パメラ/flower 陰気過ぎ問題
バルーンがいれば勝ちですわ!
こんにちは、余白です。
秋冷の候、皆様如何お過ごしでしょうか。ついこの間まであった夏の気配がすっかり鳴りを潜め、代わりにやって参りました深まる秋の気配。
どこか人肌恋しい想いに駆られるとか、柄にもなく物寂しい気分に浸ってしまうとか、そんなおセンチ極まりないアレコレを皆さん考えていられるワケがねえよなァ~~!!? こ~んなドデカい爆弾ブチかまされたら気分はもうアッツアツの常夏だよなァ~~~~!!!!???
毎月恒例、ボカロP・バルーンさん(出身:埼玉)のゆるふわYouTubeライブ後に公開されたこの一曲。
「刹那の渦」以来となる久々のボカロ歌唱曲。
いやいやいや。やっとこさ来たねッ……!
ボカロ楽曲「パメラ」、堂々のエントリー!!!
・ア゛!これ、バルーンさんがお漏らししてたやつだ!(誤解を招く表現)
・現在絶賛開催中「The VOCALOID Collection ~2021 Autumn~」のボカコレランキング企画に合わせて発表されたこの曲。ええんか、こんな殺傷力高めな曲放流して。ボカコレって私の中じゃ「☆皆でボカロ曲投稿してパーリピーポー☆」的なお祭りイベントって認識だったんだけど、今年から銃持ち込み可になったとか、何かそういう腐臭漂う血肉の祭典みたいなのに変貌しちまったんか。命あるモノと見たら片っ端から殺しにかかる駆逐型狂戦士だよねパメラ君。最高なんだね。
・重たく叩き込まれる四つ打ちドラムビート、どこか不吉なギターリフ、シニカルで退廃的な情緒を感じる歌詞、キャッチーなサビ、エッヂの効いたv-flowerの声、切羽詰まったグルーヴ感――もはや、何も言うまい。最 高 過 ぎ る ! 何から何まで、隅から隅までバルーン節フルスロットル。ここに来て往年の陰気ムーヴ大放出とばかりに、最近控えめ気味だった風船味全開です。
・断言しておく。バルーンが、俺達の風船大兄貴が、やっと帰ってきた……鬼デッカイ爆弾背負って帰ってきたぞ!!!
・人間の情愛、欲望、執念、孤独、その他諸々のドス黒いなんかをふんだんに詰め込んだ実に生々しい一曲。須田景凪としてリリースしていたら些かエグみ強過ぎたろうな、と思ってしまう程度には収斂味あります。須田バルーンはダーク曲でも最後には救いを持たせたり、前向きなメッセージを隠している事が多いですが、「パメラ」は最初から最後まで暗黒一色。隣の家の少女と疾走と天使の囀り一緒に煮込んで闇鍋にしたみたい。マジで救いようがない。
・それでも、聴き終わった後の心情は不思議と軽やかで爽快。ってか3分ちょっとの短い曲だもんで「もっと……もっとくれよ……なぁ、持ってんだろ? バルーン持ってんだろ?? アレがねえと眠れねえんだよオレァ……」って具合のガンギマリ状態になるもんだから、歌詞見て落ち込むとかそういう問題じゃなくなるんだよね。中毒性凄いもの。リピートする手が止まりませんわ。花花ですわ。
・真面目な話、バルーン節全開なグルーヴとBPM高めのアップテンポな曲調が、歌詞の陰気臭さを程良く中和して耳触りの良い曲に仕上げてくれてんじゃないかと思う。
