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ローカルのスモールビジネスをハイブリッドに支援するための3つの言葉〜小さなコワーキングの作り方#1

※この記事は2022年3月27日に公開されたものです。

米、インディアナポリスのローカルコワーキング

ちょっと前のこの記事が目を引いた。

Humility, collaboration, and growth at Refinery46

紹介されているのはアメリカ、インディアナポリスのコワーキング、「Refinery46」

インディアナポリスってどこだと思って調べたら、いわゆる中西部のインディアナ州最大の町で、人口は887,642人(2020年)らしい。中西部ではシカゴ、オハイオ州コロンバスに次いで、全米でも第15位だそう。地図で見ると、このへん。シカゴの南ですね。

ウェブサイトはこちら。このローカル感がいい。

トップのコピーもいい。

Growing a business is hard. Refinery46 makes it easier. With cost effective growth space, a network of values driven peers, and a culture of excellence, Refinery46 companies Work Better.
(ビジネスを成長させるのは大変なことです。Refinery46はそれを簡単にします。費用対効果の高い成長スペース、価値観を共有する仲間たちのネットワーク、そして卓越した文化によって、Refinery46の企業はより良い業績をを実現しています)

で、気になったのはその記事のタイトルで、そこにこうある。

謙虚。コラボレーション。成長。

Humility. Collaboration. Growth.
謙虚。コラボレーション。成長。

ここを運営しているBrian Schutt氏は、ホームサービス業の中小企業経営者や起業家を支援するためにRefinery46を設立した。つまり、ここがフォーカスしているユーザーはイケイケな上昇志向にはやるスタートアップではなくて、地道に事業を行うスモールビジネスだ。

(※注 Small Businessって別に規模が小さいという意味ではない。既存の市場がある事業領域と言ったほうがいいかもしれない。スタートアップとは今までになかった市場を作ることだから。ついでに、スモールビジネスでもIT、ウェブを使うことは今どき当たり前。なので、逆に、IT系だからスタートアップとは限らないし、IT系でないスタートアップも存在する)

彼自身は元々、空調設備ビジネスのマーケティング担当者だった。だから、そういう思考が働くのだろう。そんな技術的な専門家ではなかった彼がビジネスを成功させた要因をこう言っている。

「ある時点で、自分の長所と限界を知る必要があります。自分の得意分野を生かし、それ以外のことは人に頼めばいいのです」

これは大賛成。できないことは頼めばいい。ぼくなんか人に頼んでばっかりだ。でもそれでチームができる。この人的リソースは貴重。

そこで、先の3つの言葉が出てくる。「謙虚。コラボレーション。成長。」

「私たちは会員が課題を発見し、解決できるような関係づくりを得意としています。
そして、それは時に自分の知らないことに取り組むために、ガードを緩めるようなものです。それが謙虚さです。
コラボレーションは、私たちがつなぐ関係の中から起こってきます。
そして、その結果、成長がもたらされるのです」

謙虚に協力を求めてコラボを組み、仕事に励んで、共に成長する。どんな仕事もビジネスも、たったひとりで成立するものは世の中に存在しない。これは真理だ。であるから、コワーキングという仕事する人と仕事する人をつなぐスキームが重要な役割を担う。とりわけ、ローカルビジネスではこの「協同労働」の概念が不可欠だ。

もしかすると、しばらくコロナで人とリアルに接触する機会が減ったせいで、このことを忘れていたかもしれない。

「クールでヒップな地域の南、多くの資本が集まるダウンタウンの北、本当の意味でのコミュニティがない商業地区の西、そしてバトラー大学の東に位置する無人の土地」という殺風景なロケーション(トップの画像をご覧あれ)に、30,000平方フィート(約2,787㎡、デカ!)の元工業用倉庫を利用して2017年に開設されたRefinery46は、しかし、その後、ホームサービス分野とその周辺で事業を行う企業やNPOを中心としつつも、より幅広い業種にもユーザー層を広げて資産価値を上げ地域の経済効果をぐんと高めている。

これ、日本の地方都市でも望まれている展開じゃないか。

起業というと、何十億の資金調達に成功したとか、グローバルな展開が期待されるとか、ややもすると、派手派手しいものに意識が向きがちだ。事実、コワーキングから身を起こして急成長したスタートアップも存在する。

だが、地域の地道なビジネスにもニーズがあり、未来があり、その成長がローカルを活性化しサステナブルにする。パッと咲いて散るより、目立たなくても着実に継続して価値を産んでいくほうがいい。

人と人を掛け合わせる「ハイブリッド」なソリューション

コロナの影響はインディアナポリスでも同じ。オンラインでの就業が当たり前になってる。けれども、それを受容しつつも、時には社員が顔を合わせて仕事できる環境を求める企業も多い。

そして、そういう環境が、新しい協業者を得て新規事業を起こすインキュベーションにもなっている。要するに、接続して発火する←ここ、大事。

「同じ考えを持つ起業家のコミュニティを活用したいと考える企業にとって、自分たちが知っていることを共有し、まだ知らないことを受け入れることができる場所なのです」

つまり、Refinery46はそういうニーズを持つユーザー(企業)に対して、人と人を掛け合わせるという意味での「ハイブリッド」なソリューションを提供している。(※注 オンラインとリアルを融合するハイブリッドとは違って、という意味)

このへん、昨今、コロナ禍のせいで一時、通勤を控えて在宅ワークを余儀なくされ、その後コロナがやや落ち着きを見せる中、リモートワークの洗礼を受けた企業がテナントビルから撤退するに及んで、不動産業界が複数の企業の社員が共同で利用するフレックススペースへと事業転換しているのに一見したところ似ているが、やや意味が違う。

