正しい は、おそろしい。商店街で知らないおば様にしっぺされた話
そりゃね、私が悪いんです。
商店街の歩道で、自転車から降りずに走っていたんだから。いくらスピード落としていたとはいえ。
…あんまり楽しい話じゃありませんが、書いておこうと思います。
夕方のラッシュ時間よりも少し早い17時ごろの住宅地の商店街。
ゆったりした道幅の歩道。
踏切がやっと開いたので、たまっていた自転車は一斉に線路をわたって走りだす。車道のほうに出たかったけど、左端にいた私は自転車に乗ったまま、歩道に入る形になった。
でも、そんなに人はたくさん歩いていないからいいか…と、そのままスピードを落として走っていたら、正面からおば様が歩いてくるので前後を見つつよけた。
すれ違いざま、
「ちょっとあなた、ここは自転車いけません!」ときつい声。
私も悪いと思っているので、「あ、ごめんなさい」と反射的に言ったものの、そのすれ違う瞬間に、
腕のやわらかいあたりを、パチンと叩かれた。
子どものころにふざけてやっていた「しっぺ」みたいな感じ。
一瞬何が起こったかよくわからなくて、振り返ることもしないまま通り過ぎた。
間抜けな感じで10秒くらいたってから、じわじわと、叩かれたところが痛いような感じがしてきた。
痛いわけはない。ネルの長袖シャツに、MA-1もどきのジャケットも着ていたのだし。
でも、「なんかいやだ!」の感覚が皮膚にシールのように貼られたような感じがした。
ペシッと当たった指の形に。
たしかに私が悪いです、自転車で歩道を走っていたから。
でも、叩かなくてもよくない?
なんかとっても納得がいかなくて、だけども腹立たしいのとも違う。
きっとあのおば様は、悪い行いをする人が絶対に許せない
「正しい人」なんだろうな。
正しいって、おそろしい言葉だと、いつごろからだろうか、フリーランスになってからだろうか、すごく思っている。
正しい の前には、すべてのものは屈さねばならない。
あのおば様は、おそらく家族にもとても厳しく「正しい」を要求しているのだろう。
正しくできないこともあるという、そういう事情も加味することなく。
自転車を降りて、自転車を押して歩けば、しっぺされることもなかったのになぁ、と思うけれど、
「開かずの踏切」と呼ばれる場所で、一斉に自転車が走り始めた時に、急に止まったら大変なことになるし、車道側にうまく出ることも、今日はできなかったなぁ…。
じわじわしていた腕の皮膚は、今はもうなんともない。
でも、あのおば様の正しさによって、私なんかよりももっと傷ついている人も、いるんじゃないのかな‥と、いつまでも思ったりしている。
山田詠美の「つみびと」を先日読んだ。登場人物のひとりが正しいお父さんだった。お父さんは正しい。でも、そのせいで娘は誰にも「助けて」と言えなくなってしまった。
そのくらい「正しい」はおそろしい。