・この耳触りの良さというのが今作のキモで、曲自体はかなり斜に構えた変則的なものなんですが、音も歌詞も不思議とすんなり耳に入ってくるんですよね。今までのバルーン曲って、皆さんお馴染み「シャルル」や「雨とペトラ」は勿論、バラードの「レディーレ」でさえキャッチーっちゃキャッチーだけども初見じゃちょっと取っ付きにくい面があったと思うのですが(そこがまた魅力でもあるが)今作にはそれが殆どない。さりとて洒脱な曲かと言えば決してそうではなく……ボーカロイドならではなエッヂとバルーンらしさが確立されつつも聴き心地が良い、という今までにない絶妙な塩梅の一曲になっているんですね。ここらへん、『Billow』というバルーン(須田景凪)のイメージを大きく覆してくれたアルバムの経験が活きてるな~と思います。
・また今回、サウンド面もいつも以上に聴きどころ満載。
・主軸はみんな大好きバルーン的J-ROCKといった趣。しかし、小刻みに跳ね上がるリズムはダンスミュージックのそれであり、重量感あるビートの刻み方はトラップやヒップホップを思わせ、メロディアスなイントロ及び間奏はケルト音楽めいた軽快さと優美な響きを併せ持つ。毛色の異なる様々なジャンルを絶妙にミックスさせ、唯一無二の個性溢れる楽曲に昇華させる手法は「MOIL」から脈々と引き継がれる匠の業。お得意の謎サンプリング等の"隠し味"も秀逸なタイミングで散りばめられており、先の全く読めないスリリングかつシリアスな展開を魅せてくれます。
・特に、直前の配信でも言っていた「ひょわ~~」がかなり印象的。これ以外にも要所要所で「ほわ、ほわ」だの「ぷわん」だの何とも形容し難い不可思議な音(シンセかエフェクターかけたギターか?)が鳴っているのですが、これがまた人を食った様でクセになります。格好良いサウンドにあえてふざけた音を差し込む、というのは須田バルーンの十八番ですが、今回は殊更良い意味での違和感としておふざけの妙が効いてるな~と感じます。曲中に漂う皮肉めいた空気との相性がグンバツなんすね。流石でございます。
・過去の曲で言えば「のけものばけもの」が雰囲気的に一番近いのでしょうが、しかし、その音楽性は飛躍的にグレードアップしており、まさしく"正当進化"と言ったところ。血の気多めな激しさはそのままに、もうありとあらゆる面においてごっつ洗練されてまっせ。ただでさえ鋭かった"牙"をガンッガンに磨いて舞い戻ってきた感じ。この血の気の多さはSSW兼任ボカロPにしては些か異端なのでは? 「今日はコップをいっぱい洗いました」とかごく家庭的な個人情報打ち明ける男が作ったとは思えねえよ、ホント。
・昨年の「刹那の渦」こそあったとはいえ、元々須田名義一本でリリース予定だったあちらとは違い、「パメラ」は"一からflowerの為に書いた曲"らしく。それ故か、界隈をブイブイ爆走していた『Corridor』の頃のエネルギッシュなバルーンを感じて、オタクは何だか実家の様な安心感を覚えました。
・この言い知れぬエモーショナル、J-POP畑行ったボカロPが満を持して帰ってきた時にしか得られない宝石ですよね。「だんだん独りが染み付いて 寂しさの感度も忘れていく」とか言ってる曲が実家ってのもヘンな話だけどよ。お前ん家湿り過ぎだろ。
・あとMVの話になるけど、今回のMV良過ぎませんか? どうですか?
