音痴会の予定
歌が、下手である。おそらく母親の胎内に音感だとかリズム感だとかそういった類のものを置き忘れてしまったようだ。歌うことは好きだし音楽を愛しているといっていい。だが、音楽は僕を愛さなかったようだった。
先日妻と息子とドライブ中、カーオーディオから流れてくる曲を口ずさんでいるとそれを聞いた息子に「パパのおうた、ハゲてるね!」と評されたレベルだ。歌がハゲてるってなに…?
学生時代の合唱コンクールでは投票で指揮者に選出される事も少なくなかった。僕が厄介事を押し付け易い性格だった事もあるだろうが、主な理由は隣で歌われると音感がグチャグチャに乱されるからであろう。たまに妻が口ずさむ歌に輪唱で入っていった際のブチ切れる妻の様子をみるにその予想はそう外れてはいないと思われる。
褒め上手でお馴染みの金子みすゞですら僕の歌を聞けば「みんないいとは言ったけど…君はその…ちょっと……ね…?」と伏目がちに目を合わせる事無く草葉の陰に戻っていくはずだ。
僕にとって歌うことは玉の見えないボーリングをしているようなものだ。ボールを放っても数秒後にガーターという結果だけが表示される。音程という軌道さえ見えれば修正のしようもあるのだが、現時点では投げる球のスピードを直せばいいのか、フォームを直せばいいのか、どこから手を付けていいのかさっぱりわからない。
カラオケが苦手だ。特に会社絡みの飲み会の後に「まだ時間もあるしカラオケでもいくか!」といって流れで行くカラオケは心の底から憂鬱になる。皆でわいわい騒ぐ事自体はむしろ好きだが、行った際に必ずある「一曲ぐらい歌ってよ」からの、皆が「あっ……」と察し静まり返るあの地獄のような瞬間が訪れるたびに先程の食事が胃から逆流しそうになる。その度にタイムマシンが開発され次第カラオケを考案した無実の功労者に全力ビンタをしに行こうと心に固く誓うのだ。
そういえばカラオケでしたい事が一つだけあった。いつか音痴だけを集めて一人歌い終わる毎に「いや~!とんでもなくずれてたね!!」「いいズレっぷりだったよ!」と互いに肩を叩きあって褒めちぎりあう、そんな音痴会を開催してみたい。10年程前から参加者を探してはいるのだけれど僕レベルの音痴と未だ出会えずにいるので残念ながら開催時期の予定は未定となっている。