
僕らは朝をリレーするのだ、経度から経度へと
詩人・谷川俊太郎が2024年11月13日に亡くなったと公表されました。1931年12月15日生まれ、お誕生日を1ヶ月後に控えての92歳でこの世を去ったことになります。きのう2024年11月19日、Twitter(自称X)の当番タイムラインでは多くの人が谷川俊太郎作品からお気に入りの一節を披露してその死を悼んでいました。「そういうタイムラインになるように当番が構築し、当番の関心に合わせてアルゴリズムでそういうツイートが集まってくるようになっているから」というのはあるにしても、それでもこれほどまでに、世を去るとき多くのひとが「お気に入りの谷川俊太郎」を口ずさんで送るというのはすごいことだと思うのです。小学校でいちどは必ず出会う谷川俊太郎。小学校の外でも、どこかしらで出会う谷川俊太郎。
物書く人の死とは、読者にとって「もうその人の新作は出ない」ということ。死後に「未発表原稿」が見つかって出版されることもなくはないけれど、それがいつまでも続きはしないということ。それでも死んだ詩人が残した作品は今も読者の傍らにあります。ことばをうみだす体はなくなったけれど、うみだされたことばが形見としていまも残っている。読者がそれを望む限りずっと。
谷川俊太郎の詩、いちばんが選べないくらい好きなものがいくつもあるんだけれど、スッと口から出るくらい当番が馴染んでいるのは『朝のリレー』。西洋占星術の民として「アセンダント」を説明するときに何度も引用したから、「カムチャツカの若者がきりんの夢を見ているとき」とすぐに出てくる。これ、時差と地球の自転を歌う詩だから、同じ地球の自転と時差から生まれるホロスコープのアセンダントとハウスについて解説するよい糸口になるんですよ。
今や新月の日時を告げる以外は開店休業状態の三角テント(当番の初代ブログ)でも『朝のリレー』で記事ひとつ書いたよなと発掘してきたら初期も初期、2004年12月の記事だった。おお、19年と11ヶ月半前……マジかよ。
インターネット人格としての星見当番、20年近く前でも話している内容が変わってないし文体もあまり変わってない。進歩がない、変わり映えというものがない。「アセンダントって何ですか」を説明するとき、20年間変わらず「谷川俊太郎の『朝のリレー』って詩、知ってます? 国語の教科書に載ったりインスタントコーヒーのCMに使われたりしてるんだけど」から始める当番。ここから更に20年後、当番がまだ生きていてアセンダントの解説を求められたとしたら、最初はやっぱり『朝のリレー』から話を始めると思います。
2021年、占い雑誌『マイカレンダー』で西洋占星術の基礎特集について監修を依頼されたときもアセンダントの説明に『朝のリレー』を使わせてもらいました。まず打ち合わせのとき編集長から「当番さんなら『アセンダントって何ですか』と聞かれたときどう答えますか」と問われて「谷川俊太郎の『朝のリレー』ご存じですか」からスタートし、雑誌のページにも『朝のリレー』準拠のホロスコープを載せてもらいました。「同じ年月日・同じ時刻に生まれても生まれた土地の違いでアセンダントが変わる、天体のハウスが変わる」この解説に『朝のリレー』はぴったりなのです。当時のツイートが残っています。
【2021年6月23日のツイートまとめ】
ホロスコープを描こう講座で谷川俊太郎の『朝のリレー』を使いたいばっかりに、カムチャツカとメキシコとニューヨークとローマの経度や時差を調べる羽目になっている。もちろん、カムチャツカとメキシコの同じ瞬間のホロスコープと、ニューヨークとローマの同じ瞬間のホロスコープも作るのだ。
カムチャツカとメキシコ、ニューヨークとローマはそれぞれ87~88度離れている。確かにカムチャツカで若者がきりんの夢を見ていて太陽が4室にあるのと同じ瞬間にメキシコでバスを待つ娘の太陽は1室に来そうだし、ニューヨークの少女の太陽が4室にあるのと同じ瞬間ローマの少年の太陽は1室に来そうだ。
「これで谷川俊太郎がテキトーに書いていたらどうしてくれようか」と思いながら調べていたけれど、テキトーではなく適切なチョイスであることが判明。講座に使えそうである。
カムチャッカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
(2024年註:このとき情報解禁前だったので自分の講座に使うテイで書いていますが、実際はこのとき『マイカレンダー』2021年秋分に合わせて発売される号に載せてもらうホロスコープを用意している最中でした。雑誌発売当初の販促ログも残っています)
【2021年9月29日】
帰ってきた #マイカレンダー 2021秋号自主販促企画。Zoom配信で色々失敗した反省を踏まえて今回はツイキャスです。自動でアーカイブされるから録画失敗もないよ!
