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「やがて君になる」2010年代最高の恋愛漫画。

こんにちは、とある地方の喫茶店店主のかんざしです。


突然ですが、こってりしたチーズケーキがあれば深煎りのマンデリンを合わせたくなりますよね….。私はそうなるんです。(笑)

檸檬の酸味が効いたチーズケーキには中煎りのエチオピアなんかいいでしょう。

心が透くような恋愛漫画が読みたくなったら「やがて君になる」を読みます。

こんにちは。えー、喫茶店店主改め「やがて君になる」過激派のかんざしです。

私が過激派の肩書を背負うはめになったのは半年前のことです。

いつものようにブックオフの100円コーナーをパトロールしていたら気になる本発見。半ば無意識的に右手を伸ばすと、背表紙の上で指先同士が触れた。平静を装いながら目を上げると顔を赤くした麗しのレイディーが「ど、どうぞ!私、他の本目当てでき、来たので!」と勢いよく言葉を吐き出し、恥ずかしそうに俯きながら自動ドアへと猛ダッシュ。「ちょ、待てよ!」と追いかけると、「ガンッ」。鈍い音と共に頭を押さえながらしゃがみ込むあの子。ポケットにあった、しわくちゃのハンカチを女性に差し出し渾身の一言。「大丈夫ですか?僕は100円コーナーじゃない方から買うので大丈夫ですよ。100円の『やがて君になるの一巻』どうぞ。」決まった。あ、100円コーナーじゃない方に1巻ないじゃん…これが一巻の終わり!なんつって!がはははは。


みたいなドラマチックなことは起きるわけなく、普通になんとなく1冊買ってみたのが始まりだ。もちろん100円コーナーで。そこから面白さに腰を抜かし、残りは新書で買いそろえた。
そうなると1巻だけがやたら日焼けしているのが気になり、結局新書で全巻揃えた。お気づきの方もいるだろうが1巻が2冊ある状態になった。これを珈琲のエイジングにかけて私は「エイジングブック」と呼んでいる。ちなみに我が家にはエイジングブックが何種類かある。
「悪の華」、「シガレット&チェリー」、「チ。」、「私の少年」、「月光の囁き」etc。うん、これは枚挙に暇がない。

やがて君になる

まあつまりそんな感じで「やがて君になる」を読んだんですよ。はっきり言ってねえ、2010年代に刊行された恋愛をメインに扱った漫画で一番好きだ。
他の漫画も勿論おもしろい。だが、「やがて君になる」は面白すぎる。

ちなみに、ここまで読んだ人のリアクションは以下の二通りであると推測できる。

A「うんうん、わかるよ。異論は全くない。」
B「聞いたことないなあ。何がそんなに面白いねん。」

Aの皆さん、私は今『私、君の事すきになりそう。』状態です。

Bの皆さん、安心してください。今から説明します。
まずどんな漫画かというとこんな漫画です。

遠見東高校の1年生小糸侑は、誰かを特別に思う気持ちが理解できないという悩みを抱えていた。1学期のある日、侑は生徒会役員の七海燈子と知り合う。侑は燈子が多くの生徒から告白され、そのいずれにも心を動かされたことがないと知り彼女に悩みを打ち明ける。しかし、直後侑は燈子から突然告白をされる。侑は特別に思う気持ちは持てなかったが、燈子から「自分を好きにならないで欲しい」という条件で交際を始め…..

Wikipedia「やがて君になる」


あ、言い忘れていましたが「やがて君になる」は百合漫画です。
一言添えておくと、私は人生で読んだことのある百合漫画はこれだけですが、全く問題なく読めました。

書きたい事は山ほどあって、永遠に書いちゃいそうなのでいくつか絞ってまとめます。


・漫画でしかできない表現。
・普遍的かつ王道のテーマでありながら、話を特別なものに昇華している「アロマンティシズム」
・対比が美しい。

それぞれ話していきますね。


漫画でしかできない表現

何と言っても私が「やがて君になる」を推す理由はこれです。
段違いの表現力と美しすぎる「心情の変化」の描写です。



2018年、当時東京大学に在学していた学生100人に対して行われたアンケートをもとに、東京大学書評誌『ひろば』の編集長が執筆した著書『東大生の本棚 「読解力」と「思考力」を鍛える本の読み方・選び方』にて本作が紹介。東京大学内の販売所で新刊が発売される度に売り切れになることがあることを挙げ、心理描写が巧みに描かれている点、感情の動きや内面描写の美しさを評価した。その小説的な表現から「文学より文学的な漫画」と評する東大生もいた

Wikipediaより

文学より文学的な漫画。言いえて妙ですね。いいぞ!東大生!

