モンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》
昔はオペラの愛や運命を歌う「暑苦しさ」が苦手だった。しかし、近くの図書館にオペラのDVDが複数揃っており、せっかくだからと観始めてから、次第にオペラが好きになった。
好きになると「それがどこから来たのか」が気になってしまう。だから、オペラの歴史の中でも初期の部類に入るモンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》を観た。
私なりにこの作品の特徴を一言で表すならば、それは「複数の共存」だと思う。
まず、この映像では男性役を女性が歌っていたり、女性役を男性が歌っていたりする。例えば、元々はカストラートが歌うネローネ役を女性が歌っている。ポッペアへの愛を歌う場面など、異性愛とも同性愛ともつかない独特のエロティックさを感じた。
また、滑稽さと深刻さの両方の要素がある。大筋としては深刻なのだが、乳母など、ところどころ滑稽さがある。言っていることとやっていることの矛盾も滑稽と言えば滑稽かもしれない。さらに言えば、今まで観たオペラでは悪人は悪に振り切っているものが多かったのだが、例えばネローネは悪人なのかと言えばそうとも言い切れないと感じる。終盤でポッペアと愛を歌う場面を観てしまうと、彼(彼女)を責めることは私にはできなさそうだ。
そして、愛の神やマーキュリーが突然出てくるなど、神々の世界と人間たちの世界が重なっている。一神教ではなくオリュンポスの神々という点も「複数の共存」につながる要素だと思う。
とはいえ、この作品を好きだと思ったのは「頭で考えて興味深いから」だけではない。とにかく歌がとても好みだ。最小限の伴奏で登場人物が追いかけるように歌い合う場面は、視覚情報なしで聴いてみたいとも感じた。ワーグナーの凝った演出と歌、演技、オーケストラの組み合わせの妙とは違う魅力だと思う。