260時間で受かる、頑張れない人のためのNY Bar勉強法(2019年7月受験)


1. はじめに

これからNY Barの合格を目指す方向けに、私が実際に行った勉強法をご紹介したいと思います。

私は2019年5月にLLMを卒業し、同年7月のNY Barを受験し合格しました(点数は310点台でした)。トータルでの勉強時間は260時間ほどでした。
NY Barの問題自体は、ぜんぜん大したことを聞いてきませんので、諸先輩方の合格体験記等を参考にして地道に勉強していれば合格が難しい試験ではないと思います。
が、生来怠け者である私は体験記に書かれている勉強量を見て思いました。「こんなにできねえ」と。

そのため、可能な限り頑張らずに合格点に達するような勉強法を心掛けましたが、結果からしてそう的外れな方法でもなかったようですので、勉強にあまり時間が割けない方の一助になればと思い、私の体験をお伝えさせていただきます。

2. 注意:ちゃんと時間をかけて勉強した方がいいタイプの人

この勉強方法は向いていないと思われるのは以下のような人です。

(1) MPREでちゃんと準備したのにあまり点が伸びなかった・試験時間が足りなかった方
MPREは、MBEと同様の問題形式であること・英語が不得手な外国人にとっては試験時間に余裕がないこと・日本のルールと基本的なコンセプトが似ていて日本法の知識でなんとなく解ける問題がけっこうあること、といった点でNY Barと類似性があるので、MPRE の結果はBar受験において自分がどのくらい危ういかの目安になると思います。
私は日本人ノートを2回通読し、Barbriが無料で配布している練習問題を3セット目までやった状態(準備期間は3日間くらい)で受験したところ、本番は20分くらい時間が余り、点数は120点でした。
もっときちんと準備をしたのに点数が平均点(93-94点)以下だった、あるいは時間切れで解けない問題が出てしまったという方は、Barとの相性もあまり良くない可能性が高いので、きちんと時間をかけて勉強した方がよいと思われます。

(2) 日本の司法試験を経験していない方
LLM卒業後2か月という短期間で多くの科目をカバーしなければならない関係上、各科目の勉強はごくごく浅い単純暗記作業にならざるを得ません。しかし、背景となる経緯やロジックを理解しない機械的な暗記では、どうしても忘れやすかったり、少し事案を変えた応用問題に対応できない、ということが起こり得ます。
一度司法試験で日本法の基礎科目を網羅的に勉強した経験があれば、その知識をもって「ベースにあるのはたぶんこういう論理なんだろう」と補って勉強していくことができますが、そうでない場合、たった2か月で多くの科目をゼロから勉強するというのは相当大変だろうと思います。
ですので、司法試験受験経験がない方は、「試験と名のつくものはおよそ得意」というタイプでない限り、きちんと時間をかけて勉強した方がいいと思います。

3. 予備校選び

Barbriを選びました。理由としては、多数派が受かる試験である以上、多数派が選んでいる予備校を選ぶのが合理的と思われたからです。とはいえ、後述のとおりBarbri特有の講義や問題などは大して利用しませんでしたので、実際はどこを使っても大差はなかったかもしれません。
また、費用を節約したい場合は中古の教材だけ購入するという方法も十分ありうると思います。ただその場合は教材のどの部分をどういう順番でこなせばいいかについて、受験経験者からアドバイスを受けた方がよいと思います。

4. 勉強のスケジュール実例

私の勉強スケジュールは以下のとおりです。ご覧のとおり、後半に詰め込んで逃げ切った形ですが、記憶力が良くない私にとってはこの戦略は正解だったと思います。

なお、LLM卒業以前にはBarの勉強は一切行っていません(めんどいから)。LLMでの履修科目としては、受験資格を満たすために仕方なくCivil ProdedureとTortsを取っていましたが、Bar科目履修の過多がBar受験結果を左右するとは思われません(Barはそんなに高度なことを聞いてこない)ので、せっかくのLLMですから出来るだけ興味のある科目を履修することをお勧めします。

