『アメリカンバーベキュー最強決戦!』に夢中
年末年始休暇もあと1日だなーと思うと気が重い当番ですごきげんよう。三が日が終わってすぐ主治医のところへ行き、体重が増えたことにお小言を食らい、年間減量目標を立てて帰ってきました。なお、あのバッチバチに効くけれど副作用の強い強制胃弱薬は明日から増薬です。痩せましょうねえ当番。
年末年始休暇中はNetflixオリジナル作品の『アメリカンバーベキュー最強決戦』(原題THE AMERICAN Barbecue Showdown)ばかり観ていました。ネトフリ限定配信の映画を観るため先月から加入したのですが、フォロイーさんから「ネトフリに加入したならこれもぜひ観てほしい」とおすすめいただいたのがこのシリーズ。
『グレートブリティッシュ・ベイクオフ』と同じフォーマットのコンペ式リアリティショーです。現在第3シーズンまで視聴可能。各シーズンごとに8~9人の腕自慢アマチュア料理人が参加し、課題に従って制限時間内に調理をし、プロの料理人である審査員に講評してもらう。回ごとにベスト料理人ひとりが選ばれ、最下位の料理人は脱落する。最後まで残った料理人がシーズンの優勝者となる。
当番におすすめしてくれたフォロイーさん曰く、「『グレートブリティッシュ・ベイクオフ』型のお料理番組でいちばん面白い」。本家ブリティッシュ・ベイクオフよりも? あのポール・ハリウッドとメアリー・ベリーの超ブリティッシュ辛口審査、スー・パーキンスとメル・ギェドロイツのブリティッシュユーモア溢れる掛け合い司会を超える面白さってあり得る?? と思っていたんですが。あり得ましたね。ものすごく面白かった、『アメリカン・バーベキュー最強決戦!』
題材はタイトル通り「バーベキュー」。バーベキューだけで1シーズン8回、3シーズン分もの課題を用意できるの? ……と観る前は思っていたのだけど、観始めたらわかりました、「日本人の想定するバーベキュー」と「アメリカン・バーベキュー」は丸っきり違う。アメリカン・バーベキューには1シーズン8回、3シーズンで24回ぜんぶ違う課題を出せるほどの奥行きがある。
日本人である当番が思い浮かべる「アウトドアで火を起こして網の上で小さい肉や野菜をジュージュー炙るやつ」はアメリカンの言う「グリル」であり、アメリカンの言う「バーベキュー」とは機関車みたいなでっかいスモーカー(燻製器)で一抱えもあるような巨大な塊肉を低温でゆーっくり燻しながら加熱する料理だということをこの番組で初めて知りました。アメリカン・バーベキューすべてがでっかい。巨大な燻製器、巨大な竈、巨大な薪、巨大な肉。あまりにも異文化。
や、本当に、日本生まれ日本育ちの当番にとって、あまりにも異文化。「裏庭でバーベキューをやる」「牧場でバーベキューをやる」のは日本人の当番が思うような「レジャーとしてのアウトドア活動」ではなく「そりゃあこんなにでっかいお肉を焼くためのでっかい燻製器、いくらアメリカのお家がでっかくても屋内には置けないよね、煙だってものすごく出るもんね」であったこと。そして「アメリカン・バーベキューとは『スロー・クッキング』『スロー・フード』である」と番組内で明言されていたことも、当番にとっては「へぇーッ?!」でした。
短時間でサッと火を通しただけでは硬くておいしくない部位の塊肉によくよく下味をつけて、低温で長時間じわじわと加熱して、脂肪を溶かしきり組織を軟化させ(これを「レンダリング」と称する)指先で簡単に裂けるほどの柔らかさに仕上げる。アメリカンの言うバーベキューってそういうものだったんですね。「制限時間5時間」と言われて参加者達が「短かすぎる!」「急がないと!」と一斉に呻くような世界。火の番をしながら8時間や10時間かけて焼き上げるのが当然のところを5時間で焼くには肉選びから下拵えまで工夫を凝らさなくてはならないものらしいんですね。
