うちのゆずの木のにおい
実家の庭にゆずの木がある。
子どもの頃からずっとあって、いまは幹が私の腕くらいになった。病気にかからなければ、毎年黄色いゴルフボールほどのゆずがカゴいっぱいになるほど収穫できる。
枝にはトゲがあることも知った。
ずっと昔、植えたばかりの頃はヒョロヒョロしていて、当然ながら花は咲かず実もなかなか実らなかった。
あまりにも実を結ばないので、切ろうかなどと話をした年の秋に初めてゆずを収穫したのだった。植物にも耳があると知った。たまたま木が充分に成長した年だったのかもしれないけれど、家族みんなでそう信じていた。
以来、採れたゆずを料理に使ったり、ジャムにしたりと、実家の食卓の常連になった。ゆず湯にもよく入った。私にとって身近な柑橘がゆずなのだ。
実家を出た後、外食時に出会ったよそのゆずに気付かされたのは、においだった。
ゆずのにおいはどれも同じだと思っていたのに、明らかににおいが違う。
よそのゆずのほうが全般的に華やかで、軽い香りがする。ベルガモットに近い。
一方の実家のゆずは、苦味が少ない分、青臭くて土の気配が残っている。きれいな言葉を使うと、グリーン味が濃くてアーシーなゆず。
少し前に、子どもと実家の庭で遊んだ。
背後にはゆずの木があり、周りにはうちのゆずのにおいがしていた。まだ実はなっていないのに、におうんだなと不思議に思った。
それで思い出したことがある。うちのゆずのくせがあるにおいは、おそらく葉と幹の部分のにおいなんじゃないかと。
ゆずにつく青虫が放つにおいがそうだった。
うちのゆずが苦くなく、青っぽさが強くて土の感じが残っているのは土壌の個性なんだろう。ワイン作りみたいだ。
ディプティックのフィロシコス オードパルファムのように、植物のゆず全体をテーマにしたフレグランスがあればいいのに。
トップノートはみずみずしく、果実のゆず。ほんのりとベルガモットのような苦みがある。うちのゆずを使うなら青臭みが強い。
なんの工夫もなく普通に考えるなら、ミドルノートにかけて葉っぱのグリーン、ラストに幹のウッディーノート。順番を入れ替えても面白いし、果実の皮の部分や樹液なども、余すところなく使ってほしいと思う。(もしにおい成分が採れるならば)
フィグほどには多面的ではなくても、私にとっては郷愁を誘う香りになりそう。
今年、お盆の帰省は取りやめにした。
次に帰った時は、実家のゆずの木のお世話をしてみようかしら、などと考えている。
フレグランス情報サイト「OL香り総研」を運営するJasmineでした。
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