【90秒エッセイ】電柱に抱きつくわたしを慰めて。胃カメラの憂鬱。

時は10年ほど遡り、人生初の胃カメラ。その日は、人生初、過呼吸になった日でもある。

胃カメラの途中で過呼吸になったわたしを医者は「もうちょっとだから我慢して!」と叱咤した。そして、従順な看護師たちは、ヒッヒッヒッヒッと謎の呼吸をするわたしを押さえつけた。

検査が終わり病院を後にしたわたしは、いちばん近くにあった電柱に抱きついて大声で泣いた。

年頃の娘が病院前の電柱に抱きつき嗚咽する地獄絵図。あなたの想像どおり、誰も声はかけてくれなかった。

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時は変わって一年前。わたしは、久々の胃カメラを前にベッドの上で怯えるチワワのようになっていた。

担当の看護師さんは優しく声をかけてくれた。「先生の言う通りにすれば大丈夫だからね。とっても上手だからね。」

医者は白髪の丸メガネのおじいちゃんだった。おじいちゃんは問診を読んで「怖いよね。大丈夫だよ。上手にするから。」と子どもに約束するように優しく言った。

おじいちゃんの胃カメラは手品のようだった。喉、食道、胃…するするするする、わたしの中を移動していく。

「はい、ここで一回息止めて。今、鼻から息吸って、せーの。じょうずじょうず。口から息吐いて。」

辛さもなく、あっという間に終わった。そして、画像を見たおじいちゃんは「100点満点の胃!見本のような美しい胃だ!」とわたしの胃を隅から隅まで丁寧に褒めまくった。

なんだか愛の告白を受けたかのようで、わたしは盛大に照れた。

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そして先日、同じ病院で1年ぶりの胃カメラをした。おじいちゃんとの再会だ。胸が、いや、胃がドキドキ高鳴る。

担当は、1年前と同じ看護師さんだった。でも、様子がおかしい。目が泳いでいる。わたしを安心させる魔法の言葉「先生はとっても上手だから。」を言わない。嫌な予感がした。

扉から入ってきたのは、メガネの若いイケメンの医師だった。

ちがぁぁああうぅぅ!!お前じゃなぁぁあいっ!

…と、心の中で叫んだ。小心者のわたしは「チェンジ!」とは言えなかった。

予想通り、わたしは阿鼻叫喚しながら胃カメラすることになる。イケメン相手にエンドレス"オェオェ"。自分でも聞いたことのない下品なゲップを何度も発射した。

そして検査結果は…

「ポリープできてます。まぁ"おでき"みたいなものだから気にしなくていいですー」

はぁ。。。わたしは今、猛烈におじいちゃんに会いたい。

そして、電柱に抱きついて泣き叫びたいのを我慢して帰路につく。

(998文字)

✳︎ポップなタッチで書いてしまいましたが、毎日リスクと戦いながら勤めていらっしゃる医療従事者の方々には、心から感謝しています。