【90秒エッセイ】楽譜を読み続けられないわたしのピアノ。

本を覚えていられないわたしは、楽譜も覚えていられない。もっと言えば、楽譜を読み続けられないし、楽譜も覚えていられない。

3歳から音楽を習いはじめ、13歳まで続けたエレクトーン。社会人になって始めたピアノ。

わたしはほぼ楽譜を読んで弾いていない。

もちろん初見では楽譜を読む。いや、正確には音符を読む。ひとつひとつのおたまじゃくしが、何の音を指しているのか確認する作業を行う。

ただ、これが重なり曲になると、突然読めなくなる。"楽譜を読みながら弾く"これは至極難しい。どこを読めばいいのか、分からない。指が動くスピードに楽譜を読むスピードがついていけない。

だから、わたしは、お手本の曲を聞いて弾く。

20年以上も音楽をやっているのに、何分の何拍子も、和音のコード、音符や休符の長さも、今だによく分からない。

たぶんきちんと学べば良いのだけれど、覚えるのが苦手だし、その時間があれば曲を練習したい。

何度かの引越しで、先生は変わったけれど、みんなわたしの音楽の取り組み方を見抜いて、わたしに合った方法で教えてくれた。

音楽記号が覚えられないわたしに、先生はリズムを言葉で示してくれた。「ひこぉきっ」のように。

だからわたしの楽譜は、謎の言葉やオリジナルの記号に溢れている。

こんなわたしだが、発表会は得意だった。わたしが曲を弾くとき、わたしの頭の中では少し前のメロディがいつも流れていた。

それが頭の中に流れている間は、わたしの指が迷子になることはない。

ただ、発表会が終わり、次の曲に取り掛かると、その曲は弾けなくなる。わたしの頭の中に留めておけるのは、1曲だけ。

わたしのピアノは、いつもその瞬間だけを生きている。

"久々にあの曲を弾いてみよう"は、できない。楽譜を引っ張り出してきても、"はじめまして"に戻っている。

再び弾かれることのない楽譜たち。それでも、謎の言葉と記号に溢れた楽譜は、わたしの宝物だ。

ちなみに、数年前に左耳をおかしくしてしまい、今はピアノはお休み中。

あぁ、またピアノが弾きたい。

(836文字)