ひとつは、対象としているのが地元のスモールビジネスの事業主であって大企業の社員ではないということ。もうひとつは、ただ場所を共用するだけではなく、彼らのコラボによって新しい価値を創造することが目的であること。

で、考えた。

この、スモールビジネスをつないで新しい価値を生むことを支援するのって、ローカルコワーキングがまずやるべきことじゃないのか?つまり、助け合う、てこと。

ここでまた持ち出すが、コワーキングの5大価値にそれが現されている。

・Accessibility(つながり)
・Openness (シェア)
・Collaboration (コラボ)
・Community (コミュニティ)
・Sustainability (継続性)

詳しくはこちらを。

これは浮世離れした精神論ではなくて、人間が互いに協力して生きていくための最低限の哲学だとぼくは思っている。

ユーザーのビジネスにガチでコミットするコワーキング

社会は個人の集合体であって、誰かが考えた社会の枠組みに個人が無理くりアジャストするのではなく、社会に対して、もっと言うと地球に対して何ができるか、という能動的な想念のある人が集って寄与し合う。そうして、社会はなんとかかんとか成立する。今どきの言葉で言えば、利他か。

※注 「利他」とは本来、見返りを期待しないでなされる行為を起点としていて、それをしたことで必ずしもリターンがあるかどうか判らないけれども、人智の及ぶ範囲の外にあるメカニズムが働いて事後的に具体的な利益が直接ではなく間接的にもたらされること。(『「利他」とは何か』よりざっくり要約。この本、オススメ)

コワーキングは、それを見える化する格好のシチュエーションだ。共同体としてのこれからの社会のミニチュアであり縮図であり、こんなにわかりやすいモデルはないと思う。ただの作業場でなければだけど。正直、学生、いや、小さな子供もたまにはコワーキングで1日過ごせばいいと思ってる。

何ができるかは個々に違っても、また、思ったとおり出来なくとも、少なくともコワーキングの運営者はこのことを弁えておきたい。そうすることで、そのスペースも社会に貢献できるわけだし。

注意したいのは、「コワーキング」をやろうとしてるのではなくて、価値を生むための仕組みを考えたら、作ったら、それがコワーキングだったということ。目的と手段、この主客が逆転しては元も子もない。

そうそう、逆転してるから道に迷ってしまう。誰に対してこの環境を提供しているのか、彼らが求めていることは何か、そこはぼくも常に考えている。

ただし、コワーキングと言えども事業だから、継続のための収益が必要だ。と言っても、コワーキングは場所を貸すだけが能ではない。それよりも、ユーザーのビジネスにコミットするプレイヤーとしての立ち位置を考えるべき。

コワーキング(運営者)自身が、どういう役割りで何ができるかを考えれば、自ずとどんなコワーキングにするべきかがわかる。そうすると、ただの場所貸し業ではない、別の「ビジネス」が起動する。これが動き出すと実に楽しい。というか、楽しくなければビジネスではないし、第一、楽しくなければ続けられない。

そうしていくうちに、そのビジネスの拠点としてそのコワーキングが生きてくる。そこから派生して違うビジネスも回りだす。

だから、コラボをアレンジするコミュニティーマネージャーは、社会経験のない大学生のアルバイトでは残念ながら務まらない。少なくとも、ビジネスしている人、それがスモールであろうがスタートアップであろうが、ビジネスにコミットしているプレイヤー、人材であることが望ましい。

それはなにも高名なビジネスコンサルタントである必要はまるでない。むしろ、地元で長年ビジネスしてきた人に、ユーザーとして関わってもらいながら、コミュニティの中でアドバイスを交換する、そういうプラットフォームを作るほうがはるかに有益だ。コンサルの一般論より、プレイヤーの具体論のほうがよっぽど役に立つ。それも成功談ではなくて失敗談のできる人。

そして、もちろん、そういう人がコミュニティマネージャーとして常駐しているなら、なおさらいい。Brian Schutt氏のように。僭越ながらぼくもそのひとり。いっぱい失敗してるし。

ついでに書いとくと、コラボに参加して収益を上げるユーザーが協働で(共同で、協同で)コワーキングを運営することを検討してもいい。シェアオフィスならぬ、シェアコワーキング。いっそ、協同組合組織にして運営するケースも海外にはある。(これはマジでぼくも検討中だが、それはまた別の機会に書こう)

さらにそこに行政もコミットする官民協働型のコワーキングを模索する、提案するのもアリだろう。 これも協同労働のひとつのスタイルであり、コワーキングの概念にフィットする。

そのことを思い起こさせる言葉が、「謙虚。コラボレーション。成長。」Refinery46の壁にもしっかり掲げられてる。ガチ。

(出典:COWORKSウェブサイト)

コワーキングを語る時、空間運営などとまことしやかに語られるが、そんなフワフワした言葉に惑わされてはいけない。そこに集う人たちのコミュニティを運営するから価値を生む。ハコが勝手に価値を産むことはない。

で、こういうことは、小さなコワーキングでこそやりやすい。最初期にこういうカルチャーを作っておくと、将来、どれだけ規模が拡張しようともブレずに済むし、新たなプレイヤーを巻き込みながらビジネスを起ち上げ継続するエコシステムが作れる。コワーキングの社会に対する役割はまさにこれだ。

謙虚にコラボしてともに成長する。ローカルコワーキングがまずやるべきことは、これです。

◆一般のコワーキングスペースの開業・運営に関するご相談はこちらからどうぞ。

◆地方自治体主催のコワーキングスペース運営講座の企画についてははこちらからどうぞ。

(Cover Photo : Refinery46ウェブサイト )

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