最愛なる全てのラムシュタイン好きへ : アルバム「Zeit」全曲レビュー
はじめに
ドイツが誇る最強のインダストリアルバンド ラムシュタインが8枚目となるアルバム「Zeit」をリリースしました。
前回は10年空きましたが今回はなんと前作から3年という短いインターバルです。
それにはやはりコロナが関係していまして、前作に伴う世界ツアーを半ばで中止せざるを得なくなりアルバム制作に集中できる時間が生まれたという訳です。
さて、今回のアルバム「Zeit」。
はっきり言って素晴らしいです。
何が素晴らしいか。それは「円熟味と前のめり感のバランスの良さ」と「ダイナミズムの大きさ」です。
近年のラムシュタインは年を追うごとに円熟味が増し「引き算の美学」と「枯れた味わい」を体現するようになっていました。
ラムシュタインというバンドの30年近いキャリアの長さや各メンバーのアーティストとしての成長を考えれば無理もない事ではあります。
しかし個人的には「ラムシュタインも落ち着いた大物バンドになってしまったのか、、」と少し物足りなさがあったのも事実。
そんな勝手な思い込みをいい意味で裏切ってくれました。
今作は引くところは引くけれども一方で攻め曲のアッパー度がハンパなく高く「ラムシュタインに期待する過剰さ・いびつさ」が実現されているという意味で「ダイナミックでバランスが良い」のです。
ギトギトした油分や「社会常識」が眉をひそめる悪趣味なノリが満載。
期待してたのはコレです。
ちなみに私の好みは相当偏っているので世間的には前作の方が評価は高いと思います。それが正常な感覚だと思いますし。
もちろん今作にも美しいバラード曲は沢山ありますし、これまでになかった新鮮な曲展開やサウンドなどもあり、本当に素晴らしく充実した作品だと思います。
ラムシュタイン、元気です。
それでは全11曲のレビューいってみましょう!
M1:Armee der Tristen
オープニング曲。どこか物哀しい旋律から荘厳なサビへと盛り上がる1曲。後ノリで刻まれるヘヴィなリフが心地よいです。終盤に持ってきてもハマるような感じ。一気にラムシュタインワールドに引き込まれます。
M2:Zeit
https://www.youtube.com/watch?v=EbHGS_bVkXY
アルバム表題曲。一発目のシングル曲でもあります。彼らの3枚目のアルバム「Mutter」(2001年)の表題曲を思わせるような力強いミドルテンポの曲。「Zeit」=「時間・時」というものが持つ「はかなさ」「残酷さ」「優しさ」がドラマチックに表現されています。
M3:Schwarz
M1~2の雰囲気を引き継いだようなバラードソング。荘厳なオーケストレーションも織り込みつつ、終盤のサビ部分のメロディ、好きです。正味4分くらいの曲ですがストーリー性すら感じさせる多彩なカラーを出しつつ決して詰めこみ感はないという作曲・編曲の巧みさを感じます。
M4:Giftig
ここからギアが1段上がります。ちょっとプロディジーみたいなテイストもあるヘヴィポップソング!
オートチューンなんかも使ったりして新鮮味がありつつそれはあくまでも味付け程度。
ベースはあくまでもいつものラムシュタインで安定感抜群です。
M5:Zick Zack
セカンドシングル曲。個人的にはここから1回目のヤマ場です。
こういうの待ってました!
タイトルの通りザクザクと切り裂くギターと跳ねるキーボードがヘヴィなビートに絡むアッパーソング。スター(?)ミュージシャンの美容整形や虚飾に満ちたアピアランスを皮肉ったMVは悪趣味の極みですが笑
なんでもバンドは実際にドイツの美容整形病院に出資してオープンもした模様。
どこまで本気なんだか分からないこのバンド。。
M6:OK
前つんのめり系突進ソング!
