リモートワーカーを惹き寄せるZoom Townはワーケーションとは違う文脈で攻めている
先日、リモートワーカーにインセンティブを与えて移住を促進する、アメリカはウェストバージニア州のZoom Town(ズームタウン)の記事が目を引いた。
「ズームタウン」という言葉は日本では耳慣れないかもしれない。実はぼくも知らなかったが、毎日、Zoomを使って仕事しているのでおおよその察しはつきますね。
ウィキペディアにはこうある。
また、英語スラングを解説するこのサイトでは、「多くのリモートワーカーが移り住む町のこと」とした上で、
ただし、「現在、人口増加による負担を感じている町もあり、リモートワーカーが去った都市と同じように、負担が大きく、生活しにくい町になる可能性がある」とも言ってる。
確かに、その危険性は(今のところ)否定できそうにないが、今後ますますリモートワーカーは増え続け、移動し続けるのは間違いない。
で、この記事からざっと引用すると、
併せて、彼ら(移住者)がCo-op(生協)の組合員となり、市議会で地元の委員会ともつながり、非営利団体でボランティアの機会を探し、組織を作っていること、つまり、彼らがここをホームタウンとしていることも伝えている。リモートワーカーに対するインセンティブ作戦が見事に功を奏しているわけですね。
補足しておくと、そのAscend West Virginiaというのは、ここ。リモートワーカーにさまざまなサービスを提供している。
ウェストバージニアはアウトドアのメッカだから、その手のプログラムの充実ぶりはすごい。このビデオ見たら、そら行きたくなりますね。
地元のコミュニティへ招待してくれて新しい隣人やその家族とも交流を深められるし、無料のコワーキングスペースにもアクセスできる。←ここ大事。
ちなみに、Ascend West VirginiaはAirbnbと提携していて、リモートワーカーが移住先の不動産を買う前に、Airbnbがピックアップした別荘でしばらく滞在してテストドライブできるプログラムも用意している。
まったく至れり尽くせりだが、そこまでしてはじめてリモートワーカーの心を射止めることができる。言い換えれば、それぐらいしないと、リモートワーカー争奪戦に勝ち残れないとも言える。
しかも、その争奪戦は国内だけではなく外国とも戦わなければならないのだから、よっぽど本腰入れてプランを作らないと、上辺だけの観光目線で繕っててはすぐバレて誰も見向きもしなくなるのは火を見るより明らか。
そのことはこの記事で、世界各国がデジタルノマド・ビザを発行して有能なリモートワーカーを取り合っていることを書いた。ヴェネツィアやバリは最初からSTEAM分野に長けているミレニアル世代以下のリモートワーカーに焦点を絞っている。正しい判断だ。
リモートワークが一時の流行りではなくて、確固たる行動様式に裏付けられたムーブメントとして今後も続くことが証明されるにつれ、リモートワーカーは大都市での生活を避け、各地のユニークなズームタウンでより静かで手頃な暮らしを求めるようになっている。
一方でズームタウンは、リモートワーカーやデジタルノマドが移り住むことで、結果的に人口が増加している。要するに、win-winだ(古い)。
その際、地元住民との交流をいかにうまくアレンジして地域に溶け込むことをサポートできるかが問われる。いつも言うけど、その地のヒトとコトにフォーカスしてリモートワーカーを招き入れることが肝要。←ここ、日本の自治体もそろそろ気づいてきたかもしれない。
ちなみに、アメリカには470万人以上のリモートワーカーがいる。また、全労働力の58%が在宅勤務をしていると伝えられている。こうしたワーカーにとってズームタウンはワークライフバランスを実現するために最適な場所だ。
そして、これらの町は新しい住民の流入によって、これまでのバケーション地からホームタウンへと変貌しつつある。←ここも大事。というか、こうなることを地元自治体は求めているはず。
ところで、そのズームタウンってどこよ?と思って調べたら、北米に限るけれどもここで紹介されてた。
一応、地名だけリストにしておくと、
1.ベリンハム(ワシントン州)
2.ボイシ(アイダホ州)
3.バーリントン(バーモント州)
4.カーメル(インディアナ州)
5.ケアリー(ノースカロライナ州)
6.センテニアル(コロラド州)
7.フリーモント(カリフォルニア州)