5月上旬
LLM卒業。しばらく遊ぶ。
5月中旬 
・MBE: Constitutional lawの日本人ノートを通読。その後EmanuelのConstitutional lawの問題を解いてみる。8割くらい正答できていたので、「なんか大丈夫かな」という気持ちになり、勉強をやめる。
・MEE: 未着手
・MPT: 未着手
 5月下旬
旅行に行っていたため勉強せず。5月の勉強時間はトータル15時間くらいで終わる。
 6月上旬 
・MBE: 各科目の日本人ノートを通読(1周目)。読んだ後Emanuelの問題を解く。
・MEE: 未着手
・MPT: 未着手
6月中旬
旅行に行っていたため勉強せず。
6月下旬 
・MBE: 各科目の日本人ノートを通読(2周目。半分くらいの科目をやったところで6月は時間切れ)。Emanuelの問題で間違えたところを解きなおす。
・MEE: MEE専用科目の日本人ノートを通読。
・MPT: 未着手
7月上旬 
・MBE: Barbriの模試を受け(結果は163点)、間違えた問題のみ解説を読む。
・MEE: Smart Bar PrepのEssay Priority Outlineを読む。Barbriの問題集を2問くらい解いてみる。
・MPT: BarbriのMPTの問題と解答を1問眺めてみる。
7月中旬 
・MBE: 各科目の日本人ノートを通読(2周目の残り~3周目の半分くらい)。Barbriの問題集(Workshop)を解く。
・MEE: Smart Bar PrepのEssay Priority Outlineを読む。Barbriの問題集を解く(答案構成と解答の確認のみ)。
・MPT: お休み
7月下旬
・MBE: 各科目の日本人ノートを通読(3周目の残り~4周目の半分くらい)。Emanuelの問題で間違えたところを再度解きなおす。Barbriの問題集(Refresher、Practice Questions)を解く。
・MEE: Smart Bar PrepのEssay Priority Outlineを読む。MEE専用科目の日本人ノートを通読(2周目)。Barbriの問題集を解く(答案構成と解答の確認のみ)。
・MPT: Barbriの問題を1問書いて解いてみる。その他のBarbriの問題について、問題形式と回答形式だけざっと確認(内容は読まない)。

5. MBE対策

・ 勉強の方向性
個人的には絶対にここで点を稼ぐべきだと思います。
MPT、MEEに必要なライティング力は一朝一夕では身に付きませんが、MBEに必要な知識は付け焼刃で乗り切れます。また、日本人は度重なる受験経験により、択一問題について他国受験生と比べて圧倒的なアドバンテージがあります。これまでの人生で研ぎ澄まされた試験勘を生かしましょう。

・インプット
インプットはほぼ日本人ノートのみで行いましたが、それで十分だったと思います。
日本法の知識が役に立たずゼロからの勉強になるReal PropertyくらいはBarbriの講義を聴こうかと思いましたが、講義を1回視聴する間に同内容の日本人ノートを2-3回読めるくらいのスピード感でしたので、30分視聴した時点で時間の無駄だと思い止めました。
日本人ノートを読むスピードは、1周目は1日に1科目読めるくらいでしたが、2周目以降は1時間あたり20ページくらいで読んでいました。

なお、日本人ノートに散々お世話になっていてこんなことを言うのも心苦しいのですが、ノートの出来には科目によってばらつきがあり、記載に違和感を覚えて該当箇所のBarbriのアウトラインを読んでみると致命的な誤訳があったり重要な要素を漏らしていたりしたことが時々ありましたので、読んでいて「?」と思ったら調べてみて適宜修正することをお勧めします。

また、日本人ノートはBarbriの模試の問題も踏まえた記載になっており、ノートを読んでいる場合は模試で本来の実力以上の点が出てしまいますので、点数については少し割り引いて考える必要があることに注意です。通常、本番のMBEは模試の点数から10~20点くらい伸びるそうですが、私は数点しか上がりませんでした。

・アウトプット
Emanuel記載の過去問と、Barbriの問題集(Workshop、Practice Questions、Refresher)を解きました。
トータルでは1400問くらい解いたと思います。1200問を超えたあたりで正答率がほぼ8割くらいで安定し、間違えた問題も「これはもう一回解いても多分間違えるな」というものになってきたので、そこでストップしたという形です。その段階に至るまでの問題数は人それぞれだと思いますので、この数解いておけば大丈夫、という客観的な基準はないのではないでしょうか。

こういう練習問題は一回解いてそのまま放置だと忘れてしまうのであまり意味がなく、間違えた問題のみ後日解きなおして全問正解できる状態に持っていくところに神髄がある(と私は思っている)ので、いたずらに数をこなすより復習が大事なような思います。といっても解説をつぶさに読み込んだりメモしたりする時間はありませんので、ざっと解説を見て何が間違っていたか把握したら、一週間後くらいに解き直す、再度間違えた問題は更にまた一週間後に解き直す、それだけです。

Barbriの問題は質がよくないとか本番と傾向が違うとかいう話を聞いていたのですが、個人的にはその違いはあまりよくわかりませんでした。まあ問題文が妙に長いなとかいうのはあったのですが、結局「何を理解していれば正解できるか」という点においてはBarbriの問題が大きく外れているという感じはしませんでした。

