安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件。被疑者である山上徹也は、警察の調べに対し、特定の宗教団体について「団体のトップを狙うつもりだった」が、「トップとの接触が難しく、団体とつながりがあると思った」安倍氏を狙ったと述べているという(読売新聞オンラインhttps://www.yomiuri.co.jp/national/20220709-OYT1T50153/など参照)。
母親が信者で、多額の寄付をして破産したことなどによってが、「恨み」の内容と思われるが、この団体については、『現代メディア』(講談社)を除き、日本の大手メディアでは報じられていない。他方、フランスの有名日刊紙『Le Figaro』では、「統一教会(la secte Moon)」と明らかにし、その他各国メディア、そして日本においても『現代メディア』において「統一教会」への恨みであると報じられた。(読売新聞においても「団体は海外が発祥」とあるので、統一教会であるこたはほぼ間違いない。)
なお、NHK等では、「特定の団体に恨みがあり、安倍元総理大臣がこれとつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」(特定の団体=統一教会)とされている。しかし、「思い込んで」という表現は、事実ではないにもかかわらず供述者が勝手に勘違いしていた、というような場合に使われるべき言葉である。もちろん、いかなる理由があろうと殺人行為は肯定されるものではないが、統一教会と安倍晋三元首相に関係があることは本当に事実ではないのか。
国会議事録や過去の報道など、公にされている情報を根拠にみていく。
統一教会(統一協会)とは
そもそも、統一教会とは何か。
「統一教会、正式名称は世界基督教統一神霊協会。この特徴というのは、日本の世間からすれば、霊感商法を信者たちがやっているというイメージと、あるいは1992年、歌手で俳優を務めていた桜田淳子さんが合同結婚式に参加をすることで広く知られるようになった」宗教団体である(第177回国会 参議院 法務委員会第9号平成23年5月12日 有田芳生発言より)。
統一教会による被害
統一教会は、霊感商法などにより、多くの被害を生み、国会においても、「例えば悪霊を取り除くとか不幸になるとか病気になるというような心理的不安に陥れまして、不当に高額な印鑑とかつぼとか多宝塔のようなものを販売するという手口」で「人の弱みといいますか、人の不安につけ込むというもので、悪質商法の中でも最も悪質なものの一つ」と警察庁が述べている(第108回国会衆議院法務委員会第3号昭和62年5月15日)。
統一協会・統一教会(現:世界平和統一家庭連合(家庭連合))による『霊感商法被害の根絶』と『被害者の救済』を目的として1987年に全国の約300名の弁護士が賛同して結成された、全国霊感商法対策弁護士連絡会(「全国弁連」)によれば、霊感商法による被害額は、判明しているだけでも累計で1,237億円余りに上る。生活が脅かされたり、あるいはその子どもの人生を狂わせるなど、その被害は計り知れない。
全国弁連は、後に述べるように統一教会関連組織に祝電を送ったり、ビデオメッセージを送った安倍晋三元首相に対して、公開抗議文を送っている。
統一教会と政治
統一教会については、宗教団体である以上に、社会的に様々な問題をはらんでいたうえ、政治的な活動も盛んに行い、自民党とのつながりは古くから存在し、問題視され続けてきた。以下、1998年の中村敦夫元議員の発言である。(以下の経緯や内容については、政府から反論はない。)
岸信介と統一教会創始者・文鮮明
統一教会の創始者である文鮮明と岸信介の関係は非常に濃厚である。
岸信介は、統一教会が基盤となっている反共組織である国際勝共連合を通じて文鮮明と交友関係が築かれ、その関係は晩年まで続いたとされる。
また、岸信介は、以下のとおり、1974年5月7日には、統一教会の文鮮明牧師の運動に共鳴する人たちのグループ、「希望の日晩餐会」の名誉委員長となっている。また、「第二回希望の日晩餐会」も、岸信介氏を名誉会員長として、1976年12f月17日に行われている。
その他、1984年には統一教会関連団体「世界言論人会議」開催の議長を務めたほか、米国で脱税被疑により投獄されていた教祖文鮮明の釈放を求める意見書をレーガン米大統領(当時)にマッカーサー元・駐日大使、スーステル元・フランス副首相と連名で送っており、晩年まで文鮮明・統一教会との関係が強かったことは、国会議事録などの公の情報からでさえ明らかである。
安倍晋三と統一教会
岸信介の孫であり、岸信介の「遺志」を継いだとされる安倍晋三と、統一教会の関係も当然ながら深い。
2006年には、統一教会系のイベント(Newsポストセブンによれば合同結婚式)に、官房長官名義(当時安倍氏が官房長官であった)で祝電を送り問題となっている。しかし、首相退任後の2021年にも関連団体にも「世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(統一教会)総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」とするビデオメッセージを送っている。
また、安倍晋三政権を支えた「日本会議」についても、その源流の一つが統一教会の学生組織、原理研究会(原理研)であることも明らかである。原理研は、大学などにおいて、学生新聞の発行を行うなどして活動を広めた。
これらからすれば、安倍晋三元首相と統一教会には繋がりがあることは明々白々である。NHK報道などにおける「安倍元総理大臣が(統一教会)とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」という表現は、適切でないといえる。繰り返しになるが、だからといって、殺人行為が肯定されるわけではない。
統一教会と安倍晋三銃撃事件
複数の報道によれば、安倍晋三銃撃事件の被疑者である山上徹也氏は、母親が統一教会に多額の寄付をするなどして破産するなどしたとされる。1,237億円余りの被害額、あるいはここに含まれていない被害を受け、人生を狂わされた一人である可能性が高い。
また、全国弁連は「安倍先生が今後も政治家として活動される上で、統一教会やそのフロント組織と連携し、このようなイベントに協力、賛助することは決して得策ではありません。是非とも今回のような行動を繰り返されることのないよう、安倍先生の名誉のためにも慎重にお考えいただきますよう強く申し入れます。」と抗議文を送っている。それにもかかわらず、安倍氏は回答など一切せず、無視し続けていたというのが事実である。
もちろん、安倍晋三氏が統一教会と強いつながりのある人物であるからといって、殺人行為が正当化されるわけではない。
今回の事件は、選挙期間中・選挙演説中に行われたことから、「民主主義への挑戦」とする見方が多かった。しかし、山上徹也被疑者が「政治信条に対する恨みではない」と供述しているように、安倍元首相銃撃により(結果論は別として)民主主義そのものに対する挑戦というのはやや無理があるのではないか。
何度も繰り返すが、いかなる理由があろうと殺人行為は許されない。ただ、安倍晋三元首相銃撃事件は、民主主義云々ではなく、統一教会というかねてから問題視されていた宗教団体と、政治とのゆがんだ関係によってもたらされたものであるというのが自然であろう。
統一教会による被害者は無数にいる。被疑者を擁護することはできないが、改めて(カルト)宗教と政治などについてはきちんと整理すべきではなかろうか。