・天下のアボガド6兄貴が手掛けたもんだからハズレはまずないっしょ~と思っていたものの、これほど楽曲とリンクした映像に仕上がっているとは思わなんだ。曲が持つ退廃的な空気感とか、優美さとか、陰気臭さとか、リスナーが感じるであろうイメージをそっくりそのまま映像として落とし込んでいるのが天晴過ぎます。
・「あああああ」が消えて歌詞になるところとか「最低な夜は切り裂いて」で実際に「夜」が切り裂かれるところとか、歌詞を単なる文字の配列ではなく映像の一部として芸術的に魅せてくんのもニックい。ギターに合わせて「?」「!」出すなど音ハメ部分も秀逸。
・何より、花とくすんだ色彩をメインにした映像がお洒落でカッコイイですよね。これ誰もが虜になっちまうんじゃねえかな。「パメラ」の世界観を最高に盛り立ててくれる、文句の付けようもないハイセンスMVです。アボガドさんに3テーブル分の唐揚げ送り付けたいね。
・例によって茶化して書いた部分もあるけれど、ほんっと~~~に「パメラ」メッチャ良い曲です。
・須田バルーンは昨年から様々なジャンルにチャレンジするようになって、その表現法といい音楽的アプローチといい素人目に見ても格段に進化したものの、代わりにアイコンたる"速くてうるさい曲"がすっかり疎遠になって大人しめな曲が多くなっていたんですね。
・それはそれで最高なんだけど(実際『Billow』は名盤だと断言出来ます)往年のファンからすると物足りなさを感じる事があったのも事実。私自身、そろそろアゲアゲエブリナイする曲が欲しいな……と思う時もあった。と、同時に「この進化した須田バルーンが"速くてうるさい曲"を作ったら、それはきっと情熱と貫禄と洗練の三位一体、トンデモねえモンになるだろう」という確信に近い予感も抱いていた。
・そんで今回まぁ~~~~待ち望んでいた激アツ曲が投げ込まれたもんでごくシンプルに歓喜致しましたよね。どっかで((億が一微妙な曲だったら如何しよう……))という一抹の不安もあったものの、そんな憂いを吹っ飛ばす大変に素晴らしい曲でした。
・バルーンを好きでいて良かった、ボカロを聴いていて本当に良かった。曲のダークさとは裏腹に、一種純粋な思いに満たされる特別な一曲。今後とも末永く愛され、聴き継がれる曲&映像に是非ともなっていただきたい所存ですね!
・つーわけでこれから毎日「パメラ」を聴こうぜ?
(以下、オタク特有の雑な解釈です。MV中心に解釈しています)
1. 花言葉
(画像はhttps://www.youtube.com/watch?v=-DvNu0Y-81gの1シーンのコラ)
・分かる範囲でまとめてみたけど案の定物騒な花言葉が多い。
・スズランは花言葉こそ明るい意味が多いものの、花や根に毒を持っている事や下を向いて咲く姿が物悲しげだったりと不吉なイメージを伴う花(11/8追記:今更だけどこれスズランじゃなくてただの蕾っぽいですね……)
・「長い夜は貴方の事ばかり考えて時を過ごす」という歌詞に通ずる花言葉が大半なので、おそらく花が意味するものは別れた恋人への未練や執着、もしくは恋人への黒い感情そのものか。
・「偽物な貴方」と花言葉の「浮気」「うぬぼれ」「愛の後悔」「復讐」などを見るに、おそらく別れたのは"貴方"の不貞が原因。「覚えのある愛の言葉」というのは、恋人が主人公(開花くんという名らしい。縁起良くなった自縛少年みたいだな)にかつて言った甘い台詞を浮気相手にも言っていて、それを偶然聞いてしまったみたいなニュアンスだろうか。なにそのコンビニ漫画によくある実録! 男と女の愛欲劇場みたいなの。バルーンさんは「不倫はナシ派です♨」とか言いつつ不倫系のドロドロ漫画よく読んでるけどさ。
・開花くんはあのアマァ! 許されねェ! と"貴方"を憎みながらも執着し、「諦め」を抱きながら心のどこかで「私のもとへ帰って」と願っている。
・多分、開花くんの"貴方"への想い自体は完全に穢れ切ってはいないんでねえかな。その証拠に、カサブランカの花言葉は「無垢」「純粋」とキナ臭さ満開なお花たちの中で比較的まともな意味。「その手を差し伸べておくれ」で開花くんの腕に咲く花がカサブランカである事を鑑みても、彼が"貴方"を心底憎んではいない事が察せられる。