6. MEE対策

・ 勉強の方向性
MEEの問題は(も)シンプルであり、基本的に暗記したものを吐き出して形ばかりの当てはめをするだけですので、記述式とはいえそこまでライティング力は必要とされず、またMBE科目のインプットについてはMBE対策と重なるので、インプット重視での勉強でよいのではないかと思います。
MEE専用科目については、勉強しても半分の確率で出題されないで終わると思うとコスパが悪いように思われましたので、あまり時間を割きませんでした。

・インプット
MBEと重なっている科目については、MBE対策として読んでいた日本人ノートでMEE対策も兼ねていました。その後、日本人ノートで漏れているところがあると嫌だなと思いSmart Bar PrepのEssay Priority Outlineもざっと読んだのですが、日本人ノートと食い違いもちらほらあって単に混乱しただけでしたので、Smart Bar Prepは読む意味はなかったと(後から)思いました。

MEE科目についてはさすがに日本人ノートだと内容が薄すぎるので、Smart Bar PrepのEssay Priority Outlineを2回読みました。が、Smart Bar Prepの記載は私には簡潔すぎてよく理解もできないし記憶もできないで終わってしまったので、Barbriの短い方のアウトラインを読んでいた方がよかったと(これも後から)思いました。
Barbriの講義も2つほどチラ見してみましたが、こちらも読むのに比べて学習スピードがかなり遅くなってしまうのと、先生が急に叫びだすのに耐えられず、2つ目の途中で視聴をやめました。やはり効率性の観点からは講義は切り捨てた方がいいと思います。

・アウトプット
Barbriの問題集(各科目8問)を解きました。といっても、実際に解答を書いてみたのは2問程度で、時間の感覚をなんとなく掴んだのみです。それ以外はすべて問題を読み答案構成を頭の中で行って解答を読む、ということをしていました。
また、解答の中に出てきた規範のフレーズで、自分の答案構成で思いつかなかったものについては、そのフレーズを2、3回くらい(殴り書きで)書いて覚えるようにしていました。

7. MPT対策

・勉強の方向性
圧倒的に勉強のコスパが悪いと思ったので殆ど対策しませんでした。
やっている作業自体は、LLMに来ている日本人であれば多かれ少なかれ仕事で行ってきたものだと思いますので、むしろ学校を出たての他の受験生より一日の長があるはずです。日本語であれば我々はみんなよくできるやつです。
そのため、得点が伸びない要因は英語力一点にあり、そしてこの英語力は2か月ではなんともなりません。
幸いMPTの配点は20%です。20%というのは、ほぼゼロと同じです。無視しましょう。

・インプット
そうはいっても流石に初見で解く勇気はありませんでしたので、Barbriの問題と解答をぱらぱら眺めて形式だけ確認しました。使った時間は全部で30分くらいでしょうか。問題文の内容を読んだり答案構成をしたりということは一切していません。

・アウトプット
まず1問問題を眺め、答案構成を頭の中でした上で、解答を読みどういう感じなのかをつかみました。
その後、1問だけ実際に答案を書いてみて、「時間が足りないなあ」となりました。そのため、本番でも時間が足りなくなるだろうなとあらかじめ覚悟しておき、実際そうなりましたが、予想通りでしたので特に慌てることもありませんでした。まあ、できることはそれくらいです。

8. 本番の感触

・ MBE
Barbri模試の時は時間が2問分くらい不足していたのですが、本番ではかなり時間が余りました。午前は30分くらい、午後は1時間近く余りました(その割に点は伸びなかったのですが)。
感触としては特によくできたという感じもできなかったという感じもせず、練習問題でやっていたいつも通りだな、という感覚でしたが、実際そのとおりの結果でした。
・ MEE
コンスタントに1問30分前後で進めていき、時間ぎりぎりでなんとか全問解き終われました。解く順番は、最初に全部の問題に目を通す余裕はなかったので頭から順に解き進めていき、途中で全然ピンと来ない問題に行き当たったときはその問題はスキップして、最後に余った時間で解くようにしました。
6問中、自信をもって書けたのは2問、うーんまあこんな感じかなあというのが2問、こんなの見たこともないぞというのが2問でした。見たこともないぞという問題については、日本法の知識と自分の中の常識を基に規範を捏造してやり過ごしましたが、それでもそれなりに点数は来るようですので、とにかく問題文中のあからさまに拾ってほしそうな事実を拾って、てきとうな理屈をつけて説明し結論に結び付ければなんとかなるのだと思います。
・MPT
1問目はそれなりに書けたものの時間を大幅にオーバーしてしまい、2問目は資料を読み切らないうちにやむなく見切り発車し、その結果目的地も見失っている答案になってしまいました。が、点数からするとそんな内容でもあまり足を引っ張ったわけではなさそうです。やはり無視してよかったと思います。


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