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【前置き過多注意】シニカルなインダストリアル帝王の帰還 Ministry『Moral Hygiene』

Ministry(ミニストリー)が15枚目となるアルバム『Moral Hygiene』(モラル・ハイジーン)をリリースした。

これが実に素晴らしい仕上がりになっているのでその魅力・ポイントを紹介します。

好きすぎて長文になってるので「いや早く新譜について知りたいわ」という方は目次から「新譜『Moral Hygiene』について」に飛んで下さい。

「コイツは何をそんなに熱くなってるんだ?」と興味を少しでも持ってくれた方は初めからお読み下さい。

・ミニストリーというバンドについて振り返り

まず、ミニストリー=アル・ジュールゲンセン(ヴォーカル・ギター)だと思ってもらって構いません。

1981年(今から40年前!)にシンセポップバンドとして活動を開始した時から今に至るまで全てをコントロールし、楽曲を生み出してきたのはアル。

▼アル・ジュールゲンセン(なんて怪しい風貌なんだ)

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そんなミニストリーがエクストリームミュージック界隈、ともすればメタルシーンで注目されるまでになったのは『The Mind Is a Terrible Thing to Taste』(4th/89年)や『Psalm 69: The Way to Succeed and the Way to Suck Eggs』(5th/92年)あたりから。


いやこれ今聴いてもほんとかっこいい

ゴリゴリのメタルではないしスクリームしてる訳ではないのに(歪ませてはいるけど)、エクストリームさや疾走感、背徳性がムンムン。

これらの作品がきっかけでミニストリーはメタルシーンでも話題になってブレイクし、ナインインチネイルズやラムシュタイン、フィアファクトリーといったインダストリアルバンドやプロング、キリングジョークといったオルタナ系ロックバンドに影響を与えていく訳です。

また、この頃アルはジェロ・ビアフラ(元デッド・ケネディーズ)とのプロジェクトLARDも始動。

▼LARDのアルバムジャケ。今回の新譜ジャケとテイストが似ている点にも注目

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権力を嘲笑い、時の政権にケツを向けて挑発するシニカルさ、鷹揚さこそミニストリーの魅力であったのです。

また、1993年頃、スラッシュメタルバンド(当時)のセパルトゥラがとある楽曲のリミックスをアルに依頼した事もあり(結局実現せずでしたが)ミニストリーというバンドへの興味は高まったのでした。

・ブレイク後

その後もバンドはアルバムリリースとツアーを重ねていきます。

90年代後半から00年初頭には映画への楽曲提供もするようになり「マトリックス」(99年)や「A.I.」(01年)は今でも印象に残っています。

▼「マトリックス」提供曲「Bad Blood 」

「マトリックス」1作目のサントラは当時最先端のインダストリアル・ヘヴィロックをまとめあげた作品としても秀逸(これについてはまた別の機会に)


▼「A.I.」提供曲「What About Us?」

ベストアルバム『Greatest Fits』収録の新曲でもあります。

映画においてとあるショッキング&残酷なシーンで使われておりバンドの持つイメージ通りで面目躍如といったところ。


しかし、この後『Animositisomina』(8th/03年)辺りから個人的にはちょっと熱が冷めてしまいます。

というのも楽曲が妙に激しくなりすぎて一本調子で、ミニストリーが元々持っていたおフザケ感、権力を挑発するような余裕が失われているように感じたからです。

どうやら当時アルはブッシュ政権に相当な反感を持っていたらしくそれが作品にダイレクトに反映されていた模様。

なのでこの後何作品もリリースされるのですが脇目で見る(聴く)くらいでスルーする日々が続いたのでした。

・ミニストリーフォロワー、与えた影響について

その一方で2000年代に入るとミニストリーに影響を受けたバンドが出てきたりリスクペクトを公言するミュージシャンが出てきます。

まずフィアファクトリー

ミニストリーのライヴにバートン・C・ベルが参加したりとその繋がりは明らか。


次にスタティックX

前述のバートン・C・ベルをゲストに呼んでミニストリーの楽曲をカヴァーするというまさに孫のような動き。

このカヴァーがまたかっこいいんだ。

そしてトニー・カンポスというベーシスト。

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この人はスタティックXのオリジナルメンバーにしてその後ミニストリーに加入(現在は脱退)、そしてフィアファクトリーのギタリスト、ディーノ・カザレスのヒスパニック・デスメタルバンド「アセシーノ」にも参加するという「全部乗せ」な人物。ちなみにこの人、一時期ソウルフライにも在籍。自分の好きなバンド、人と絡んでいくスタイルはもはや羨ましいぞ。