・そして「いずれ全て味気なくなっていく」「寂しさの感度も忘れていく」と、"貴方"がいない日々に慣れつつある自分に焦燥を覚えてもいる。もはや"貴方"について考える事がある種の生き甲斐みたいになってて、その憎しみがなくなったらもう彼には虚無しか残っていないのだろう。
2. 壊れた部屋と開花くん
・開花くんがいる部屋は留守中に爆撃されたんかと思うほど殺風景で荒みまくっている。一人用にしてはやたら大きいテーブルは、元々は二人で使っていたものだろうか。この部屋は開花くんのがらんどうな心そのものなのでしょう。
・色とりどりの花が活けられた花瓶はヒビ割れ、今にも壊れてしまいそう。その傍らで開花くんは陰鬱極まりない表情をしており、その目尻からは花が咲いている。これは"貴方"の為に流した涙(=感情)の暗喩だろうか? のっけから花に侵食されていて怖い。
・彼の服装は真っ黒で、まるで喪服の様。花は死者に手向けるものでもあるし、色とりどりの花に侵食されてしまうラスサビは、花の敷き詰められた棺の中に横たわっている様を連想させる。
3. 砕け散る花瓶
・2コーラス目で花瓶が遂に砕け散る。"水の入った容器が倒れる"という演出は須田景凪名義楽曲の「アマドール」や「パレイドリア」のMVでも見られたが、今回は倒れたなんて生易しいもんでなくニンジャ張りに景気良く爆発四散している。破片も当然飛び散り開花くんを傷付けただろう。花="貴方"への感情だとするなら、行き場のなくなった感情が遂に爆発し、自分自身を傷付けてしまった表現に見える。開花くんは強い自己嫌悪に陥っている?
・あとこの場面、よーく見ると一輪のカサブランカが壊れた花瓶から咲き誇ってる様にも見える。
・何のインタビューかは忘れたが、以前、先の二曲のMVについて「コップが倒れて水が零れる演出は何なんだべ?」という質問があって、須田バルーンは「感情が溢れ出る意味合いを持たせています」的な回答をしていた。溢れ出るどころか大爆発起こしてるんだが。開花くんの頭蓋カチ割られて花咲いちゃってるんだが。どんどん感情に支配されて、追い詰められていく様はホラー的でもある。
・一番怖いのは、開花くんが始終テーブルに突っ伏したまま何のアクションも起こさないところ。黒い感情の成すがままになっている様な、感情に支配される事を望んで無抵抗でいる様な、じっとりとした虚無を感じる。
4. ラストシーン
・開花くんは無数の花々に侵され、最後は花諸共枯れて消えてしまう。ここは開花くんが"貴方"から解放されたとも解釈出来るけど「この夢が覚める前に」「この歌が終わる前に」という歌詞が妙に不吉。
・おそらく開花くんと"貴方"の昼ドラ張りにドロドロした恋模様は、泡沫の様なものであり、同時にとても脆弱な戯れに過ぎなかったのだろう。それを「夢」や「歌」など、口当たりは良いものの結局は形のない曖昧なものに喩えている。"貴方"への未練がなくなったのは一見すると前向きな終わり方の様にも見えるが、それは同時に開花くんの恋が完全に死んだ事を意味する。喪服の様な衣装、棺の中の死人めいたラストは彼の精神的な死の暗喩ではないだろうか。
・「その手を差し伸べておくれ」と救いを求めた腕に咲くカサブランカが何とも皮肉。恋心を捨てきれなかったばかりに、"貴方"を完全に憎めなかったばかりに、開花くんは彼が最も望まぬ最悪な結末を辿った。腕に絡み付いた純粋な想いが彼の動きを遂に止めたという事か。
・つーかすっげー陰気臭い曲だな! 今更だけど! ダンサーインザダークか!
・ちなみにタイトルの「パメラ」とは、ギリシャ語で「甘さと愛情」「全て甘い」等を意味する女性名だそうな。スペイン語では「鳩」という意味もあるらしい。
・鳩って平和の象徴の筈なんだけど、この曲に平和の要素一欠片もねえのはどういうこったい。
・まとめ:「開花くんは元カノに未練タラタラだけど元カノいない生活に慣れるのは御免被る面倒臭いとこもあった。追い詰められた挙句遂に色々爆発してしまい、未練は絶たれたけど反動で虚無状態になってしまった。これすなわち彼の恋の終焉である」
・バルーンさんいい加減に幸せな恋愛して(懇願)
10/18 追記