8.キングストン(ニューヨーク州)
9.オレイサ(カンザス州)
10.ロアノーク(バージニア州)
正直、フリーモント以外、聞いたことがない。ここがオモシロイ。
ざっとまとめると
1ベッドルームの平均家賃 817ドル〜2,187ドル
住宅価格の中央値 291,000ドル〜1,330,000ドル
人口 24,069人〜235,684人
という規模感で、(家賃の高いカリフォルニア州フリーモントを除けば)おしなべて物価の安定したこじんまりした地方都市だ。実はこの町としてのスモール感がリモートワーカーにはまた別の価値(=居心地良さ)を感じさせていると考えられる。
小さければ、それだけ接触できる人も限られてくるが、逆に親密な交流関係も作れる。価値観や世界観を認め合える仲間がいることが、生身の人間には欠かせないとするならば、人の多すぎないコミュニティの中にいることは何かと都合がいい。きっとストレスも少ないはず。
だいたいどこも市内や近郊に大企業がある一方で、自然が豊かでアウトドアライフに事欠かなかったりするが、ちょっと目を引いたのは、バーモント州バーリントンはカレッジタウンで年齢の中央値が26歳である点。まさにZ世代が多いためか、住民もリモートワーカーやデジタルノマドを快く受け入れている(と書いてる)。
それと、忘れてはならないのが、コワーキングスペースがちゃんと整備されていること。どこも、特徴ある複数のコワーキングがワーカーを受け入れている。
で、また考えた。日本ならどうか。
日本の地方も自然が豊かだし、食べ物も美味いし、物価もそこそこ安定してる(いまのところ)。そこに使い勝手のいい、コミュニティとして参加できるコワーキングがあればズームタウンの骨格はできそうだ。
ぼくが各地のコワーキングを巡る「コワーキングツアー」をやっていて感じるのは、人口5万人〜10万人のサイズの町でも、地元の利用者にコミュニティとして愛用されているコワーキングが必ずある、ということ。中には17,500人の町(兵庫県佐用町)にも、なんなら7,400人の町(千葉県鋸南町)にも、ちゃんと存在する。
もちろん、都市圏のように毎日ユーザーが大挙して訪れる、ということはないにせよ、そこに暮らして仕事をする人と人をつなぐ、いわばハブとしてしっかり機能している。なのでそこを基軸に、ここで言うところのズームタウンを設計するのはアリだ。
…と書いてて思い出したが、そういう意味では、長野県のおためしナガノが日本のズームタウンのはしりかもしれない。これは最長6ヶ月だが、1年単位でやればどうだろうか。
ただしズームタウンは、ワーケーションという文脈でリモートワーカーを地方に誘致するのとは、やや趣を異にしていて、観光気分で惹きつけておいてあわよくば住民票を移してもらおうなどという姑息な(すみません)作戦ではなくて、ハナから移住する(させる)ことを目的にあらゆるインセンティブを整えて迎え入れる設計だ。
と書いてて、今思ったが、自治体が観光業界と組んで催行するワーケーションに決定的に欠けているのは、参加する者にどれだけ「その地で暮らし働く」感を表現できるか、だ。が、そこは観光業者には無理な相談だ。ズームタウンは、いきなりそこを攻めている、ということに注意を払うべきかと思う。
で、それを企画・設計・催行するのは、地元のコワーキングのほうが相応しい。
というか、むしろ、「ワーケーション」というバズワードを使わないほうがいい。そもそも、その言葉の使い方も間違ってるし。
いずれにしても、人とのかかわりをどう持つか、その接点をどう作るか、が大事になってくる。し、それこそがローカルコワーキングの果たす役割だ。
ここで、以前、「アメリカの移住促進策のインセンティブ10例から考えるリモートワーカーにとっての本当のインセンティブとは」で書いた一節を引く。
つまるところ、ここですね。
ところで、ウェストバージニアと言えば、ぼくらの世代ならこれを思い出す。「ここはもうほぼ天国(Almost heaven)」て歌ってる。
懐かしい。
それでは。
ここから先は
伊藤富雄のFuture of Work〜移働と共創の羅針盤〜
リモートワーク時代のワーク&ビジネスと、ローカル経済のエンジンとなるコワーキングスペースの運営に関する記事を配信しています。月4回更新。初…
最後までお読みいただき有難うございます! この記事がお役に立ちましたらウレシイです。 いただいたサポートは今後の活動に活用させていただきます。