一拍目に力点を置くリズムは初期から続くラムシュタインのトレードマーク。
聖歌隊みたいなコーラスに「Ohne Kondom」と連呼させるから何かと思ったら「OK」→「Ohne Kondom」→「Without a Condom」つまり「ゴムなし」って事です。
整形の次はこれですか。そうですか。何を聖なる歌みたいな雰囲気で言わせるのか笑
最後の1分に差し掛かったあたりで見せる1回だけ出てくる展開とか贅沢な使い方で素敵です。
M7:Meine Tränen
ここで一旦腰を落ち着けるバラードソング。M4~6で激しめの曲が続いたので後半の事を考えるとここにバラード曲を配置するのはアクセントにもなりバランスが良いと思います。
「Mutter」収録のM11「Nebel」に似た雰囲気を感じました。
M8:Angst
ここからが2回目のヤマ場です。この曲はかなり気に入っていてヘビロテしています。
わざと一拍ずらしたリズムとスリップノットのクラウンが叩きそうな金属質のパーカッションがクセになり本能を刺激します。
しかしヴォーカルのティルは別にスクリームする訳でもないのになぜここまで聴き手の心を高揚させ、狂わせる事が出来るのでしょう。素晴らしいアーティストです。
「電脳原始民族達が戦闘前の舞踏によって、平和ボケした中年どもを蹂躙する」ような内容のMVも最高。
個人的にはこれまでの彼らのMVの中でもベスト3に入る秀逸な出来だと思います。
M9:Dicke Titten
国営放送から流れる牧歌的なテーマソングみたいなメロディが流れたかと思いきや重厚な後ノリビートにのって歌われる「Dicke Titten」=「おっきなおっぱい」の歌。
例えるならば、「いかにも」な場で交わされる下ネタトークや卑猥な行為よりも、国家の厳めしい式典で発せられる放送禁止用語や、平和な仲良し家族が囲む食卓のテレビでいきなりAVが流れる方が「あかん感じ」がする。ラムシュタインが持ち込み、表現しているのはそういう類の「悪意」だと思います。
M8と続けて聴くと効果倍増(なんの効果か分かりませんが)!
M10:Lügen
あがりにあがったテンションを落ち着ける、心に沁みるバラードソング。ゆったりしたテンポと美しい旋律から、途中、ノイズギターと共にゆらぐようにテンポアップしたりするあたりはアルバムタイトルが「Zeit」=「時間・時」であることを改めて意識させられる内容です。
M11:Adieu
「Adieu」、別れを告げる意のフランス語です。
彼らがアルバムの最後に別れを意味するタイトルの曲を持ってくるのはアルバム「Mutter」以来。「Mutter」ではM10に「Adios」というこれまた素晴らしい曲があるのですが兄弟ソングとでも言うべき、熱くも物悲しい別れの曲が誕生しました。
スクリーンにエンドロールが流れてきそうな、大団円を迎えるにふさわしい劇的なリフと展開。
「Adieu、goodbye、auf Wiedersehen」と謳いあげる一節に胸を熱くしながらアルバムは終わりを迎えます。
全11曲。いや~素晴らしいです。爽快感、怒り、壮大さ、エログロ、ドラマ性。これらを全てが凝縮され、くっきりとラムシュタインの刻印を押されてパッケージングされています。
コロナという予期しない形で訪れた、前作から間をあけない形でのアルバム制作。ワールドツアーで使うはずだったエネルギーやクリエイティビティが見事に作品に込められています。
何でも某紙で本作の評点が80点台前半だったとか。微力ながら私が200点をつけてバランスをとりましょう笑
プロデューサー
今作のプロデューサーは前作に引き続きドイツ人のオルセン・インヴォルティーニ(バンドとの共同プロデュース)。
デビューから2009年の「Liebe ist für alle da」までずっとスウェーデン人のヤコブ・ヘルナーと組んでいたラムシュタインですが、前作「無題」で初めてヤコブ以外のプロデューサーとしてオルセンを起用。そして今回も続投となりました。
オルセンはラムシュタインのギタリストにして作曲の要であるクラスプがやっているソロバンド・エミグレイトでギタリストとして在籍した過去があり、またラムシュタインのライヴではサウンドエンジニアを務めていたりするので近年のラムシュタインの音作りに欠かせない人物なのかもしれません。
小ネタ
ここで小ネタを1つ。ドイツ在住の方のツイッターで知ったのですが今回のアルバムジャケにうつっている印象的な建物は1936年に完成したドイツ初の飛行場ヨハニスタール近くに作られたナチスの航空技術実験所だそうです。ラムシュタイン観光ガイドブックに必掲です(そんなのないけど)。
1つだけ残念な事があるとすれば、、
こんなに素晴らしい今回のアルバム。1つだけ残念な事があるとすれば、、
なぜ正式な日本盤が出ないのか!!
国内では輸入盤に歌詞・対訳をつけたものしか出ません。是非プロのライターの方による解説を読みたかったしボーナストラックも欲しかった、、!
これではもう長年実現していないラムシュタインの来日公演など夢のまた夢、、。(そもそも日本の消防法では彼らのフルスケールライブ実行は不可能ですが)
いつかラムシュタインのライヴをみに海外遠征に行きたい!
今回はドイツが誇る最強のインダストリアルバンド ラムシュタインがリリースした8枚目となるアルバム「Zeit」について書きました。
2枚分のアルバムを携えてのワールドツアーの盛り上がりも楽しみですし、次なる作品がまた近いうちに作られる事を願ってやみません。
読んで下さりありがとうございました!