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『生きのびるための事務』を読んだよ

『生きのびるための事務』(坂口恭平・道草晴子 マガジンハウス)を読みました。Kindle版では1ページごとに縦読みコミック形式で読めます。文字が小さくなるのでタブレットで読むのがおすすめ。スマホで読むのは初期老眼の当番には少々骨が折れました。

(リンクは版元のマガジンハウス公式サイトの紹介ページ)

以下、ネタバレを回避しつつ当番の初読感想。

内容は当番ネイタルの乙女座月が大喜び案件(ダンドリスキーの事務スキー)。そして手前味噌で恐縮だが、ちょっと弊noteの #尻叩き妖精シリーズ を思い出した。

『生きのびるための事務』に登場する「ジム」は『夢をかなえるゾウ』の「ガネーシャ様」や弊note #尻叩き妖精シリーズ の「尻叩き妖精」のような存在と当番は解釈した。あるいは『ピノキオ』のコオロギさんだ。「メンターであり伴走者である誰かと対話しながら若者あるいは未経験者が行動していく物語」という系列に連なる一作。『独学大全』の「親父さんと無知くんパート」や『嫌われる勇気』の若者と著者、『メイクがなんとなく変なのでシリーズ』の吉川さんとBAパンダさんも経験者と未経験者が対話しながら行動していく物語だったな、と読みながら思う。

「ルビッチならどうする?」と自問したビリー・ワイルダーのように、「勇者ヒンメルならそうした」と彼の死後も行動選択の指針にするかつての仲間たちのように、「ジムならどうしろと言う?」「尻叩き妖精なら何と言う?」と思い浮かべる「誰か」の存在があるといい。

弊noteの #尻叩き妖精シリーズ では「優先順位の妖精」と「お膳立ての妖精」「発信の妖精」、合わせて3人の妖精が登場する。『生きのびるための事務』の「ジム」は「優先順位をつけ・お膳立てをし・行動(発信)する」をひとりで兼ねるスーパー尻叩き妖精みたいなものだ。

『生きのびるための事務』で語られる「事務」は人名「ジム」と掛詞にするために「事務」と銘打ってあるけれど、実際のところこれは「事務」ではなく「実務」だ。生きのびるための実務。実際どういう行動をしたら生きのびられるかの、実務。現実的な行動のこと。でも、書名が『生きのびるための実務』では手に取ってもらえなさそうだね。「ジツム」という人名も存在しないしね。「実(ミノル)」と「務(ツトム)」ではちょっと昭和感が出てしまう。2000年代の日本語感覚では、ここはやっぱり「事務」と「ジム」なんですよ。

『生きのびるための事務』に書かれている内容は、当番noteで言うとこの記事の話でもあると思った。

「夢」というものは、あの洛中洛外図屏風のように、「『手に入れたい未来像』のうち実態がよくわかっていない部分」をきらきら輝く金色の雲で埋めてあるようなものだと当番は思っている。夢の都を隠す金色の雲は「自分に都合のいい幻想」や「憧れ」。セクシュアルなファンタジービデオにかけられたモザイクのゆめかわキラキラバージョン。そのキラキラした目隠しの隙間からチラ見する未来は現物よりもいっそう美しく見える。

そして「夢を現実にする」ということは「脳内にある『洛中洛外図屏風』式のイメージから『金色の雲』を取り除き、ひとつずつ『実際の都の風景』へ入れ替えていくこと」だと当番は思う。比喩を実際の行動へと翻訳するなら、それは「『自分が知らない部分を自分に都合のいい幻想で埋める』のをやめて、ひとつひとつ『自分の実体験』へ入れ替えていくこと」。それが「『夢』を『現実にする(realize)』こと」。

当番note『 「夢を現実にすること」って』より

「『未来の夢を描く』ではなく『未来の現実』を描くのだ」と「ジム」は言う。「未来の『現実』」を描き、その実現にはどんな「やりかた」があるのかを調べて段取りをつけ、そのように行動する。そうすると「未来の『現実』」は「現在の『現実』」になる。少なくとも、行動する前よりも「現在の『現実』」と「未来の『現実』」との間の距離が小さくなる。

言葉にしてしまえば簡単なこと。言い回しを変えてしまえば、ありふれたこと。「『ゴールを明確に』して、『計画』を立てましょう。『経費』を見直して、必要に応じて『法制度』を利用しましょう。先人の『ノウハウ(know how やりかた)』を学んで『アクション』を起こしましょう。『人脈』を作り、『自己PR』をして引き立ててもらいましょう」と表現してしまえば、毎年毎月出版されてよりどりみどりの自己啓発起業本と何ら変わらないことを言っている。

でも、その「星の数ほどある自己啓発起業本が使う言い回し」では自分事にならない人、「ジム」の言い方なら刺さる人がいる。そういう人へ向けて『生きのびるための事務』はある。それはたとえば、重ね重ね手前味噌で恐縮だが「星の数ほどある自己啓発起業本を読んでも刺さらなかった人が尻叩き妖精には尻を叩かれて動きだす気になる(こともある)」みたいなものだ。

身も蓋もない言い方をしてしまえば「同工異曲」。骨組みは同じで、肉付けが違う。でも当番、「同工異曲」は大好きよ。同じ骨から肉付けのしかたでどれだけ多彩な物語を作れるかというところが楽しいのでなければ、当番西洋占星術なんかやっていませんって。ASCと月と太陽のサインを組み合わせるだけで1728通りの物語の骨子ができて、更に肉付け次第で無限大なんてワークシートを作っているムーミンですぜ当番は。

というわけで『生きのびるための事務』、楽しく読んだよという報告。未読のひとへ当番から言えることはひとつだけ。Meet Jim. ジムに会ってみて。そう、「モモのところへ行ってごらん」のように。 Meet Momo, meet Jim. まずは会って話して、すべてはそこからだよ。

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