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『英雄たちの選択』実録 山里の境界裁判がとてもよかった話

録画しておいた『英雄たちの選択 実録 山里の境界裁判』をゆうべ観たんだけれど、すごくよかった。1665年、四代将軍徳川家綱の時代の伊予(※今の愛媛県)の農民を束ねる庄屋さんたちがすごく賢い。三角測量でほぼ正確な山の模型を作って江戸へ運んで幕府に土地の境界を申し立てる話。

そして元の村があった土地の資料館にその模型が、レプリカとかではなく現物が、現代までずっと大切に保管されているのがすごい。郷土史料を管理している地元の司書さんが登場したりして胸アツな回だった。あと、本筋とは関係ない部分で「掘立柱」という語彙を当番は仕入れた。

解説の先生「この時期、農民の家は掘立柱、地面に穴を掘って柱を立てるものから礎石の上に柱を立てるようになっている。(中略)ここに定住する、長く住むぞ、ここで生きていくんだと」

視聴中の当番「『掘立小屋』の『掘立』ってそういうことだったのかー! 穴を掘って柱を立てるのかー!!」

楽しかった。山の高低差を実際どうやって測量したかの解説もとてもよかった。そして山を縦横に測量したあと、その数値に基づいて山の立体模型作っちゃう伊予の庄屋さんすごいよ。算術すげえできるんだわ。頭いい。現代の航空写真ともほぼ一致する精度。江戸幕府が成立してからわずか50年ちょっとあと、伊能忠敬による全国測量の140年前だって。すごかったよ。

こちら愛媛県教育委員会による「目黒山形(めぐろやまがた『目黒村の山の模型』)」の解説ページ。

そしてこちらが、むかし目黒村だった土地の現自治体、愛媛県松野町の資料館「目黒ふるさと館」。目黒山形は現在ここに展示されている。

戦乱の世が終わり、土地争いを武力ではなく裁判で解決する時代になった。そういう時代のエピソード。領主様である武家がいて、領主へ年貢を納める農民がいて、しかしその年貢を納める農民がその土地に暮らして畑を耕し山の木を切らなくては土地を治める領主だって立ち行かない。だから土地のことは現場の農民によくよく聞いて采配せよと裁判記録に書き残される。農民の方でも「こういうわけであの山はうちの村の土地なんです」と判断材料を揃えて訴えれば聞いて正しく裁いてもらえるという信頼を幕府に対して持っている。戦乱の世が終わったあとはそういう時代に変わったんだよという話でした。

むかしの時代劇やむかしの時代小説だと「領主は農民から年貢をぎゅうぎゅう搾り取るだけで、たまりかねた農民が直訴すれば斬られる、農民は一揆を起こすか逃散する」という書かれかたばかりだったので、昭和時代劇で育った当番からすると「へえー?!」という感覚です。もっとも「幕府ができて50年くらいは農民と領主階級の間に『ちゃんと裁判をやる』という信頼関係があったけれど、時代が下るにつれて『領主による圧政・領民の直訴は無礼討ち・残る対抗策は一揆か逃散』コースへ至った」のかもしれないけれど。

「話だけではわからないから、お前の言う山のなるべく正確な模型を作って持ってもう一度来い。お前の村と山の土地を争っている村の庄屋も連れて来い」と言った江戸の公事方もすごいけれど、それにふたつの村の庄屋さんが協力して本当にほぼ正確な山の模型を作ってまたやってくるのもすごい。片方に任せていたら片側にだけ都合のいい模型になるからって、相互に確認しながら間違いのない模型を作った両村の庄屋さんが賢い。そして大きな山の模型を六分割して、はるばる伊予から江戸まで運んで再度訴えた熱意がすごい。

11月18日にNHK BSで再放送するそうなので、興味の湧いた方は是非に。

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