おなかいっぱいになるまで

久しぶり!そろそろご飯に行きませんか?

少し前、ずっと会っていなかった高校時代の友達から連絡をもらった。これまで定期的に会っていたのだけれど、今年の春に計画していた旅行を中止して以来、もう半年以上も顔を合わせていない。久しぶりに会えると思うと嬉しくて、「ぜひ」とにっこりと笑うマークをつけて返事をすると、すぐに返信があった。

ここ、どうかな?ふたりの家のちょうど間くらいだし

ぽろん、という着信音がして届いたのは焼肉屋のURL。会社帰りに行くには確かにちょうどいい場所だったのだけれど、ページを開いてさらさらとスクールをしながら、むぅ、と考える。

焼肉、仕事終わりにはちょっと重たいな。

昔はいつでもお肉が食べられたのに、最近はだんだんと胃がもたれるようになってしまって困っている。百歩譲って鶏肉ならいいけれど、脂のたっぷりのった牛肉は要注意。ぐるぐると渦巻くお腹を抱えたままで、翌日仕事に向かうことになってしまうのだ。

それでも、学校の先生をしている彼女からは「この日、体育祭の後なんだ!食べたい!お肉食べたい!」と、弾むような言葉が届く。きっと目をきらきらさせている彼女の顔を思い浮かべて、「ここにしよっか」と返事をした。



当日、彼女とはお店の前で待ち合わせた。決して新しいお店ではなかったのだけれど、「久しぶりだよねぇ」と言ってジンジャーエールで乾杯して、「最近どう?」と言いながら七輪でお肉を焼くひとときは格別だった。自分が持っている部活や授業のこと、同じ仕事をしている大切なひとが最近出来たこと、彼の生徒との向き合い方をとても尊敬していること。たくさんたくさん話をしてくれて、その合間に「前に来たときはこれがおいしかったよ」とてきぱきと注文をする彼女は、しばらく見ない間にすごくたくましくなっているような気がして眩しかった。

「今年から担任も持ってるんだけど、今日体育祭のあとにみんなで写真撮ったんだ」

彼女が七輪越しに差し出したスマホの画面をのぞき込む。小さくて顔は見えなかったけれど、青いジャージを着た生徒たちが思い思いのポーズをとっている、素敵な写真だった。よく見ると、最前列のさらに前のクラスのお調子者のポジションには、それはそれは楽しそうに笑う彼女が寝そべっている。

きっと彼女らしい、楽しいクラスなんだろうなと思った。あはは、と私が笑うと、彼女もスマホの画面を見つめて嬉しそうに微笑む。じゅーじゅーとお肉が焼ける音が賑やかで、お酒は飲んでいないのにふわふわと楽しい気持ちに包まれる。

「もう明日はこのスーツ着られないね」と言いながらどんどんお肉を焼いて、「明日も仕事なのに」と言い合いながら、ニラが山盛りの卵スープとビビンバをふたりでばくばく食べた。「そろそろ帰ろっか」と立ち上がる頃にはもうおなかいっぱいで、焼肉は重たい、だなんて心配はもうすっかり忘れてしまっていた。

「ごちそうさまでした」とお店のドアを開ける。「おいしかったねぇ」と言う彼女の言葉にうんうんと頷いて言葉を返す。

「最近食べたものの中で、一番おいしかった!」

楽しい話をたくさん聞かせてもらったから、と心の中で付け加える。次に会ったときにはきっと、彼女はもっと強くなっているんだろう。私も負けていられないな。今よりもっと頻繁に会えていた頃から、彼女に会うといつもそんな気持ちになっていたことを思い出す。


次は私もたくさん楽しい話が出来るといいな。

そう思うとおなかが少しもたれていたって、いつもより爽やかな気持ちで会社に向かえるのだ。


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