10月3日、日曜日14時から15時半の90分。今回はささきコープちゃん(※)が聞き手で参加してくれます。
(※2024年註:ホロスコープスキーの中の人。当番の10年来の盟友。なおツイキャスは30分×3枠の90分に及んだ。画質はよくないけれど今もアーカイブ視聴できます)
内容は9月26日のZoomで当番が話したことと同じです。パワポも同じ、ハイパー地球儀タイムも同じです。
どんな話をした(する)か一覧
・ホロスコープって何だろう
・「朝のリレー」の話をしようじゃないか
・ハイパー地球儀タイム
・太陽月ASCで変身ヒロイン物語
・推し記事語り
『朝のリレー』を引用してアセンダントの解説をした『マイカレンダー2021秋号』は画像の濃い青表紙の方です。バックナンバーお持ちのかたはご確認ください。

【はじめての谷川俊太郎、当番の場合】
当番がおそらく人生で最初にきいた谷川俊太郎の作品は『鉄腕アトム』の主題歌なんだが、「谷川俊太郎」という詩人がいることを意識したのは詩集『みみをすます』とその表題作だった。1982年初版。この年、当番は8歳。母の書棚にあった。全文ひらがなで8歳にも読めた。この年、当番は国語の教科書に載っている『スイミー』でそれと知らずに谷川俊太郎訳に触れていた。
はっきりと名前と作品を意識する前から谷川俊太郎作品はちいさな当番の身近にあった。レオ・レオニの『スイミー』を、チャールズ・M・シュルツの『ピーナッツ(スヌーピー)』を、講談社版のマザー・グースを訳したのは谷川俊太郎だった。あまりになめらかな訳文で、訳者が誰かも意識しないままに親しんだ作品が谷川俊太郎訳だったと気付いた中学生のとき、「それでは元のことばではどんな書かれかただったのだろう」と思った。日本語と英語の二方向へ向かう当番の関心の、両方の道筋に谷川俊太郎がいた。自分が根を下ろす日本と、日本のある地球、その先にある宇宙へ向かう当番の関心の、そのどちらの方向にも谷川俊太郎がいた。
「谷川俊太郎ならどういう日本語でこれを訳すか?」ということを、たまに当番は思います。8歳でも、ひらがなが読めるならば5歳でも読み上げれば何かが伝わるように、目の前のこれをどう訳す。4ハウスに射手座の4天体が集まる当番が、日本語を書くときの心の師匠陣に、谷川俊太郎は確実に入っています。4歳児対応語彙でアストロ語りをするときは特にそうです。西洋占星術の世界を日常のことばで。みんな知ってる、どこかで出会った、いつでも思いだす「あのときのあれ」で。みんな知ってる「春はあけぼの」、みんな知ってる『暴れん坊将軍』、みんな知ってるアンパンマン、そして、みんな知ってる谷川俊太郎。
ありがとう谷川俊太郎。当番は小さな球の上で眠り起きそして働き、そしてアセンダントの解説にいつまでも『朝のリレー』を引用する。それはあなたが送った地球の自転と時差を歌った詩を、当番がしっかりと受けとめた証拠だからだ。当番は谷川俊太郎をリレーしていく。
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