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「哀しみと強さと美しさを秘めた Tango から生まれたもの」

Juampy Ramirez、ブエノスアイレスのタンゴ人なら誰でも知っている名前。
失礼な話、お猿ちゃんのような風貌でもなくはないのだけど、彼=彼女が踊っている姿を見ると、きっと誰だって目を奪われると思う。

そう、彼=彼女はゲイなのだ。
ミロンガで踊っている姿を見ると、そこら辺の女より断然セクシーで、今はペアを解消してしまったけど、イケメンで長身のナイスバディな Daniel と、上半身裸で、ピッチピチの皮のパンツに網タイツにドラッグクイーンのド派手なメイクで現れるエキシビションには一瞬ぎょっとさせられるのだけど、彼等の Tango の踊りの伝統をリスペクトしつつ、絶対、彼らにしかできない斬新すぎる表現に、私は度肝を抜かれたものだ。

「あぁ、この子達は単なるタンゴダンサーじゃなくて、アーティストなんだな」、と。

Juampy は長年、私の憧れというか、尊敬というか、敬愛する存在だった。
そして彼がいるようなミロンガというのは、決してトラディショナルなエレガントなミロンガではなくて、アングラで退廃的で、どこか皆疲れていて、ある意味とてもブエノスアイレスのタンゴ界を象徴しているような場所。

私が自粛期間中に作り始めた、こちらのミュージシャンやダンサーとのコラボビデオをもう少し本格的なものにしたいと考えた時に、真っ先に浮かんだのが Juampy だった。
例によって、あのアンニュイな雰囲気の漂うミロンガに足を踏み入れた先に、仲間たちと飲んで喋っているJuampy を見つけた時、ドキドキしながら「長年、あなたのファンだったの。私は歌手でビデオを作ろうと思ってるから、是非一緒に作ってほしい。」とオファーしたのだ。

何故かよく分からないのだけど、タンゴ界に限らず、ドラッグクイーンという存在は私を魅了してやまない。
美しくて、セクシーで、でも自分の存在自体を受け入れるのに苦悩してきた故に滲み出てくる強さと、その後ろに潜む深い哀しみ。

それはまさに、私がTango を歌いながら挑戦してきた、自分を受け入れ、表現するという世界観なのだ。

私のことを本当にTango のトラディショナルの王道の王道で育ててくれた師匠がプロデュースしたCD音源で、Juampy とビデオを作るというのは、ある意味とてもリスキーなことにも思えた。だって、この音を聴く人が求める、そんな人達が見たいTango(=昔の私のように) というのは、私が Juampy と表現することとは明らかに違うだろうから。

そして、まだまだアーティストとして中途半端な私が、本当にアーティストとして闘い続け、表現し続け、進化し続けているJuampy と本当に作品が作れるのかという心配もあった。
彼と今、一緒に活動をしている Angela がプロデューサーとして素晴らしい才能を発揮し、本当にプロフェッショナルなカメラマンのLuciano が撮影・編集をしてくれてこの作品が出来上がった。

日本の人には奇妙に映るかもしれない…。と、最後の最後まで公開するかというところまで迷った。
でも、長年の友人であり、本物のアーティストである写真家のMumuに、「プロに任せたなら、彼等を信用すべき。信用してないなら最初からやるべきじゃない。」とガツンと言われ反省。
それでも、彼等の意図に反してカットしてもらったシーンもあるのだけど、これが私が望んだ、ある意味、私が見たブエノスアイレスの Tango、私が信じるTango。
「哀しみと闘いながら、強く美しく、そしてセクシーに変容してく様」、是非、ご覧下さい。

P.S. 先日観に行った、Juampy の新しい作品が、最高に可笑しくって可愛くてセクシーで、素晴らしい技術の上に、現代の生きたTangoを生み出し続けている姿にガツンとやられた話は、また今度。

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