しかも電気オーブンではないから、中に入れてスイッチ押して後は焼けるまで放ったらかしというわけにはいかないわけです。薪です。生の火です。時には自分で薪を木炭になるまで焼いてから炭火を熾して追加したりもしているし、課題で「金属の燻製器ではなく地面で火を焚いてその上で調理をしろ」と言われることもあります。バナナの葉で肉を包んで炭火ごと土に埋めて蒸し焼きにする回もあります。生の火を使ってできるあらゆることをする番組。
広い土地、広い庭、豊富な木材資源と豊富な畜産物があるアメリカならではのお料理コンペ番組だなあと思います。番組の骨格は『グレートブリティッシュ・ベイクオフ』と同じだけれど、肉付けと味わいは文字通り大変にアメリカン。司会者と審査員のジョークや講評も、本家が大変ブリティッシュであるのに対し、こちらは大変にアメリカン。アメリカンユーモアもよいものです。
当番にはとても真似できるような規模のお料理ではないし、当番の消化能力的にもたぶん、食べたらお腹を壊すような肉々しい献立ばかりなのだけど、それでも興味深さは尽きません。でっかい塊肉を焼くようなことはないけれど味の組み合わせとか漬け込み液(ブライン)は参考になるし。それから、アメリカンコージーミステリ小説を読んできた身としては「南部訛りの英語」をたくさん聴けるのも見どころのひとつ。
バーベキューがテーマの番組なので、畜産が盛んなアメリカ南部から来る挑戦者が多いんですよね。テキサス、ルイジアナ、フロリダ、ジョージア。審査員の女性も南部出身。「おお、これが色んな小説によく出てくる『アメリカ南部の女性特有のゆったりした喋りかた』の実例かあ!」とちょっと嬉しくなっちゃった。「母音を伸ばす」ってよく書かれているんだけど、実際どんな感じ? と長年思っていたんですよね。本当に母音を伸ばすんだなあ。「a little bit」を「a lee-tle bit」くらいわかりやすく伸ばして発音するんですよ。翻訳小説だったら「彼女はいかにも南部女性らしく『私には少し味が薄い』を『私にはすこーし味が薄い』と発音した」と描写される感じ。
ジャナ・デリオンの『ワニ町シリーズ』(CIAの凄腕女アサシンがアメリカ南部の田舎町に潜伏することになって地元のスーパーおばあちゃまふたりと毎回騒ぎを起こす特攻野郎Aチーム的火力高めシスターフッドドタバタサスペンスコメディ)が好きなら、きっと『アメリカンバーベキュー最強決戦』も好きになると思います。あるいは『アメリカンバーベキュー最強決戦』が好きなら『ワニ町シリーズ』もきっと気に入る。同じ系統の高火力を感じる。アメリカンバーベキュー、ワニ肉を焼く回もあるよ!
『ワニ町シリーズ』はこれ⬇
観ると元気が出る番組。当番はジムでエアロバイクを漕いだりトレッドミルを走ったりするときにスマホで再生してイヤホンで聴いています。挑戦者の男女比は半々くらい、生の火を扱い薪を割り巨大なお肉を相手にするバーベキューには経験が要るようで、男女ともに平均年齢が高め。若くて火星期後半(40~44歳)、中核メンバーは木星期(45~55歳)や土星期(56~65歳)。たまに70代もいて、漏れなく強そう。男女ともに「うまい肉たっぷり食べてよく動いているんだろうな」という感じの屈強な体つきで、日本の感覚だと「肥満体」の人もいるけれど、みんないわゆる「動けるデブ」。とにかくよく動く、よく働く。
木星期ど真ん中の当番は、ふくよかガッチリ体型のおじさんおばさん(特におばさん)が元気に火を焚いてでっかい肉を焼いているのを見るとちょっと嬉しい。当番自身もふくよかガッチリ木星体型のおばさんだから。自分の胃弱を棚上げして「こういう方向性もアリだよなあ」と思っちゃう。火力高めの屈強なおばさん、かっこいい。「『火の番』って全然受け身の仕事じゃないな」って思う。当番はギリシャ神話の炉火の女神・ヘスティアーが好きなんだけど、もしかしたらヘスティアーも屈強なバーベキュー女神だったかもしれないよね。
(ヘスティアーの記事、こちら⬇)