なんでこんなに文学的に感じるのかを考えてみてみると二つの事に気づきました。「絵の描写がシンプルだから感情が伝わってくる」「セリフが洗練されていて、とても少ない」これにより、キャラクターの心情が生々しく伝わってきます。

個人的に分かり易い例を出しましょう。1巻1話5P-8Pのシーンです。侑がひょんなことから七海先輩の告白シーンにばったり鉢合わせ。侑はとっさに隠れて「影の中」から告白シーンを目の当たりにます。
告白している男子には「太陽の光」がしっかりあたっていて、キラキラしています。七海先輩はというと「木影」の中で、「ごめんね、君とは付き合わない」と告白を断ります。
しかしそのあと、「誰に告白されても付き合うつもりがないだけだから」と男の子に伝えます。その時、陽の光が当たり七海先輩めっちゃ眩しくなります。恋愛を分からない侑と誰とも付き合わないと宣言する七海。太陽光の当たり方ひとつで侑の心情が伝わってきます。この間、侑はモノローグが一つもありません。しかし、「恋愛感情を持っていることへの羨望」と「特別な人を作らない七海先輩に感じたシナジー」がめちゃめちゃ伝わってきます。あと、七海先輩のびっくりする程何も感じてなさそうな表情にも注目です。鉄仮面ばりに表情が作られています。告白してこんな表情されたらトラウマなるて…。七海先輩じゃなかったら許されなかったぞ。

まーつまり繊細な心理描写とすべてのコマに何か意味がありそうな気がするくらい緻密な構成ナンデス。読めば読むほどに「漫画ってすげえわ」って気持ちになります。はい次行きましょう。


王道のテーマでありながら、話を特別なものに昇華しているのは「アロマンティシズム」



「生徒会」「高校生」「恋愛」「何者かになりたい症候群」と超絶王道なテーマの中で話は進みます。しかし、ストーリーを唯一無二の物にしているのは「アロマンティシズム」です。ご存知ですか?僕はこの漫画に出会うまで知りませんでした。
調べてみると「アロマンティシズム」とは他者に対して恋愛感情を抱かない人の事らしいです。

「やがて君になる」は主人公 小川 侑のモノローグから始まります。
「少女漫画やラブソングのことばは キラキラしてて眩しくて 意味なら辞書を引かなくてもわかるけど わたしのものになってはくれない」

そっかー。なってくれないか…。

ちなみに僕は小学4年生の頃に僕の物になりました。初恋は同じクラスのバスケット女子でした。
出席番号が一つ違いで行事ごとでペアになり仲良くなるうちに好きになったような気がします。

でも果たして、当時「好き」という感情はどこから来たんでしょうか?よくよく考えると不思議ですよね。
めちゃくちゃエロ坊主で「あ!Hなことしたい!好きかも!」とかなら納得なんですが、小4の僕はそこまで「ませて」いませんでした(笑)
当時テレビでやっていたプロポーズ大作戦を見て「恋」を勉強したんでしょうか?恋愛感情はもともと時限爆弾的に私の脳にプログラムされていたのかも。それならなぜ小4で発現したのか。いやいや、同級生が話していたからなのか?じゃあその同級生はどこから恋愛感情を仕入れていたのか。わかんねえですね。
侑は好きという感情は愚か、ときめきすらもピンとこない状態で七海先輩と出会い、時間と共に関係性が変化していきます。
「好き」とは何なのか。

さらに言えば二人は女性同士ですから「種の生存」を伴わないわけですね。
私の好きな「どうせ、愛だ」から引用すると


穢れを知らぬまま ありのままの君を知りたい

ってやつです。
好きという気持ちについて作中で、あるタイミングで二人は答えを出します。
是非読んでください。

・対比が美しい。



「好き」を向けられる侑と「好き」を受け入れない七海
「心がときめかない」侑と「心ときめきまくり」の七海
余裕たっぷりで察して動ける七海と悩みいっぱいで余裕がない侑
侑の前では余裕のない七海と七海の変化にはすぐ気づける余裕たっぷりな侑
(1巻をよく見てみると、侑の友達たちは侑の表情を察して「大丈夫?」と声をかけているが、侑が自ら友人の表情を察して声をかけている描写はない。)
他にもアロマンティシズムをもつ「まき君」の登場や侑のお姉ちゃんの彼氏の「ヒロ君」など、話が進んでいくにつれて様々な登場人物たちが、違和感なく自然に対比構造で描かれています。

この対比があることで登場人物たちの変化が、青春の色味を帯びてダイレクトに伝わってきます。

【まとめ】
いかがでしょうか。1巻のさわりの部分だけに閉じて紹介してみました。話が進んでいくにつれて色んな事が起きて、分って、変わります。是非気になった方は読んで感想をコメントしてください。好きな方もコメント待ってます。
珈琲屋らしく、おすすめの珈琲でも書いときますか。
私なら深煎りの珈琲よりは中煎りのオレンジっぽい風味があるケニアなんか飲みながら読みたいです。
口に入れた瞬間に舌の両わきに感じるオレンジのような甘味と酸味、舌の上に広がるハイカカオチョコっぽいコクが、どことなく夕暮れ時の土手沿いを二人歩き話す青春のワンシーンが連想できる。呑み込んだ後、少し残るグレープフルーツみたいな苦味を感じながら二人に思いを馳せてみる。最高かもしれない。
あ、ちょっと後ろ通りますね。どこ行くかって?お湯沸かして「やが君」とってきます。

では、また会いましょう。


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