次にリンデマン

リンデマンはラムシュタインのティル・リンデマン(ヴォーカル)によるソロプロジェクト。

「Ich weiß es nicht」という楽曲のミニストリーリミックスが存在します。


ちょっと意外なところではセパルトゥラ

アルバム『Kairos』(2011年)で「Just one fix」をカヴァーしています。

かつて楽曲のリミックスを依頼するプランがあった事は書きましたがそれはマックス・カヴァレラの趣味嗜好かと思っていた(ネイルボムとかやってたので)のですがアンドレアスもミニストリー好きだったんですかね。


最後はジョーイ・ジョーディソン(元スリップノット)

単発ではなく06年頃のツアードラマーとしてガッツリ ミニストリーに参加してました。

ジョーイはマーダードールズみたいなインダストリアル/ゴスバンドもやっていたので多分ミニストリーも好きだったものと思われます。

いかに幅広いバンド、ミュージシャンに影響を与え、リスペクトされているかが分かると思います。

そうこうしている内にメンバーの死去などもありバンドは2008年に解散。

、、したと思ったらわずか3年あまり経った2011年に再結成。

どうやらこの時はトランプ政権に反感、危機感を覚えていたようでこれまた本気になって怒りすぎで余裕が感じられず。

さらに、どうにもドラッグ/アルコールの悪影響が見え隠れしてあまりノれなかったのでした。

▼『Relapse』(2012年)

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こういった事もあり、ますます自分の中でミニストリーの存在感は下がっていったのです。

・新譜『Moral Hygiene』について

さて、お待たせしました。ようやく新譜『Moral Hygiene』の話です。

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『Moral Hygiene』というタイトルは和訳すると「道徳衛生」。

コロナ禍の世界にかかっているようにも思えるし、ネット・SNSの発達でありとあらゆる情報が秒で世界を駆け巡り、金銭と承認欲求欲しさにモラルを逸脱した行為を行う輩が続出する現代社会における道徳観念への問題提起といった意味合いが透けて見えます。『From Beer to Eternity』『AmeriKKKant』といった直截的な表現が目立った最近のアルバムタイトルとは一線を画しています。

ニューアルバムについて報道され始めたのはおそらく2021年の春頃。

最初は「あー新譜出すのかあ」程度のテンションだったのですが全てが変わったのは8月にニューアルバムの5曲目に収録されることになる「Search And Destroy」のPVが発表された時でした。


もう全てが好みのドンズバすぎて一気にミニストリーというバンドに再び引き込まれたのでした。

まず楽曲。

「Search And Destroy」はイギー・ポップの、それもキャリア初期の名盤『Raw Power』のオープニングナンバー。これをカヴァーするというセレクトが素晴らしい。

かつてレッチリもカヴァーしたこの楽曲はミドルテンポかつメロディアスな要素もあります。額に青筋たてて怒り狂っていた頃とは違う印象。

さらに、この曲、妙にグルーヴィーでビートが活きてるなあと思って調べたらドラマーがロイ・マヨルガ(ストーン・サワー・元ソウルフライ)。

▼ミニストリー(2021年)真ん中の赤髪がロイ。(うん。アルの顔みえない)

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ロイ・マヨルガがミニストリー?いつ加入したんだよ!と思ったのですが、よくよく考えればロイが最初に世間に出てきたのはセパルトゥラの「Refuse/Resist」のリミックス「Chaos B.C.」を担当した時。

インダストリアルやリミックスに近い出自の人なんですね。


ここから先は情報を雪崩のように摂取。

今のメンバーがロイに加え、ベースはポール・ダムール(元TOOL)、キーボードはジョン・ベクデル(フィアファクトリー、プロング、キリングジョークなどに参加)である事、また、ジェロ・ビアフラ(元デッド・ケネディーズ)、デヴィット・エレフソン(ジュニアのジュニア事件により元・メガデス、、)がゲスト参加といった情報を知るにつけて新譜への期待がマックスへと到達。

果たして10月1日に新譜リリース。

その内容は期待に違わぬ素晴らしい出来でした。

ミドルテンポ主体の楽曲(でもちゃんと疾走パートもあり)、ミニストリー独特のスポークンワード調のヴォーカリゼイション、印象的なSE、世間を斜めからみたようなおちょくったビート。かつてミニストリーに求めていた全てがそこにあったのでした。

あと、2000年代の大半の作品はアルのセルフプロデュースだったのですが久しぶりに外部プロデューサーを迎えたのも功を奏したのかなと思います。

キャリアの長いカリスマは裸の王様になりがち。時には躊躇なくダメだしもするような「外野」がいてこそ良い作品が生まれるのかもしれません。

とにかく


ミニストリー、完全復活!!!



アルももう62歳。大ベテランにさしかかる時期ですがエナジーの続く限りこのこの先も活動してほしい!来日もお願いします!


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