left」「Stop」と単語でしか指示をしない。しかし、アメリカに行ったばかりで会話などできない私にはちょうど良かった。試験など合格すれば良い。試験官と仲良くする必要など、どこにあろうか。
一緒に試験を受けに行った友達は、軒並み落とされていたけれど、私は無事に合格した。友達は帰りに寄ったカフェの中で、その試験官の悪口を言っていたけれど、私の頭の中は、彼女はどうやってシャンプーをしているんだろうか、料理はするのかなという疑問から始まり、きっと顎でこき使うボーイフレンドがいるに違いない。絶対に年下だよなと色んな空想が始まり、「ねえ、あの人の恋人って何人かしら」と言って、皆に呆れられることになった。
高校を卒業してすぐにアメリカの大学に行き、アメリカの、しかも辺境の地で運転免許を取ったために、私の運転技術はかなりひどかった。帰国してすぐに日本の免許に書き換えるため、免許センターに実技試験を受けに行ったが三度も不合格になった。
細い道をS字カーブするとかいう試験があった時に、「ここを曲がってください」と言われた私はそれを歩道と思っていて、「え。道なんてないですけど」と言って試験官に失笑された。
免許を取って数年は、四方ぶつけて、とは言っても自分の車を塀にゴリゴリと擦り付けるとか、電柱に当てるとか、他人には迷惑をかけない範囲でぶつけまくって、なんとか日本の細い細い、特に京都とか奈良の一方通行の道で物理的に曲がるのは無理じゃね?という道を色々と通って、何台か車をボロボロにしながら運転技術は向上した(はず)。セクシストの元夫に「女性にしたらうまいな」と言われて「おめえは男の癖に下手っクソだな。⭕️玉ついとんのかいっ」と暴言を吐いたのは遠い昔の記憶である。
関東に引っ越してからは、実家に帰った時しか運転をしていない。長男に至っては運転免許も取る気もないようで、車を手放す日も近いか?と思う。
冒頭の爪で思い出したけれど、幼い時から周りがピアノを弾いていたせいで(姉2人はピアノ講師)、爪は常に短く切られていた。元々の爪の形が短くて四角くて小さいので、白いところが少しでも伸びてきたら切るという生活を続けていると、ますます小さくみっともなくなっていた。
別にそれ自体は気にはしていなかったのだけど、子育ても一段落し、パンやお菓子を作る頻度も低くなってきて、これは爪を伸ばす?塗る?と急に思い立ち、小さくて四角い爪にジェルネイルを塗ってもらった。
本当はこういうオシャレには、とことん興味がなかったのだけど、ぷっくりとツヤツヤした、美味しそうな爪はテンションが上がる! とは言っても、爪の表面が傷ついたり、取れた時の表面の剥がれ具合が痛々しくて、時々、セルフで塗るようにしている。
50にもなると、白髪が目立つ髪型にはしたくないし、体型も強調したくないし、つまりは女度を上げる場所が激減する。
私が女っぽくあることを誰一人として期待はしていないに違いないのだけど、ね。
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