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武蔵野市住民投票条例案 「護る会」の反対声明の愚かさ

 産経新聞が「武蔵野市住民投票条例案『護る会』が反対声明」という記事を発信した。「日本の尊厳と国益を護る会」(代表・青山繁晴)の反対声明の主張は、あまりにも無理筋な(謙譲的表現でない文字通りの)「愚見」である。その内容についてみていく。

 以下、グレーの部分は上記記事の引用である。

護る会は声明で、安全保障にかかわる国政課題についても「旅行者に近いような外国人も加わる住民投票が行われ、結果が国政の行方を大きく左右する重大な懸念も存在する」と条例案の問題点を指摘し、「放置すれば全国の自治体に波及する恐れもある」と強調した。

1. 国政課題は住民投票の対象外

 まず、武蔵野市住民投票条例において、「安全保障にかかわる国政課題について」は住民投票の対象となっていない。あくまで「市政に関する重要事項」についてがその対象である。
 また、住民投票条例は「諮問型」であり、法的拘束力はない。そのため、仮に市の権限を超越する住民投票が行われたとしても行政や議会のストップがまずかかる上、市が権限を超越することについて国政についての法的に有効なこと(つまり、国政の行方を左右すること)は何もできない。「住民全体の意思として明確に表明」することはできるが、良くも悪くもそれどまりである。
したがって、「結果が国政の行方を大きく左右する」ことなどあり得ない。(そもそも15万の日本人と利益の相反する住民投票を可決できるほどの外国人を集めるのは事実上不可能である。)

2. 3ヶ月住民票あっても「旅行者」?

 次に、「旅行者に近いような外国人」というが、そもそも外国人も日本人と同じ要件が課され、「引き続き3月以上武蔵野市の住民基本台帳に記録されている者」であることが必要である。3月以上住民基本台帳に記録されている者を「旅行者に近い」というのはあまりに酷い
 また、この理論でいくならば、定期的に住居を移転する日本人も「3ヶ月」では「旅行者に近い」存在となり、彼らに住民投票権を与えることもできなくなってしまう。公選法などが定める「3か月」の要件そのものを否定しているも同然である。

 なお、「放置すれば全国の自治体に波及する恐れもある」というが、そもそも武蔵野市は、三例目(他は神奈川県逗子市、大阪府豊中市)であり、そのときに何も表明していない議員舘が騒いでいるのは滑稽である。また、法的にも何ら問題ない、むしろ地方自治にかなう条例が広まるのは誠に結構なことである。

3. 住民投票権は参政権ではない

その上で、条例案は「外国人に対し参政権に準ずる国民としての権利を安易に認めようとする」ものだとして反対の立場を表明し、武蔵野市議会に「慎重の上にも慎重な対応」をとるよう求めた。

 これについても、呆れるばかりである。
 まず、性質からみると、「公務員を選定し、及びこれを罷免する」(憲法15条本文)参政権に対し、住民投票は「住民に直接その意思を確認する」ものである。住民投票は公職者を選定したり罷免したりするものではない。加えて、結果に拘束される参政権に対して、武蔵野市の住民投票は「諮問型」であり、法的拘束力もない。
 さらに、投票権付与についての手続面からは、国会で法律により定め、変えなければならない参政権に対して、住民投票権は地方自治体で定め、変えることができる。「地方自治の本旨」(憲法92条)のひとつの現れである住民投票は、国政とは独立している。
 したがって、「参政権に準ずる…権利」を与えるものではない。

 加えて、(これも繰り返し述べてきたが)「参政権」については、憲法で保障される範囲が「国民」であるというだけで、特に地方参政権について外国人が一切禁止されるわけではないことは最高裁も明らかにしている(最判1995.2.28)。また、これは拘束力のある「参政権」でさえ外国人への参政権付与も認められるとしたものであり、「諮問型」の住民投票について外国人の住民投票権が禁止されないことは明らかである。

 よって、住民投票権が「外国人に対し参政権に準ずる国民としての権利」というのは全くのデタラメである。

4. 「慎重な対応」をとってきた武蔵野市

 武蔵野市は、住民条例案上程までそれこそ「慎重の上にも慎重な対応」してきている。具体的には、以下の記事の通りだが、これはほとんどの他の条例案等より「慎重な対応」をしていると考えられる。

 また、それこそ上程された段階で、議会での審議を待つことなく、(長島氏がわめきはじめた途端に)「反対」の意思表示をしている議員たちこそ、「慎重」とは真逆の対応をしているといえよう。

5. 長島昭久=産経新聞

 産経の武蔵野市住民投票条例についての報道は、長島昭久の主張そのものになっている。
先日の「住民投票は『選挙権に匹敵も』衆院法制局が見解 東京・武蔵野市の条例案」という記事では、「衆院法制局」があたかも産経新聞の取材に対して「公式見解」を示したような記事になっている。しかし、衆院法制局はあくまで衆院議員の「立法活動を補佐するため」の機関であり、衆院議員が質問してはじめて回答するというものである。報道機関に対し、「公式見解」を示すような機関ではない
 この記事内容などからは、長島昭久議員が衆院法制局に質問し、それに対する「回答」を長島氏が産経新聞に横流しした、と考えるのが素直であろう。
 この記事や「見解」については、以下で述べている。

 また、後の佐々木類論説副委員長による「論説」も、意味不明な部分まで長島氏の主張通りである。

 自ら取材したり調査したり考えたりすることを怠り、ジャーナリズムとしてのプライドを失ったメディア=産経新聞(フジサンケイグループ)と、メディアをコントロールしようとする議員=長島昭久氏の二者による「共演」ならぬ「狂演」である。

 今回の「護る会」の反対声明のその報道についてもその延長線上にあるとみていいだろう。

6. 「地方自治の尊厳と利益を損なう会」

 「日本の尊厳と国益を護る会」とは、長島氏が属し、今回の珍妙な反対声明を出した自民党のグループである。主な主張が旧宮家の復帰であったり、新型コロナを「武漢熱」といって過剰に中国発祥と煽ったりすることからも「お察し」であるが、「日本の尊厳と国益を護る」というより「大日本帝国・大東亜共栄圏を復活させる会」といったところであろうか。

 ともかく、今回の「声明」により、憲法上定められる「地方自治の本旨」を愚弄し、住民自治を否定することによって「地方自治の尊厳と利益を損なう会」であることは間違いない。(つまりは、「日本の尊厳と国益を損なう会」になっているともいえよう。)
 ただ、自民党もまだ「ここまで」ではない議員も多いから、今回の声明の影響は限られると思われるのが、まだ救いかもしれない。

武蔵野市住民投票条例についての拙稿




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